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アラフォー冒険者、今日も嫁のために頑張ります  作者: 榊紅丸
第二章 冒険者都市ルグリア編
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第109話 Aランク昇格試験

 ギルドの倉庫。


 グレンの前には、大量の白いスキルブックが積まれていた。


「……本当に千冊あるな。」


「ありますね。」


「ミャー。」


 アイリに抱かれたミケが、積み上がったスキルブックを見上げる。


「フォルンの三百冊が可愛く見える。」


「頑張って。」


「アイリは他人事だな。」


「私にはできないから。」


「それを言われると何も言えない。」


 グレンは手前の二冊へ手を置いた。


「じゃあ、やるか。」


「《スキルブック合成》。」


 二冊の白いスキルブックが、一冊の緑へ変わる。


 そこからはひたすら繰り返した。


 白から緑。


 緑から青。


 途中で休憩を挟みながら合成を続ける。


 そして。


「……終わった。」


「お疲れさま。」


「ミャ!」


『おわった!』


 目の前には二百五十冊の青いスキルブック。


 グレンは椅子の背にもたれた。


「もうしばらく大量合成はしたくない。」


「フォルンでも言ってなかった?」


「言った。」


「またやってるね。」


「報酬がいいからな。」


「ふふっ。」


 そこへベルガーとエレナがやってきた。


「終わったか。」


「ああ。」


 ベルガーが青いスキルブックを見る。


「二百五十冊。」


「ちゃんとあるぞ。」


 エレナが数を確認する。


「間違いありません。」


「なら約束通りだ。」


 ベルガーが五十冊を分けた。


「青五十冊がお前たちの報酬だ。」


「ありがたくもらう。」


 グレンは青いスキルブックをストレージへ収納する。


「すぐ合成するのか?」


「いや。」


「意外だな。」


「欲しいスキルができた時でいい。」


「そうか。」


「金まで上げるには数が必要だからな。適当に使う方がもったいない。」


「その考えなら安心だ。」


「なんで俺が危ない奴みたいになってるんだ。」


「金四冊あれば赤を作れる人間だからだ。」


「作ってないだろ。」


「今のところはな。」


「信用しろよ。」


「ふふっ。」


 アイリが笑う。


「さて。」


 グレンが立ち上がる。


「今度こそAランク試験の話をしてくれるんだろ?」


「ああ。」


 ベルガーが頷いた。


「ギルド長室へ戻るぞ。」


 ◇


 ギルド長室。


 ベルガーが机の向こうへ座る。


 グレンとアイリは向かい側。


 ミケはアイリの膝の上にいる。


「まず結論から言う。」


「うん。」


「本来、Aランクへの昇格では戦闘力だけでなく、判断力も確認する。」


「やっぱりそこも見るのか。」


「当然だ。」


 ベルガーが机の上の書類を手に取る。


「Aランクともなれば、高難度の依頼を任される。状況によっては他の冒険者と行動することもある。」


「まあ、そうだろうな。」


「だが。」


 ベルガーは書類を置いた。


「お前たちについては、その確認は必要ないと判断した。」


「必要ない?」


「ああ。」


「なんで?」


「塔の攻略記録だ。」


 グレンとアイリが顔を見合わせる。


「お前たちはルグリアへ来てから塔を攻略している。」


「そうだな。」


「五階層、十階層、十五階層、二十階層。」


 ベルガーが続ける。


「攻略速度はかなり速い。」


「そうなのか?」


「速いです。」


 エレナが即答した。


「そうなのか。」


「自覚がないんですか?」


「他のパーティと比べたことないからな。」


「それでも、お前たちは無茶に進んでいるわけではない。」


 ベルガーがグレンを見る。


「十三階層。」


「ん?」


「魔物の耐久力が上がったと感じた時点で、一度攻略を中断しているな。」


「ああ。」


「武器が壊れたわけでもない。」


「まだ普通に使えた。」


「それでも戻った。」


「問題が起きてからじゃ遅いからな。」


「その後、オリハルコンの剣を用意して攻略を再開。」


「ヴァリアントだな。」


「さらに、階層主へ挑む前には休息を取る。」


「ああ。」


「結界魔道具まで使って安全を確保してな。」


「寝てる間に襲われたくないだろ。」


「そういうことだ。」


 ベルガーが腕を組む。


「進めるから進むのではなく、安全に進めるかを考えている。」


「いつも通りだけどな。」


「そのいつも通りができない冒険者も多い。」


「そういうものか。」


「ああ。」


 ベルガーは今度はアイリを見る。


「アイリも同じだ。」


「私?」


「回復役だからと後ろに立っているだけではない。装備を整え、自衛手段を増やし、ヴァルキリーへ転職してからも無理に前へ出ていない。」


「死にたくないですから。」


「それでいい。」


「ミャ!」


「ミケも?」


「当然だ。」


 ベルガーがミケを見る。


「これだけの力を持つ魔獣を、強いからという理由だけで戦わせていない。」


「まだ子供だからね。」


「ミャ。」


 アイリがミケの頭を撫でる。


「だから。」


 ベルガーが二人を見る。


「判断力については、二十階層までの攻略記録で十分だ。」


「じゃあ残ってるのは?」


「戦闘力。」


「やっぱり戦うのか。」


「ああ。」


 グレンは少し笑った。


「そっちの方が分かりやすいな。」


「Aランクとして危険度の高い魔物と戦えるか。それだけは実際に見せてもらう。」


「何と戦う?」


「魔物ではない。」


「じゃあ模擬戦?」


「ああ。」


「相手はAランク冒険者か?」


「そうなる。」


 グレンが頷く。


「何人?」


「一人だ。」


「俺たち三人で?」


「ああ。」


「それなら相手も相当強くないと試験にならないだろ。」


「心配するな。」


 ベルガーが立ち上がった。


「相手は俺だ。」


「……は?」


 グレンがベルガーを見る。


「ベルガーさんが?」


 アイリも驚いている。


「元Aランクなんだろ?」


「元だ。」


「引退して何年だ?」


「ギルド職員になってからなら十年以上になる。」


「大丈夫なのか?」


「誰に言っている。」


 ベルガーが笑う。


「長時間の探索はもう現役連中には敵わん。」


「だろうな。」


「何日も続けて魔物と戦うのも厳しい。」


「じゃあ。」


「だが。」


 ベルガーの目が変わった。


 さっきまで机に座っていたギルド長とは違う。


 冒険者の目。


「短期戦なら、まだAランクを名乗れる程度には動ける。」


「……。」


 グレンも自然と笑った。


「面白そうだな。」


「グレン。」


「なんだ?」


「嬉しそう。」


「強い奴と戦えるならな。」


「安全第一はどこ行ったの?」


「模擬戦だから大丈夫だろ。」


「たぶん。」


「ミャ!」


『たたかう!』


「ミケまでやる気になるな。」


 ベルガーがミケを見る。


「ミケも参加して構わん。」


「ミャ!」


『やる!』


「本当にいいのか?」


「当然だ。」


「獣化も?」


「使いたければ使え。」


「いや、それはさせない。」


 グレンは即答した。


「まだ幼体だ。模擬戦で無理させる必要はない。」


「それでいい。」


 ベルガーが頷く。


「使える力を全部使うことと、必要な力を使うことは違う。」


「そういうことだ。」


「ただし。」


「まだ何かあるのか?」


「俺に遠慮はするな。」


「……。」


「ミケの獣化以外は、使えるものを使え。」


「それは危ないぞ。」


「何がだ?」


「昨日、新しい剣技を覚えた。」


「例の金か。」


「ああ。」


「《高位魔法剣》だったな。」


「雷鳴剣と暗黒剣は使える。」


「なら使え。」


「次元斬りは無理だ。」


「なぜだ?」


「相手の外側を通り越して、中を直接斬る。」


「……。」


 ベルガーが黙った。


「当たったら洒落にならない。」


「それは使うな。」


「だろ?」


「先に言え。」


「今言っただろ。」


 エレナが小さくため息をつく。


「本当に大丈夫でしょうか。」


「何が?」


「ギルド長が。」


「エレナ。」


「はい。」


「俺の心配をするな。」


「年齢がありますので。」


「……。」


 グレンが吹き出す。


「お前、結構言うようになったな。」


「事実です。」


「五十五だぞ。まだ老人ではない。」


「俺より十五も上じゃないか。」


「お前も十五年後には同じことを言われる。」


「それは嫌だな。」


「なら今のうちに覚えておけ。」


 ベルガーがグレンを見る。


「五十五でも強い奴は強い。」


「分かったよ。」


 グレンが立ち上がる。


「それで、いつやる?」


「明日。」


「早いな。」


「準備が必要か?」


「いや。」


「なら問題ない。」


 ベルガーが笑う。


「明日の朝、ギルドの訓練場だ。」


「ああ。」


「グレン、アイリ、ミケ。」


 三人を見る。


「三人まとめて相手をしてやる。」


「言ったな?」


「ああ。」


 元Aランク冒険者。


 ルグリア冒険者ギルド長。


 ベルガー。


 Aランク昇格を懸けた相手が決まった。

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