第111話 Aランク
三人が動く。
先に仕掛けたのはアイリだった。
「《フレイムウォール》!」
ベルガーの背後に炎の壁が立ち上がる。
「退路を塞ぐか。」
「ミケ!」
「ミャ!」
《アーススパイク》。
左右から岩の棘。
ベルガーの動ける範囲が狭まる。
「グレン!」
「ああ!」
正面からグレンが走る。
ベルガーが大剣を構えた。
「来い!」
グレンはヴァリアントへ魔力を流す。
《暗黒剣》。
刀身を闇が包んだ。
「今度は闇か!」
「受けてみろ!」
ヴァリアントと大剣が激突する。
闇の魔力がベルガーの大剣を伝う。
「ぐっ!」
ベルガーの動きが僅かに鈍る。
「なるほど。これが暗黒剣か。」
「まだだ!」
グレンが離れる。
入れ替わるようにアイリが踏み込んだ。
《三段突き》。
一撃目。
ベルガーが大剣で受ける。
二撃目。
横へ逸らす。
三撃目。
「っ!」
穂先がベルガーの肩当てを掠めた。
「ミャー!」
《サンダーチェイン》。
雷撃。
ベルガーが大剣を盾にする。
だが。
「そこ!」
《アイスランス》。
アイリの魔法が反対側から飛ぶ。
「ちっ!」
ベルガーが身体を捻る。
氷の槍が防具を掠めた。
その瞬間。
「《瞬影斬》!」
グレンが一気に間合いを詰める。
その勢いのまま、ヴァリアントを振り抜いた。
「ふん!」
ベルガーが大剣で受ける。
激突。
グレンはそのまま斬り抜け、ベルガーの横を通過する。
「アイリ!」
「うん!」
《薙ぎ払い》。
反対側からグリムゾンティアが迫る。
「おおっ!」
ベルガーが大剣を振るう。
薙刀とぶつかる。
アイリの身体が押される。
だが。
「ミャ!」
《アーススパイク》。
ベルガーの足元。
「っ!」
ベルガーが後ろへ跳ぶ。
そこには炎の壁。
「なるほど。」
ベルガーが笑った。
「逃がす気はないか。」
「試験だからな!」
グレンが再びヴァリアントを構える。
《雷鳴剣》。
雷が刀身を包む。
「行くぞ!」
正面からグレン。
右からアイリ。
後方にはミケ。
ベルガーが大剣を握り直した。
「面白い!」
踏み込む。
グレンとベルガーが激突。
雷が弾ける。
「ぐっ!」
ベルガーの腕が痺れる。
「アイリ!」
「《三段突き》!」
一撃。
二撃。
三撃。
ベルガーが大剣で受け続ける。
だが。
最後の一撃で大剣が外側へ弾かれた。
「ミャー!」
《サンダーチェイン》。
「っ!」
雷撃がベルガーを捉える。
身体が止まった。
「今!」
グレンが踏み込む。
ヴァリアントを振る。
その刃が。
ベルガーの首元で止まった。
「……。」
静寂。
ベルガーがグレンを見る。
「どうする?」
「いや。」
ベルガーは大剣を下ろした。
「十分だ。」
グレンもヴァリアントを下ろす。
「終わり?」
「ああ。」
ベルガーが息を吐いた。
「これ以上見るものはない。」
「まだ時間残ってるぞ。」
「時間いっぱい戦うことが目的ではない。」
「それもそうか。」
ベルガーが三人を見る。
「近接戦闘、遠距離攻撃、魔法、支援。そして三人の連携。」
「いつもやってることだけどな。」
「それができているなら十分だ。」
ベルガーは大剣を鞘へ戻した。
「戦闘力も問題ない。」
「じゃあ?」
「ああ。」
ベルガーが笑う。
「合格だ。」
「……本当に?」
「なんだ。不満か?」
「いや。」
グレンは頭を掻く。
「なんか実感がなくてな。」
「グレン。」
「ん?」
アイリが笑う。
「私たち、Aランクだって。」
「ああ。」
「ミャ!」
『ミケも!』
「ん?」
グレンがミケを見る。
「ミケは冒険者じゃないだろ。」
「ミャ……。」
耳がぺたんと下がった。
「あ。」
「グレン。」
「分かってる。」
グレンはしゃがみ、ミケの頭を撫でる。
「ミケはAランクじゃない。」
「ミャ……。」
「お前はSSランクだぞ。」
「ミャ!」
耳が立った。
『えすえす!』
「ああ。俺たちよりずっと上だ。」
「ミャー!」
『ミケ、つよい!』
「機嫌直った。」
アイリが笑う。
「単純で助かる。」
「ミャ!」
冒険者になって五年。
最初はDランクだった。
それが今では。
「五年でAランクか。」
「早かったね。」
「ああ。」
グレン自身、こんなところまで来るとは思っていなかった。
◇
冒険者ギルド。
受付へ戻ると、エレナが二人のギルドカードを受け取った。
「では、更新します。」
「ああ。」
しばらくして。
「お待たせしました。」
二枚のギルドカードが返される。
グレン。
Aランク。
アイリ。
Aランク。
「本当に変わってるな。」
「当然です。」
「ちょっとくらい感動させてくれ。」
「では、もう一度お返ししましょうか?」
「そういうことじゃない。」
アイリが笑う。
「エレナさん、ありがとうございます。」
「おめでとうございます。」
エレナも笑顔を見せた。
「グレンさん、アイリさん。Aランク昇格、おめでとうございます。」
「ありがとう。」
「ミャ!」
ミケがエレナを見上げる。
「もちろんミケちゃんもお疲れさまでした。」
「ミャー!」
『えすえす!』
「……SS?」
「さっき教えたら気に入ったらしい。」
「そういうことですか。」
エレナが笑いながらミケの頭を撫でる。
「ミケちゃんはSSランクですものね。」
「ミャ!」
『えすえす!』
「完全に覚えたな。」
「しばらく言いそうだね。」
「間違いない。」
グレンは自分のギルドカードを見る。
Aランク。
五年前。
冒険者になったばかりの頃には、考えたこともなかった。
「さて。」
「グレン?」
「帰るか。」
「え?」
「腹減った。」
「もう?」
「試験で動いたからな。」
「ミャ!」
『ごはん!』
「ほら、ミケも。」
「似た者同士ですね。」
エレナが笑う。
「じゃあ帰ろうか。」
「ああ。」
Aランクになっても。
やることは変わらない。
無理をせず。
危険を減らして。
三人で帰る。
それでいい。




