第11話 六階層へ
翌朝。
朝食を終えたグレンは、剣を腰へ差しながらアイリへ声を掛けた。
「今日は六階層へ行こうと思う。」
アイリは少し驚いたように目を丸くした。
「ついに?」
「ああ。」
グレンは頷く。
「でも攻略するつもりはない。」
「様子見?」
「そうだ。」
剣の柄へ手を添えながら続ける。
「危ないと思ったらすぐ引き返す。」
「今日は六階層がどんな場所なのかを見るだけだ。」
アイリは安心したように微笑んだ。
「それなら賛成。」
「焦る必要はないからな。」
二人は装備を整え、フォルン冒険者ギルドへ向かった。
◇
「おはようございます!」
受付では、いつものようにミーナが笑顔で迎えてくれる。
「今日はどちらの依頼にしますか?」
「オーク五体討伐を頼む。」
「はい!」
依頼書を受け取りながら、ミーナが微笑む。
「最近のお二人なら、もっと上の依頼でも大丈夫そうですけど。」
グレンは苦笑した。
「無理はしない主義なんだ。」
「お二人らしいですね。」
依頼を受けた二人はダンジョンへ向かった。
◇
五階層までは何事もなく進む。
「今日は帰りに五体倒そう。」
グレンが言う。
「先に六階層を見るんだね。」
「ああ。体力があるうちに見ておきたい。」
二人は階段を下り、初めて六階層へ足を踏み入れた。
ひんやりとした空気が頬を撫でる。
通路は五階層より広く、壁には無数の剣傷が刻まれていた。
「雰囲気が違うね。」
「ああ。」
グレンは慎重に周囲を見回す。
「ここから先は気を引き締めよう。」
二人が歩き始めて間もなく。
「止まって。」
グレンが小さく手を上げた。
アイリもすぐ足を止める。
「どうしたの?」
「この先……何かある。」
床へ視線を落とす。
一枚だけ、わずかに沈んでいる石畳。
剣の鞘で軽く押す。
カチッ。
次の瞬間。
壁から鋭い槍が勢いよく飛び出した。
ガガガガッ!
「きゃっ!」
アイリが息を呑む。
「危なかった……。」
グレンも静かに息を吐いた。
「罠察知がなかったら踏んでたな。」
「本当に覚えてよかったね。」
「ああ。」
二人は慎重に罠を避け、さらに奥へ進んだ。
やがて重い足音が響く。
現れたのは革鎧を着け、剣と丸盾を持った魔物だった。
「普通のオークじゃない。」
「オークファイターだな。」
グレンは剣を抜いた。
「行く。」
先制のスマッシュウェーブ。
衝撃波が一直線に飛ぶ。
しかし。
オークファイターは素早く盾を構えた。
ドンッ!
身体は少し後ろへ下がったが、致命傷にはならない。
「防いだ!?」
アイリが驚く。
「盾持ちは厄介だな。」
グレンは距離を詰めた。
剣と盾が激しくぶつかる。
ギィンッ!
重い。
普通のオークとは比べものにならない。
それでもノックバックで距離を取り、再びスマッシュウェーブを放つ。
最後は連続斬りで仕留めた。
「五階層より手強いね。」
「ああ。でも勝てない相手じゃない。」
二人は慎重に進み続ける。
すると再び足音が響いた。
今度は二体。
「二体か。」
「グレン!」
「大丈夫だ。」
スマッシュウェーブ。
一体は吹き飛ぶ。
だがもう一体は盾で受け止め、その隙に距離を詰めてくる。
「くっ!」
グレンはノックバックで押し返す。
しかし、その間にもう一体が立て直してしまう。
「思ったより時間がかかる……。」
アイリは支援魔法を掛けながら歯がゆそうに呟いた。
「私も攻撃できたら……。」
その一言に、グレンはハッとした。
戦闘を終え、二人はその場で息を整える。
「大丈夫?」
「ああ。」
グレンは頷いた。
「でも、アイリの言うとおりだ。」
「え?」
「今の戦い。」
「アイリが一発でも攻撃魔法を撃てたら、もっと早く終わってた。」
アイリは少し考え込む。
「私は支援しかできないからね。」
「十分助かってる。」
グレンは笑う。
「でも、もう一つ手札があれば。」
「もっと安全に戦える。」
アイリも頷いた。
「攻撃魔法か。」
「ああ。」
グレンは静かに前を見据える。
「帰ったら合成してみよう。」
「うん。」
二人はそれ以上奥へ進まず、来た道を引き返した。
今日は六階層を知ること。
そして、自分たちに足りないものを知ること。
それだけで十分な収穫だった。




