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第11話 六階層へ

 翌朝。


 朝食を終えたグレンは、剣を腰へ差しながらアイリへ声を掛けた。


「今日は六階層へ行こうと思う。」


 アイリは少し驚いたように目を丸くした。


「ついに?」


「ああ。」


 グレンは頷く。


「でも攻略するつもりはない。」


「様子見?」


「そうだ。」


 剣の柄へ手を添えながら続ける。


「危ないと思ったらすぐ引き返す。」


「今日は六階層がどんな場所なのかを見るだけだ。」


 アイリは安心したように微笑んだ。


「それなら賛成。」


「焦る必要はないからな。」


 二人は装備を整え、フォルン冒険者ギルドへ向かった。



「おはようございます!」


 受付では、いつものようにミーナが笑顔で迎えてくれる。


「今日はどちらの依頼にしますか?」


「オーク五体討伐を頼む。」


「はい!」


 依頼書を受け取りながら、ミーナが微笑む。


「最近のお二人なら、もっと上の依頼でも大丈夫そうですけど。」


 グレンは苦笑した。


「無理はしない主義なんだ。」


「お二人らしいですね。」


 依頼を受けた二人はダンジョンへ向かった。



 五階層までは何事もなく進む。


「今日は帰りに五体倒そう。」


 グレンが言う。


「先に六階層を見るんだね。」


「ああ。体力があるうちに見ておきたい。」


 二人は階段を下り、初めて六階層へ足を踏み入れた。


 ひんやりとした空気が頬を撫でる。


 通路は五階層より広く、壁には無数の剣傷が刻まれていた。


「雰囲気が違うね。」


「ああ。」


 グレンは慎重に周囲を見回す。


「ここから先は気を引き締めよう。」


 二人が歩き始めて間もなく。


「止まって。」


 グレンが小さく手を上げた。


 アイリもすぐ足を止める。


「どうしたの?」


「この先……何かある。」


 床へ視線を落とす。


 一枚だけ、わずかに沈んでいる石畳。


 剣の鞘で軽く押す。


 カチッ。


 次の瞬間。


 壁から鋭い槍が勢いよく飛び出した。


 ガガガガッ!


「きゃっ!」


 アイリが息を呑む。


「危なかった……。」


 グレンも静かに息を吐いた。


「罠察知がなかったら踏んでたな。」


「本当に覚えてよかったね。」


「ああ。」


 二人は慎重に罠を避け、さらに奥へ進んだ。


 やがて重い足音が響く。


 現れたのは革鎧を着け、剣と丸盾を持った魔物だった。


「普通のオークじゃない。」


「オークファイターだな。」


 グレンは剣を抜いた。


「行く。」


 先制のスマッシュウェーブ。


 衝撃波が一直線に飛ぶ。


 しかし。


 オークファイターは素早く盾を構えた。


 ドンッ!


 身体は少し後ろへ下がったが、致命傷にはならない。


「防いだ!?」


 アイリが驚く。


「盾持ちは厄介だな。」


 グレンは距離を詰めた。


 剣と盾が激しくぶつかる。


 ギィンッ!


 重い。


 普通のオークとは比べものにならない。


 それでもノックバックで距離を取り、再びスマッシュウェーブを放つ。


 最後は連続斬りで仕留めた。


「五階層より手強いね。」


「ああ。でも勝てない相手じゃない。」


 二人は慎重に進み続ける。


 すると再び足音が響いた。


 今度は二体。


「二体か。」


「グレン!」


「大丈夫だ。」


 スマッシュウェーブ。


 一体は吹き飛ぶ。


 だがもう一体は盾で受け止め、その隙に距離を詰めてくる。


「くっ!」


 グレンはノックバックで押し返す。


 しかし、その間にもう一体が立て直してしまう。


「思ったより時間がかかる……。」


 アイリは支援魔法を掛けながら歯がゆそうに呟いた。


「私も攻撃できたら……。」


 その一言に、グレンはハッとした。


 戦闘を終え、二人はその場で息を整える。


「大丈夫?」


「ああ。」


 グレンは頷いた。


「でも、アイリの言うとおりだ。」


「え?」


「今の戦い。」


「アイリが一発でも攻撃魔法を撃てたら、もっと早く終わってた。」


 アイリは少し考え込む。


「私は支援しかできないからね。」


「十分助かってる。」


 グレンは笑う。


「でも、もう一つ手札があれば。」


「もっと安全に戦える。」


 アイリも頷いた。


「攻撃魔法か。」


「ああ。」


 グレンは静かに前を見据える。


「帰ったら合成してみよう。」


「うん。」


 二人はそれ以上奥へ進まず、来た道を引き返した。


 今日は六階層を知ること。


 そして、自分たちに足りないものを知ること。


 それだけで十分な収穫だった。

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