第106話 高位魔法剣
その日の夜。
夕食を終えたグレンは、居間のテーブルに六冊の青いスキルブックを並べていた。
「やっぱり今日やるんだ。」
「ああ。気になって仕方ない。」
「ふふっ。そうだと思った。」
アイリの膝では、ミケが丸くなっている。
「ミャ。」
『ねむい』
「ミケは寝てていいよ。」
「ミャー。」
グレンは六冊を見る。
どれも二十階層主を倒した宝箱から手に入れたものだ。
「まずは三冊ずつだな。」
「どう分けるの?」
「適当に試す。」
合成結果は固定ではない。
考えすぎても仕方がない。
グレンは三冊へ手を置いた。
「《スキルブック合成》。」
青い光。
三冊が一つへ重なっていく。
残ったのは、一冊の紫色のスキルブック。
「できた。」
「何が出た?」
「見る。」
《鑑定》。
《雷属性耐性》
雷属性によるダメージを軽減する。
「……耐性か。」
「悪くはないね。」
「ああ。でも今はいらないな。」
これからどんな敵と戦うか分からない以上、耐性が役に立たないわけではない。
だが、今すぐ必要というほどでもない。
「保留だな。」
「次は?」
「やる。」
残りの青三冊へ手を置く。
「《スキルブック合成》。」
再び青い光が重なる。
二冊目の紫。
《鑑定》。
《魔力障壁》
「あ。」
「どうした?」
「それ、私持ってる。」
「だよな。」
グレンも覚えている。
アイリがすでに使っている防御スキルだ。
「これは完全に被ったな。」
「グレンが覚える?」
「いや。」
グレンにはバックラーがある。
《頑強》も《衝撃耐性》もある。
わざわざ今の戦い方を変えてまで覚える必要はない。
「これも素材だな。」
「じゃあ紫が二冊?」
「ああ。」
グレンはストレージを開く。
中を確認して、一冊の紫色のスキルブックを取り出した。
以前の合成でできたものの、使わずに残していた一冊。
《鑑定》。
《水属性強化》
「それも残してたんだ。」
「ああ。」
「ウォーターボール強くなる?」
「なるだろうけど。」
二人で顔を見合わせる。
「今はいらないね。」
「ああ。」
アイリの水魔法は《ウォーターボール》だけ。
主に水の確保や洗浄、消火に使っている。
わざわざ紫ランクの《水属性強化》を覚えるほどではない。
「これで三冊。」
テーブルに紫色のスキルブックを並べる。
《雷属性耐性》。
《魔力障壁》。
《水属性強化》。
「全部使うの?」
「ああ。」
「雷属性耐性はちょっともったいなくない?」
「少しな。」
だが。
グレンは笑った。
「必要になったら、また作ればいい。」
「そっか。」
「そのためのスキルブック合成だ。」
紫三冊。
ここから先は。
金。
「やるぞ。」
「うん。」
眠そうだったミケも顔を上げる。
「ミャ?」
『なに?』
「金まで上げるんだって。」
「ミャ!」
『きん!』
「分かってるのか?」
「ミャ。」
『きらきら』
「そっちか。」
グレンが三冊へ手を置く。
「《スキルブック合成》。」
紫色の光が溢れた。
三冊が浮かび上がる。
光が重なる。
そして。
一つになる。
紫色だった光が変わった。
「……。」
「グレン。」
「ああ。」
光が消える。
テーブルの上に残ったのは。
一冊の金色のスキルブック。
「できた。」
「金だね。」
「ああ。」
グレンが手を伸ばす。
問題は中身。
「《鑑定》。」
《高位魔法剣》
「……高位魔法剣。」
「剣のスキル?」
「ああ。」
さらに確認する。
習得することで三種類の高位魔法剣を使用可能。
《雷鳴剣》
《暗黒剣》
《次元斬り》
「三つある。」
「高位剣術と同じ?」
「みたいだな。」
グレンは一つずつ確認する。
《雷鳴剣》
剣へ強力な雷属性の魔力をまとわせる。
斬撃と同時に雷撃を与え、相手の動きを一時的に鈍らせることがある。
「雷か。」
「ミケと一緒だね。」
「ミャ?」
『ミケ?』
「グレンも雷を使えるようになるって。」
「ミャ!」
『いっしょ!』
「まだ覚えてないけどな。」
次。
《暗黒剣》
剣へ闇属性の魔力をまとわせる。
斬撃と同時に、対象の生命力や魔力へ干渉する。
「聖光剣の逆みたいなものか。」
「使い分けできそうだね。」
「ああ。」
そして。
三つ目。
《次元斬り》
「……。」
「どうしたの?」
「これ、面白いぞ。」
対象の外殻や装甲を越え、内部へ直接斬撃を発生させる。
外部の防御力に影響されにくい。
ただし、内部へ発生する斬撃の威力は使用者の力量と武器の性能に左右される。
「中を斬るの?」
「ああ。」
「今日のゴーレムに欲しかったね。」
「本当にな。」
あれだけ硬かった外殻。
剛破斬とヴァリアントで突破できた。
だが。
次元斬りがあれば、別の攻め方ができる。
「これなら。」
グレンは金色のスキルブックを持ち上げた。
「覚える。」
「うん。」
迷う必要はなかった。
スキルブックを開く。
金色の光が溢れ、グレンの身体へ吸い込まれていく。
《高位魔法剣を習得しました》
《雷鳴剣を習得しました》
《暗黒剣を習得しました》
《次元斬りを習得しました》
「よし。」
「どう?」
「使える。」
「試してみる?」
「ここで?」
「あ。」
アイリが部屋を見る。
「ダメだね。」
「当たり前だ。」
「雷鳴剣とか絶対ダメ。」
「家を燃やす気か。」
「ミャ!」
『かみなり!』
「お前もやる気になるな。」
「ミャー。」
アイリが笑う。
「明日、外で試そうか。」
「ああ。」
グレンは壁に立てかけてあるヴァリアントを見る。
オリハルコン製。
魔力伝導率も非常に高い。
「ヴァリアントなら魔法剣とも相性が良さそうだ。」
「また強くなったね。」
「そうだな。」
強くなること自体が目的ではない。
使える手段が増えれば。
危険を減らせる。
それでいい。
「さて。」
グレンはテーブルを片付ける。
「明日はギルドだな。」
「二十階層の報告?」
「ああ。」
「エレナさん、驚くかな。」
「十五階層まで攻略してるんだ。そこまで驚かないだろ。」
「どうかな。」
「ミャ!」
『エレナ!』
「お前、エレナの名前にはすぐ反応するな。」
「エレナさんも喜ぶよ。」
「ミケに会えるから?」
「たぶん。」
「否定できないな。」
グレンは苦笑した。
二十階層攻略。
そして。
《高位魔法剣》。
ルグリアへ来てからも、三人は着実に前へ進んでいる。
明日は冒険者ギルドへ。
二十階層攻略の報告に行く。




