第104話 十九階層
翌朝。
グレンたちはルグリアの塔へ向かった。
「今日は十九階層だな。」
「うん。」
「ミャ!」
『いく!』
十五階層へ転移。
そこから階段を上がり、十八階層まで進む。
すでに攻略済みの階層。
道順も分かっているため、大きな問題もなく進むことができた。
そして。
「ここからだな。」
十九階層へ続く階段。
グレンが足を止める。
「一応、確認。」
「うん。」
アイリがグレンへ《身体強化》。
続けて《クイック》。
「防御強化もいる?」
「まだいい。敵を見てからで。」
「分かった。」
グレンはオリハルコンソード《ヴァリアント》を抜く。
アイリも薙刀型を構えた。
風。
氷。
そして昨日追加した火。
三つの属性魔石が装着されている。
「火属性、試したい。」
「分かってる。」
「フレアバースト。」
「いきなり一番派手なの使うなよ。」
「じゃあフレイムランス。」
「それならいい。」
「ミャ。」
『ミケも!』
「ミケは魔力圧縮を試すんだろ?」
「ミャ!」
『やる!』
「ただし全力はやめろよ。」
ミケの首輪には雷と土属性の魔石。
さらに魔銀糸による魔力増幅回路が組み込まれている。
そこへ《魔力圧縮》まで加わった。
どれほど威力が上がるのか、まだ分からない。
「俺たちは新しい力を試しに来たわけじゃないからな。」
「塔を攻略しに来た。」
「そういうこと。」
「安全第一。」
「ああ。」
「ミャ!」
『あんぜん!』
「よし。」
三人は十九階層へ下りた。
石造りの通路。
十八階層までと大きく雰囲気は変わらない。
だが。
「気配。」
グレンが足を止める。
《気配察知》。
さらに《魔力感知》。
「前方。」
「何体?」
「四……いや、五。」
グレンは周囲を見る。
罠察知。
反応なし。
隠し空間感知。
こちらも反応なし。
「進むぞ。」
「うん。」
慎重に通路を進む。
やがて。
「グルルル……。」
曲がり角の向こうから現れたのは、大型の獣型魔物。
灰色の体毛。
太い前脚。
鋭い牙。
「鑑定。」
《アイアンファング》
十九階層に生息する魔物。
硬い皮膚を持ち、近接攻撃に対する防御力が高い。
「硬いタイプ。」
「五体?」
「ああ。」
通路いっぱいに広がるアイアンファング。
「ちょうどいいな。」
「何が?」
「試したい剣技がある。」
グレンがヴァリアントを構える。
高位剣術。
その一つ。
「《飛翔斬》!」
ヴァリアントを振る。
鋭い斬撃が飛んだ。
先頭のアイアンファングへ直撃。
ザシュッ!
「ギャウッ!」
硬い皮膚が裂ける。
「おお。」
「スマッシュウェーブより切れてる。」
「ああ。」
スマッシュウェーブは衝撃。
飛翔斬は斬撃。
似た遠距離攻撃でも性質が違う。
「使い分けできそうだな。」
アイアンファングたちが走り出す。
「来るよ!」
「ああ。」
グレンが前へ。
だが。
「一体もらうね。」
「無理するなよ。」
「大丈夫。」
アイリがグリムゾンティアを構える。
グレンより少し後ろ。
長柄武器の間合いを活かせる位置。
一体がアイリへ向かう。
「《三段突き》!」
シュッ!
シュッ!
シュッ!
三連続の突き。
グリムゾンティアの穂先がアイアンファングを捉える。
「ギャウッ!」
「やっぱり近づかなくていいの楽。」
「その距離を維持しろ。」
「うん。」
別の一体が横から迫る。
「《薙ぎ払い》!」
ブンッ!
長い柄を利用した横薙ぎ。
アイアンファングが弾き飛ばされる。
「ミャ!」
『ミケも!』
ミケがアイリの後方から前を見る。
「圧縮しすぎないでね。」
「ミャ。」
『ちょっと!』
雷がミケの周囲に集まる。
《魔力圧縮》。
圧縮された魔力が首輪へ。
雷属性魔石。
魔銀糸の増幅回路。
「《サンダーチェイン》!」
バリィィィッ!
「うおっ!?」
雷撃が先頭のアイアンファングへ直撃。
そこから次へ。
さらに次へ。
五体の間を雷が走る。
「ギャウッ!」
「ギャン!」
アイアンファングたちの動きが止まった。
「……。」
「……。」
グレンとアイリがミケを見る。
「ミャ?」
『なに?』
「ちょっとって言ったよな?」
「ミャ。」
『ちょっと』
「これで?」
「首輪の増幅もあるからじゃない?」
「……そうだった。」
魔力圧縮。
属性魔石。
魔銀糸。
三つが重なっている。
「ミケ。」
「ミャ?」
「当分、魔力圧縮は本当に少しだけにしよう。」
「ミャ。」
『わかった』
だが今は戦闘中。
「まず倒す。」
「うん。」
麻痺したアイアンファングへグレンが接近。
一気に間合いを詰める。
「《瞬影斬》!」
身体が加速する。
一瞬で敵の横を通過。
ザンッ!
一体が倒れる。
「速っ。」
「これは便利だな。」
敵との距離を一気に潰せる。
残り。
グレンはヴァリアントを構え直す。
硬い皮膚を持つアイアンファング。
なら。
「《剛破斬》!」
ズバンッ!
重い一撃。
硬い皮膚ごと斬り裂く。
「ギャウッ!」
二体目。
「なるほど。」
グレンが小さく頷く。
パワースラッシュは敵を押し込む力が強い。
剛破斬は硬いものを突破することに向いている。
「ちゃんと役割が違う。」
残る三体。
「グレン。」
「ん?」
「火、試していい?」
「一体だけな。」
「うん!」
アイリがグリムゾンティアを向ける。
魔力を流す。
三つの魔石のうち。
赤い火属性魔石が輝いた。
「《フレイムランス》!」
炎が収束。
一本の炎槍となって飛ぶ。
ドンッ!
「ギャウッ!」
アイアンファングへ突き刺さる。
爆発ではない。
高密度の炎が一点を貫く。
硬い皮膚を焼き抜き、そのまま倒した。
「強い。」
「火属性魔石もちゃんと機能してるな。」
「うん。」
残り二体。
一体がアイリへ飛びかかる。
「アイリ!」
「大丈夫!」
グリムゾンティアを両手で持つ。
「《旋風防陣》!」
長柄武器が高速で旋回する。
ガンッ!
アイアンファングの爪が弾かれた。
「今!」
「ああ!」
グレンが踏み込む。
連続斬り。
ザシュッ!
ザシュッ!
四体目。
最後の一体がミケへ向きを変えた。
「ミャ!」
地面へ魔力。
「《アーススパイク》!」
ズドドドッ!
岩の棘が突き上がる。
アイアンファングの動きを完全に止める。
「今度は圧縮してないよね?」
「ミャ!」
『してない!』
「それでも十分強いな。」
グレンが最後の一体へ。
ヴァリアントを振る。
一閃。
戦闘終了。
「ふぅ。」
グレンが周囲を確認する。
気配なし。
「全員怪我なし。」
「ミャ!」
『かった!』
「ああ。」
グレンは剣を収める。
「新しいスキルも問題なさそうだな。」
「グリムゾンティアも。」
アイリが嬉しそうに三つの魔石を見る。
「風、氷、火。」
「全部使える。」
「うん。」
「ただし。」
グレンがミケを見る。
「ミケの魔力圧縮は要調整。」
「ミャ……。」
『つよすぎた?』
「強いのはいいんだけどな。」
アイリがミケを抱き上げる。
「必要な時だけ使おうね。」
「ミャ。」
『わかった』
「それがいい。」
三人は素材を回収し、さらに十九階層を進んだ。
途中。
何度かアイアンファングの群れと遭遇した。
だが。
敵の位置をグレンが事前に察知。
アイリが長柄武器と魔法で中距離から援護。
ミケは必要以上に魔力圧縮を使わず、サンダーチェインとアーススパイクで支援する。
新しい力に頼りすぎない。
これまで通り。
安全を優先して進む。
そして。
「止まって。」
グレンが壁を見る。
「何かある?」
「隠し空間感知に反応。」
「宝箱は?」
「……ある。」
宝箱感知にも反応。
「行く?」
「罠を確認してから。」
周囲を調べる。
罠察知。
「壁の前に一つ。」
解除。
さらに壁を調べる。
仕掛けを発見。
石壁の一部がゆっくりと開いた。
「本当に見逃さなくなったね。」
「宝箱感知があるとかなり楽だな。」
「ミャ!」
『たから!』
「まだ触るなよ。」
隠し部屋の中。
一つの宝箱。
罠を確認。
「……なし。」
「開けよう。」
「ああ。」
グレンが宝箱を開く。
中には。
「青のスキルブック。」
「また増えた。」
「あと魔石。」
「何属性?」
グレンが取り出す。
「無属性。」
「無属性かぁ。」
「意思疎通魔道具にも使えるから、持ってて困らない。」
「そうだね。」
スキルブックも確認する。
「鑑定。」
《魔力効率化》
「魔力効率化?」
「魔法やスキルを使用する際の魔力消費を軽減するみたいだ。」
「それ欲しい。」
「アイリとミケ、どっちにも相性いいな。」
「ミャ。」
『ミケ?』
「今は決めない。」
グレンはスキルブックをストレージへ収納した。
「持ち帰って考えよう。」
「うん。」
さらに進む。
十九階層へ入ってから数時間。
何度か休憩も挟んだ。
そして。
「……あった。」
通路の先。
上へ続く階段。
「二十階層。」
「ついにだね。」
「ミャ。」
『ぼす?』
「たぶんな。」
五階層。
十階層。
十五階層。
これまで五階層ごとに階層主がいた。
二十階層にもいる可能性は高い。
グレンが階段を見る。
「今日はここまで。」
「行かないの?」
「行かない。」
即答。
「二十階層は階層主がいる可能性が高い。」
「うん。」
「十九階層を何時間も探索した後に、そのまま行く理由がない。」
「安全第一。」
「ああ。」
「ミャ!」
『あんぜん!』
「帰って休む。」
グレンは帰還転移石を取り出した。
「次は万全の状態で二十階層だ。」
「うん。」
アイリがミケを抱く。
三人で帰還転移石へ触れる。
魔力を流す。
光が三人を包んだ。
次の攻略地点。
二十階層。
そこにはおそらく。
次の階層主が待っている。




