第113話 土地探し
家を建てる。
そう決めたグレンたちは、その日のうちに冒険者ギルドへ向かった。
「土地ですか?」
「ああ。」
受付にいたエレナが、少し意外そうな顔をする。
「家を建てようと思ってな。」
「今のお家を出るんですか?」
「そのつもり。」
「何か不満でもありましたか?」
「いや。普通に住みやすいぞ。」
冷蔵庫。
洗濯魔道具。
暖房。
必要なものは揃っている。
アイリとミケとの三人暮らしなら、広さにも困っていない。
「じゃあ、どうして?」
「《建築》を覚えた。」
「……はい?」
「紫のスキルブックができてな。」
「それで家を建てるんですか?」
「ああ。」
「グレンさん。」
「なんだ?」
「Aランクになったばかりですよね?」
「昨日な。」
「普通はもっと高難度の依頼を受けようとか考えませんか?」
「今は家の方が面白そうだ。」
「……そうですか。」
エレナが諦めたように息を吐く。
「それで、どのような土地をお探しですか?」
「広めがいい。」
「具体的には?」
「家を建てても、周りにかなり余裕があるくらい。」
「庭が欲しいの?」
アイリが聞く。
「ああ。ミケも走れるだろ。」
「ミャ!」
『はしる!』
「それなら広い方がいいね。」
「あと、できれば街の端だな。」
「中心部ではなく?」
「ああ。」
グレンは頷く。
「周りに家が密集してる場所は困る。」
「どうしてですか?」
「家を出すから。」
「……出す?」
「ストレージから。」
「……。」
エレナが黙った。
「グレンさん。」
「なんだ?」
「家を建てるんですよね?」
「建てるぞ。」
「なのにストレージへ入れるんですか?」
「その予定。」
「家を?」
「ああ。」
「……。」
エレナがアイリを見る。
アイリは笑いながら頷いた。
「私もさっき聞いたところ。」
「止めなかったんですか?」
「便利そうだから。」
「そうですか……。」
エレナが額へ手を当てる。
「一応聞きますが、どうやって家をストレージへ?」
「地面と繋げない。」
「はい?」
「大きな土台を作って、その上に家を丸ごと建てる。地面には固定しない。」
「倒れませんか?」
「そこは《建築》でちゃんと計算する。」
「……。」
「鉄筋の二階建てにするから、かなり重くなるしな。」
「鉄筋?」
「そこは説明すると長い。」
「そうしてください。」
エレナは深く追及しなかった。
「つまり、土地には家を固定しないと。」
「ああ。」
「必要な時だけ家を出す?」
「そうなる。」
「留守の時は?」
「ストレージ。」
「……泥棒は?」
エレナが聞いた。
グレンが止まる。
「入れないな。」
「家がありませんからね。」
「完璧じゃないか。」
「今気づいたんですか?」
「ああ。」
アイリが笑う。
「鍵もいらないね。」
「いや、俺たちが家にいる時はいるだろ。」
「あ、そっか。」
「ミャ。」
『ミケいる!』
「ミケが留守番してたら、それだけで泥棒は逃げそうだけどな。」
「ミャ!」
『えすえす!』
「はいはい。SSランクな。」
「ミャー!」
エレナの表情が緩んだ。
「ミケちゃんはSSランクですものね。」
「ミャ!」
満足そうに尻尾が立つ。
「それで、土地なんだけど。」
「少々お待ちください。」
エレナが奥へ向かう。
しばらくして、何枚かの資料を持って戻ってきた。
「冒険者ギルドでも、売却予定の土地についてある程度情報があります。」
「助かる。」
「条件に合いそうなのは、この辺りですね。」
エレナが地図を広げた。
街の中心から離れた場所。
東側。
南側。
そして北西側。
「東側は塔へ行くには便利です。」
「近いのか。」
「はい。ただ、その分冒険者の往来が多いです。」
「家を出したり消したりしてたら目立つな。」
「間違いなく。」
「却下。」
「南側は比較的静かです。ただし住宅が増え始めています。」
「将来的に家が増えるか。」
「可能性は高いですね。」
「じゃあ、こっち。」
グレンが北西側を指す。
「ここは?」
「街壁に近い土地です。中心部からは少し離れますが、周囲にはまだ建物がほとんどありません。」
「広さは?」
「かなりあります。」
「見に行ける?」
「もちろんです。」
「じゃあ行こう。」
「今からですか?」
「思いついたら試したいんだよ。」
「昨日も聞いた気がします。」
「気のせいだ。」
「気のせいではありません。」
エレナが立ち上がった。
「私が案内します。」
「仕事は?」
「今は交代できます。」
「いいのか?」
「変な土地を買われて、あとから相談される方が困ります。」
「信用ないな。」
「グレンさんですから。」
「どういう意味だよ。」
アイリが笑っている。
◇
街の北西。
中心部から歩き、街壁が見える場所までやってきた。
「ここです。」
「おお。」
グレンは周囲を見渡した。
広い。
想像していた以上だった。
隣接する建物も少ない。
地面も比較的平坦。
家を置くには悪くない。
「ミャー!」
ミケが走り出す。
「あっ、ミケ!」
『ひろい!』
草の上を駆け回る。
「気に入ったみたいだね。」
「みたいだな。」
グレンは土地の中央まで歩いた。
しゃがんで地面を見る。
《建築》を覚えたことで、以前とは見え方が違う。
地面の傾斜。
硬さ。
水が溜まりやすい場所。
建物を置いた場合の荷重。
いろいろなことが自然と分かる。
「どう?」
「悪くない。」
「家を置けそう?」
「ああ。ただ少し整地は必要だな。」
グレンが立ち上がる。
「鉄筋の二階建てを置いても問題ないと思う。」
「それならここにする?」
「まだ決めるのは早い。」
「珍しいですね。」
後ろからエレナが言った。
「俺だって高い買い物は考えるぞ。」
「家をストレージに入れようとしている人の言葉とは思えません。」
「それとこれは別だ。」
グレンは土地を歩いていく。
十分な広さがある。
家。
庭。
作業場。
それでも余裕が残る。
「……ここなら。」
頭の中に家の形が浮かんでくる。
一階。
広い居間。
キッチン。
風呂。
トイレ。
魔道具を作るための作業部屋。
二階。
自分とアイリの寝室。
客室。
収納。
「客室も作るの?」
グレンが考えていることを話すと、アイリが聞いた。
「あった方がいいだろ。」
「誰が泊まるの?」
「エレナとか。」
「私ですか?」
「遊びに来て遅くなることもあるだろ。」
「……まあ、あるかもしれませんけど。」
「なら一部屋あっても困らない。」
「ミャ!」
走り回っていたミケが戻ってくる。
『ミケのへや!』
「お前も欲しいのか?」
「ミャ!」
『いる!』
「普段俺たちの寝室で寝てるだろ。」
『いる!』
「分かった分かった。」
アイリが笑う。
「作ってあげたら?」
「使うと思う?」
「最初は喜ぶんじゃない?」
「最初は、か。」
「ミャ!」
『つかう!』
「じゃあ作るか。」
グレンはもう一度土地を見る。
家を建てる。
前世でも持ったことのない。
自分たちの家。
しかも。
どこへでも持っていける家。
「アイリ。」
「うん。」
「ここ、どう思う?」
「私は好き。」
「ミケ。」
「ミャ!」
『ここ!』
「だそうだ。」
グレンはエレナを見る。
「ここ買う。」
「結局すぐ決めるんですね。」
「二人が気に入ったからな。」
「そうですか。」
エレナが微笑む。
「では、手続きを確認しておきます。」
「頼む。」
グレンは土地の中央に立った。
ここに。
自分とアイリとミケの家を建てる。
「まずは設計だな。」
「楽しみだね。」
「ああ。」
「ミャー!」
塔の二十一階層より先に。
やることが決まった。




