第108話 秘密の相談
「俺のユニークスキルについてだ。」
グレンの言葉に、ベルガーの目が細くなった。
「ユニークスキル?」
「ああ。」
「何というスキルだ?」
「《スキルブック合成》。」
「……聞いたことがないな。」
「ユニークスキルだからな。」
「何ができる?」
「名前の通り、スキルブックを合成できる。」
ベルガーが続きを待つ。
「白二冊で緑一冊。」
「……何?」
「緑二冊で青一冊。」
ベルガーの表情が変わった。
「ランクを上げられるのか?」
「ああ。」
「続けろ。」
「青三冊で紫。紫三冊で金。」
「……。」
「金四冊で赤。」
「赤?」
「ああ。」
ベルガーが黙った。
「赤というのは……ユニークスキルか?」
「そうだ。」
「……。」
長い沈黙。
ベルガーがエレナを見る。
「鍵は?」
「かかっています。」
「そうか。」
ベルガーはグレンへ視線を戻す。
「それを実際にやったことは?」
「何度もある。」
「見せてもらえるか?」
「いいぞ。」
グレンはストレージから白いスキルブックを二冊取り出した。
「これでいいか?」
「ああ。」
テーブルへ置く。
「《スキルブック合成》。」
二冊が白い光に包まれる。
光が一つに重なり。
一冊の緑色のスキルブックが残った。
「……。」
ベルガーが手に取る。
「本当に緑だな。」
「だから言っただろ。」
「もう一度できるか?」
「白が二冊あれば。」
「エレナ。」
「はい。」
「倉庫から白を二冊持ってこい。」
「分かりました。」
エレナが部屋を出る。
しばらくして、二冊の白いスキルブックを持って戻ってきた。
「こちらを。」
「じゃあやるぞ。」
再び合成。
白二冊が一冊の緑へ変わる。
ベルガーは二冊の緑色のスキルブックを見る。
「この二冊も?」
「ああ。」
グレンが手を置く。
「《スキルブック合成》。」
二冊の緑が光に包まれ。
一冊の青へ。
「……。」
ベルガーが青いスキルブックを手に取った。
「間違いなく青だ。」
「これで信じたか?」
「ああ。」
ベルガーはしばらく青いスキルブックを見ていた。
「エレナ。」
「はい。」
「倉庫に白のスキルブックは何冊ある?」
「正確な数は確認しなければ分かりませんが……。」
エレナが少し考える。
「二千冊前後だったと思います。」
「……二千?」
今度はグレンが固まった。
「そんなにあるのか?」
「ルグリアでは塔から持ち込まれるスキルブックの数も多いですから。」
「売れないのか?」
「白は供給量が多いので。」
「なるほどな……。」
ベルガーがグレンを見る。
「頼みがある。」
「嫌な予感がする。」
「まだ何も言っていないぞ。」
「だいたい分かる。」
ベルガーが僅かに笑う。
「千冊。」
「……。」
「まず白のスキルブック千冊を合成してもらいたい。」
「千冊でも多いわ。」
「二千冊全部とは言っていない。」
「半分でも十分多い。」
「ミャ。」
『いっぱい』
「ミケでも分かるぞ。」
アイリが笑っている。
「笑い事じゃないぞ。」
「ごめん。」
ベルガーが尋ねる。
「こういう依頼を受けたことはないのか?」
「ある。」
「あるのか?」
「ああ。」
グレンはフォルンを旅立つ直前のことを思い出した。
「フォルンで三百冊やらされた。」
「三百冊?」
「白三百冊を緑百五十冊。そこから青七十五冊まで合成した。」
「それで?」
「青六十冊をギルドが受け取って、残り十五冊を報酬でもらった。」
ベルガーが考える。
「八対二か。」
「ああ。」
「現金ではなく、完成したスキルブックの二割を報酬にしたわけだな。」
「そういうことだ。」
「ガレスらしい。」
「知ってるのか?」
「直接会ったことは何度かある。」
「そうなのか。」
ベルガーは少し考えた。
「なら、こちらも同じ条件で構わん。」
「いいのか?」
「ああ。」
ベルガーが机の上で指を動かす。
「白千冊なら緑五百冊。」
「そうだな。」
「そこから青二百五十冊。」
「ああ。」
「ギルドが二百冊。」
「俺たちが五十冊。」
「それでどうだ?」
グレンはアイリを見る。
「いいんじゃない?」
「俺も文句はない。」
白いスキルブックを普通に売るより遥かにいい。
「じゃあ、それで。」
「決まりだな。」
ベルガーがエレナを見る。
「倉庫から白を千冊用意してくれ。」
「分かりました。」
「今日やるのか?」
「嫌か?」
「嫌というか……。」
グレンはため息をつく。
「フォルンを出る前にも同じことしたんだぞ。」
「今回は報酬が青五十冊だ。」
「やる。」
「早いね。」
アイリが笑う。
「青五十冊だぞ。」
「そうだけど。」
「ミャ!」
『いっぱい!』
「だろ?」
「ミケを味方につけないで。」
ベルガーが小さく笑う。
「ただし。」
「なんだ?」
「今日は千冊だけだ。」
「当たり前だ。」
「残りの白については、今回の青をどう扱うか確認してから考える。」
「ああ。その方がいい。」
いきなり全在庫を高位スキルブックへ変える必要はない。
ギルド側にも事情がある。
「それと。」
ベルガーの表情が変わる。
「《スキルブック合成》については、俺とエレナ以外には話すな。」
「そのつもりだ。」
「エレナ。」
「はい。」
「今回の合成についても、グレンが行ったとは記録するな。」
「分かりました。」
「倉庫の在庫整理として処理する。」
「いいのか?」
「お前の能力が知られる方が問題だ。」
ベルガーは真剣な目でグレンを見る。
「白を青へ変えられるだけでも十分危険だ。」
「ああ。」
「まして金。」
そして。
「赤まで作れると知られれば、お前だけでは済まん。」
ベルガーの視線がアイリとミケへ向く。
「家族も巻き込まれる。」
グレンの表情が変わった。
「それは困る。」
「なら慎重に扱え。」
「ああ。」
「特に赤だ。」
「まだ作ったことはない。」
「そうなのか?」
「ああ。」
「金四冊を揃えられなかったのか?」
「いや。」
グレンは少し考える。
「作ろうと思えば作れる。」
「……。」
「でも、欲しいユニークスキルが思いついてない。」
「は?」
「合成結果はランダムなんだ。」
グレンは説明する。
合成結果は固定ではない。
素材によってある程度方向性は変わるが、同じ組み合わせでも違うスキルが生まれることがある。
「金四冊も使って、使い道のないユニークスキルが出たらもったいないだろ?」
「お前……。」
「何だよ。」
「赤を作らない理由がそれなのか?」
「重要だろ。」
「私もグレンらしいと思う。」
「ミャ。」
『グレン』
「どういう意味だ。」
エレナが口元を押さえている。
「エレナまで笑うな。」
「すみません。」
ベルガーが額を押さえた。
「まあいい。」
「いいのか?」
「少なくとも、面白半分で赤を作る人間ではないことは分かった。」
「当たり前だ。」
「ならいい。」
ベルガーは椅子へ座り直す。
「それでAランク昇格試験だが。」
「あ。」
「忘れてたね。」
「ミャ。」
ベルガーが呆れたように二人を見る。
「本来はそちらの相談だったはずだがな。」
「千冊のせいだろ。」
「否定はせん。」
「試験は受けられるのか?」
「ああ。」
ベルガーが頷く。
「ギルドカードの確認は俺が行う。」
「《スキルブック合成》は?」
「確認済みとして扱う。」
「本部には?」
「ユニークスキルの詳細まで報告する必要はない。」
「助かる。」
「ただし、何か状況が変われば相談しろ。」
「ああ。」
「勝手に抱え込むな。」
「分かった。」
ベルガーがグレンとアイリを見る。
「改めて聞く。」
二人が姿勢を正す。
「Aランク昇格試験を受ける意思はあるか?」
グレンはアイリを見る。
「どうする?」
「決まってるでしょ。」
「ああ。」
二人で頷く。
「受ける。」
「私も。」
「ミャ!」
『ミケも!』
「ミケもだそうです。」
アイリが笑う。
「まあ、三人で一つのパーティだからな。」
ベルガーが頷いた。
「分かった。」
そして。
「試験については、千冊の合成が終わってから話す。」
「先に試験の話してくれない?」
「青五十冊はいらないのか?」
「やります。」
「グレン。」
「仕方ないだろ。」
「ふふっ。」
こうして。
Aランク昇格試験の話をするはずだったグレンは。
その前に。
千冊の白いスキルブックと向き合うことになった。




