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アラフォー冒険者、今日も嫁のために頑張ります  作者: 榊紅丸
第二章 冒険者都市ルグリア編
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103/113

第103話 ミケの初作品

 翌朝。


 朝食を終えたグレンたちは、再び庭へ出ていた。


「さて。」


 グレンがストレージから取り出したのは、昨日購入したミスリルインゴット。


 その隣には一本のナイフが置かれている。


 昨日、ミケが初めて鍛冶で作った鉄製の解体用ナイフだ。


「今日はこれと同じ物を作る。」


「ミャ!」


『やる!』


 ミケが元気よく前足を上げる。


「目的は鉄とミスリルの違いを見ること。」


「同じ物なら比べやすいもんね。」


「ああ。」


 グレンは鉄製のナイフを持ち上げた。


「これでも解体用としては普通に使える。」


「ミケ、上手だったもんね。」


「ミャ!」


『じょうず!』


「自分で言うんだな。」


「ふふっ。」


 問題は。


「ミスリルも加工できるかだな。」


 グレン自身は《鍛冶》だけでもミスリルを扱える。


 だが、ミケは昨日初めて鍛冶をしたばかり。


 スキルがあるとはいえ、鉄より扱いの難しい素材を同じように加工できるかは分からない。


「無理そうなら途中でやめるぞ。」


「ミャ!」


『できる!』


「自信満々だね。」


「まあ、やらせてみよう。」


 グレンは炉へ火を入れた。


 ミスリルインゴットを熱していく。


 頃合いを見て取り出し、金床へ置いた。


「よし。」


 ミケが金床の前へ。


 前足を上げる。


 シャキン。


 爪が伸びた。


「何度見ても、それで鍛冶するの不思議だな。」


「ミャ。」


『これ!』


「分かってる。」


 ミケが前足を振り下ろす。


 カンッ!


「……。」


 昨日とは音が違う。


 ミケも気づいたらしい。


「ミャ?」


『かたい』


「やっぱり鉄より硬いか。」


「大丈夫?」


「ミャ。」


『やる』


 再び。


 カンッ!


 カンッ!


 少しずつ。


 本当に少しずつだが、ミスリルが形を変えていく。


「できてる。」


「ああ。」


 鉄の時ほど簡単ではない。


 だが加工できないわけではない。


「ミケ、無理するなよ。」


「ミャ。」


『へいき』


 カンッ!


 カンッ!


 グレンは横から作業を見る。


 昨日より時間はかかっている。


 それでもミケは集中していた。


 前足を振り下ろす。


 爪で叩く。


 熱が足りなくなれば、グレンが炉へ戻す。


 再び熱する。


 またミケが叩く。


「昨日より鍛冶っぽくなってるね。」


「昨日も鍛冶だったけどな。」


「だって猫が爪で鉄叩いてたんだよ?」


「今日も同じだろ。」


「ミャ。」


『ねこじゃない』


「ラグナリンクスだって。」


「そこ気にするのか。」


「ふふっ。」


 作業を続ける。


 しばらくすると。


「お。」


 形が見えてきた。


 昨日作った鉄製の解体用ナイフとほぼ同じ形。


「ちゃんと同じ物になってる。」


「ああ。」


 グレンは昨日の鉄製ナイフを横へ置いた。


 大きさ。


 刃の長さ。


 形状。


 多少の違いはあるが、ほぼ同じだ。


「比較するなら十分だな。」


「ミャ!」


『まだ!』


「分かってる。」


 柄を取り付ける。


 研ぎを行う。


 最後までミケ自身にやらせる。


 そして。


「ミャー!」


『できた!』


「完成か。」


 グレンが受け取る。


 ミスリル製の解体用ナイフ。


「……。」


「どう?」


「昨日より綺麗だな。」


「本当?」


「ああ。」


 初めて作った鉄製ナイフは、少し形がいびつだった。


 だが今回のナイフは、明らかに形が整っている。


「一回作ったからか?」


「鍛冶スキルのおかげ?」


「たぶん両方だな。」


「ミャ!」


『じょうず!』


「はいはい。」


 まず鑑定。


《ミスリル製解体ナイフ》


 ミスリルを使用して製作された解体用ナイフ。


 鉄製のものと比べ、切れ味と耐久性に優れる。


 製作者――ミケ。


「ちゃんとミケだ。」


「ミャ!」


『ミケ!』


「じゃあ比べてみようか。」


 グレンは二本を並べた。


 鉄製。


 ミスリル製。


 同じ用途。


 同じ製作者。


 素材だけが違う。


 グレンはまず二本を手に取って重さを確かめる。


「ミスリルの方が軽い。」


「グリムゾンティアと同じだね。」


「ああ。それでいて強度は上。」


 刃も確認する。


「切れ味もミスリルだな。」


「じゃあ解体に使うなら?」


「こっち。」


 グレンはミスリル製を選んだ。


「塔の魔物も段々強くなってるからな。素材を解体するなら、切れ味も耐久性も高い方がいい。」


「じゃあ決まりだね。」


「ああ。」


 ミスリル製解体ナイフをストレージへ収納する。


「……。」


 残ったのは。


 鉄製の解体用ナイフ。


「これ、どうする?」


「予備?」


「ミスリルがあるなら二本はいらないな。」


「売る?」


「ミケの初作品を?」


「あ。」


 アイリが鉄製ナイフを見る。


「それはちょっと嫌かも。」


「俺もなんとなく嫌だ。」


「ミャ?」


 ミケが二人を見る。


『いらない?』


「いや、いらないわけじゃないぞ。」


 アイリがミケを抱き上げる。


「グレンたちにはミスリルの方があるから、鉄の方をどうしようかなって。」


「ミャ。」


『てつ』


「そう。」


 アイリもナイフを見る。


「誰か欲しい人いないかな?」


「解体用ナイフだから、冒険者なら普通に使うだろ。」


「でも知らない人にあげるのもね。」


「それなら売るのと変わらないしな。」


「うーん。」


 アイリが考える。


 そして。


「あ。」


「ん?」


「エレナさん、いらないかな?」


「エレナ?」


「うん。」


「受付嬢に解体用ナイフ?」


「料理にも使えるでしょ?」


「まあ、刃物だから使えなくはない。」


「それに。」


 アイリがミケを見る。


「ミケが初めて作った物だよ?」


「……。」


 グレンもミケを見る。


「ミャ?」


「確かに。」


 エレナなら。


 欲しがる気がする。


 かなり。


「ミケ。」


「ミャ。」


「これ、エレナにあげるか?」


「ミャ!」


 反応は一瞬だった。


『エレナ!』


「分かりやすいな。」


「ふふっ。」


「エレナにあげる?」


「ミャー!」


『あげる!』


「決まりだな。」


◇


 その日の昼。


 三人は冒険者ギルドへ向かった。


「いらっしゃいませ。」


 受付にいたエレナが三人を見る。


 いや。


 正確には。


「ミャ!」


「こんにちは、ミケちゃん。」


 ミケを見る。


「やっぱり俺たちより先なんだな。」


「何か問題でも?」


「もういい。」


「ふふっ。」


 グレンたちはエレナの受付へ。


「昨日の鍛冶はどうでした?」


「成功した。」


「本当ですか?」


「ああ。」


「ミャ!」


『できた!』


「ミケ、できたって。」


「そうですか。」


 エレナの表情が柔らかくなる。


「良かったですね、ミケちゃん。」


「ミャー。」


「それで。」


 グレンがストレージへ手を入れる。


「これ。」


 鉄製の解体用ナイフを取り出し、受付へ置いた。


 エレナが見る。


「これが?」


「ミケが作った。」


「……。」


 エレナがナイフを見る。


 次に。


 ミケを見る。


「ミャ。」


「……本当に作ったんですね。」


「俺も驚いた。」


「爪で。」


「爪で?」


「ああ。」


「……。」


「そこは説明すると長くなる。」


「非常に気になりますが。」


「今度見に来ればいい。」


「……。」


 一瞬だけエレナが考える。


「休日でしたら。」


「本当に来るのか。」


「何か問題が?」


「ないけど。」


 アイリが笑う。


「それでね、エレナさん。」


「はい。」


「それ、エレナさんにあげようと思って。」


「……私に?」


「ああ。」


 エレナがグレンを見る。


「なぜです?」


「二本作ったんだ。」


「二本?」


「鉄とミスリル。」


「素材の違いを比べたくてな。」


「なるほど。」


「それで解体用にはミスリルを使うことにした。」


「……。」


 エレナの目が細くなる。


「つまり。」


「ん?」


「余ったから私に?」


「……。」


 グレンが止まる。


「そういう言い方すると、すごく感じ悪いな。」


「事実では?」


「いや、まあ……。」


「違うよ。」


 アイリが割って入る。


「これ、ミケが初めて作った物なの。」


「……初めて?」


「うん。」


「ミスリルの方が二本目。」


 エレナがもう一度ナイフを見る。


「これが。」


「ああ。」


「ミケちゃんの鍛冶第一号?」


「そう。」


「ミャ!」


『ミケの!』


「それで、知らない人に売っちゃうのも嫌だったから。」


 アイリが微笑む。


「エレナさんなら大事にしてくれるかなって。」


「ミャ!」


『エレナにあげる!』


「ミケもエレナにあげるって。」


「……。」


 エレナが黙った。


「エレナ?」


「いただきます。」


「早いな。」


「いただきます。」


「二回言った。」


 エレナは両手でナイフを受け取る。


 そして大切そうに眺めた。


「ミケちゃん。」


「ミャ?」


「ありがとうございます。」


「ミャー。」


 エレナがほんの少し笑う。


「大切に保管します。」


「いや。」


 グレンがすぐに突っ込む。


「使ってくれ。」


「嫌です。」


「なんでだよ。」


「ミケちゃんが初めて作った物ですよ?」


「ナイフだぞ。」


「知っています。」


「道具は使ってなんぼだろ。」


「保管します。」


「頑固だな。」


「ミャ。」


 ミケがエレナを見る。


『つかって』


 アイリが吹き出す。


「エレナさん。」


「何でしょう?」


「ミケ、使ってほしいって。」


「……。」


 エレナが固まった。


「ミャ。」


『つかって!』


「使ってほしいって。」


「……分かりました。」


「折れた。」


「ミケちゃん本人が言うなら仕方ありません。」


「俺が言っても聞かなかったのに。」


「当然です。」


「当然なのか。」


 エレナはナイフを大切そうに持つ。


「では、大切に使わせていただきます。」


「ミャ!」


『うん!』


「良かったな、ミケ。」


「ミャー!」


 グレンはその様子を見ながら苦笑した。


 ミケが初めて作った鉄製ナイフ。


 どうやら。


 使い道だけでなく。


 貰い手まで無事に決まったようだった。

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