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アラフォー冒険者、今日も嫁のために頑張ります  作者: 榊紅丸
第二章 冒険者都市ルグリア編
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第112話 建築

 Aランクへ昇格した翌日。


 朝食を終えたグレンは、居間のテーブルに青いスキルブックを並べていた。


「また合成するの?」


「ああ。全部じゃないけどな。」


 ルグリア冒険者ギルドで大量の白いスキルブックを合成した報酬として受け取ったもの。


 青だけでもかなりの数がある。


 グレンは一冊ずつ確認していく。


「これは使わないな。」


「こっちも?」


「ああ。」


「ミャ。」


 ミケもテーブルへ前足を乗せ、スキルブックを覗き込んでいる。


「お前が使えそうなのがあったら残すからな。」


「ミャ!」


『ミケも!』


「分かってるって。」


 必要なものは覚える。


 使い道がありそうなら保管。


 今の三人には必要ないものだけを合成する。


 三冊を選び、重ねた。


《スキルブック合成》。


 青い光が重なり。


 一冊の紫色のスキルブックへ変わった。


「さて。」


 グレンが表紙を見る。


《建築》。


「……建築?」


「家を建てるやつ?」


「だと思う。」


 グレンはページを開いた。


 建物の設計。


 基礎。


 柱。


 梁。


 壁。


 屋根。


 建材の選定。


 必要な材料の計算。


 それらに関する知識が一気に頭へ入ってくる。


「うわ……。」


「どうしたの?」


「思ってたより本格的だ。」


 グレンは目を閉じる。


 頭の中にあるのは、この世界の建築技術。


 だが。


 それだけではなかった。


 前世の記憶。


 鉄筋。


 コンクリート。


 二階建ての住宅。


 昔は見ても、


 丈夫そうな家だ。


 その程度にしか思っていなかった。


 当然、建て方なんて知らない。


 だが今は違う。


《建築》によって得た知識が、前世の記憶と繋がっていく。


「……できるな。」


「何が?」


「家。」


「家?」


「ああ。」


 グレンは周囲を見る。


 今住んでいるのは借家。


 決して悪い家ではない。


 冷蔵庫もある。


 洗濯魔道具もある。


 暖房も付けた。


 生活するだけなら十分だ。


 だが。


「俺たち、Aランクになっただろ。」


「うん。」


「金にも余裕がある。」


「そうだね。」


「だったら。」


 グレンは笑った。


「自分たちの家、建てないか?」


「え?」


「ミャ?」


 アイリが少し考える。


「グレンが?」


「ああ。」


「家を?」


「ああ。」


「建てるの?」


「そのための《建築》だろ。」


「そうだけど……。」


 アイリが笑い出した。


「グレン、本当に何でもするようになったね。」


「俺もそう思う。」


 剣を振って。


 鍛冶をして。


 魔道具を作って。


 裁縫までして。


 今度は家。


「冒険者なんだけどな。」


「Aランク冒険者だね。」


「余計に何やってるんだろうな。」


「ミャ!」


『おうち!』


「そうだぞ。ミケの家でもある。」


「ミャー!」


 ミケが嬉しそうに尻尾を振る。


「どんな家にするの?」


「二階建て。」


「大きいね。」


「せっかく建てるならな。」


 グレンは頭の中で形を考える。


 木造ではない。


 石造りでもない。


 せっかく前世の知識がある。


「鉄筋で作ってみようと思う。」


「鉄筋?」


「鉄の棒を骨組みみたいに組んで、その周りを固める。」


「それで家になるの?」


「前世じゃ普通にあった。」


「へえ……。」


 もっとも。


 前世のグレンは建築職人ではなかった。


 詳しい施工方法など知らなかった。


 だが《建築》を得た今なら、自分の記憶にある建物を、この世界の材料と技術に合わせて形にできる。


「かなり丈夫な家になると思う。」


「それはいいね。」


「問題は重さだな。」


「重さ?」


「ああ。」


 鉄筋を使い、頑丈な二階建てにする。


 当然、木造の家とは比べものにならないほど重くなる。


 普通なら。


 しっかりした基礎を作り、地面へ固定する必要がある。


「……。」


 そこで。


 グレンは止まった。


「グレン?」


「いや。」


 頭の中で何かが引っかかった。


 家。


 基礎。


 地面。


 固定。


 そして。


《ストレージ》。


「……待てよ。」


「何?」


「家って、地面に固定しないと駄目なのか?」


「え?」


「いや、普通は固定する。」


「うん。」


「でも俺たちの場合は……。」


 グレンは考える。


 地面へ杭を打ち込まない。


 巨大な一枚の土台を作る。


 その上へ鉄筋の二階建て住宅を丸ごと建てる。


 地面とは接しているだけ。


 建物そのものは完全に独立した一つの構造物。


 そうすれば。


「……入るかもしれない。」


「何に?」


「ストレージ。」


「……。」


 アイリが黙った。


 数秒後。


「家が?」


「ああ。」


「ストレージに?」


「たぶん。」


「……グレン。」


「なんだ?」


「それ、家を持って歩くってこと?」


「そうなるな。」


「ミャ?」


『おうち、もつ?』


「持つぞ。」


「ミャー!」


 ミケはなぜか嬉しそうだった。


「待って。」


 アイリが笑いを堪えている。


「それなら引っ越す時は?」


「土地さえあればいい。」


「家をしまって?」


「新しい土地に出す。」


「……。」


「引っ越し完了。」


 アイリがとうとう吹き出した。


「そんな引っ越し聞いたことないよ。」


「俺もない。」


 だが。


 できる可能性は高い。


 そしてグレンは、もう一つ思いついた。


「……ダンジョンにも持っていけるな。」


「え?」


「家を。」


「……。」


「結界魔道具も家に組み込んでおけば。」


「グレン。」


「なんだ?」


「もしかして。」


 アイリも気づいたらしい。


「ダンジョンの中で家に泊まるつもり?」


「駄目か?」


「駄目じゃないけど……。」


 アイリは少し考えて。


「お風呂も?」


「作る。」


「キッチンも?」


「当然。」


「暖房は?」


「付ける。」


「冷蔵庫。」


「置く。」


「洗濯魔道具。」


「置く。」


「ベッド。」


「いつものを使えばいい。」


「……。」


 アイリが笑った。


「それ、もう野営じゃないね。」


「ああ。」


 グレンも笑う。


「家だな。」


「ミャー!」


『おうち!』


 ダンジョンを攻略して。


 疲れたら家を出す。


 結界を張る。


 風呂へ入り。


 飯を食い。


 自分たちのベッドで眠る。


 翌朝。


 家をストレージへ収納して、そのまま攻略を再開する。


「……いいな。」


「グレン、楽しそう。」


「そりゃ楽しいだろ。」


 前世では。


 家を建てるなんて考えたこともなかった。


 ましてや。


 持ち運べる二階建て住宅など。


 考えるだけで馬鹿馬鹿しい。


 だが。


 この世界なら。


 前世の知識。


《建築》。


《魔道具作成》。


《ストレージ》。


 全部を組み合わせればいい。


「よし。」


 グレンは立ち上がった。


「まず土地を探すか。」


「今日から?」


「思いついたら試したい。」


「やっぱり。」


 アイリも立ち上がる。


「じゃあ三人で探しに行こうか。」


「ミャ!」


『いく!』


 Aランクになった翌日。


 塔へ行くでもなく。


 依頼を受けるでもなく。


 グレンたちは。


 家を建てるための土地を探しに行くことになった。

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