第101話 三人分のスキルブック
十八階層から帰った翌日。
朝食を終えたグレンは、居間のテーブルの前でストレージの中を確認していた。
「……結構溜まってるな。」
「何が?」
「スキルブック。」
「あ。」
塔へ入ってから、魔物と戦う機会は一気に増えた。
当然、スキルブックも何冊も手に入れている。
使えそうなものはその都度確認してきたが、必要のないものや、すぐには使わない白や緑のスキルブックはストレージへ入れたままになっていた。
「一回全部出してみるか。」
「うん。」
グレンがストレージからスキルブックを取り出していく。
一冊。
二冊。
三冊。
「まだあるの?」
「ああ。」
五冊。
十冊。
さらに増える。
「……グレン。」
「何?」
「多くない?」
「俺もそう思ってる。」
「ミャ。」
『いっぱい』
テーブルだけでは足りなくなり、床にも並べていく。
白。
緑。
ほとんどがその二色だった。
「こんなに持ってたんだ。」
「使わないのは、とりあえず入れてたからな。」
「売らなかったの?」
「最初の頃なら売ってた。」
グレンが一冊手に取る。
「でも今は金に困ってない。」
「塔でも金貨とか手に入るもんね。」
「ああ。」
それなら売るより、合成した方がいい。
《スキルブック合成》
白二冊から緑。
緑二冊から青。
青三冊から紫。
紫三冊から金。
そして金四冊から赤。
「どこまでいけるかな。」
「数次第だな。」
「全部上まで合成する?」
「いや。」
グレンが首を振る。
「途中で使えるものが出たら使う。」
「そっか。」
「今は三人分あるからな。」
「ミャ?」
『ミケも?』
「ああ。」
「ミケの分も探す。」
「ミャ!」
『やる!』
ミケもスキルブックを使用できることは、すでに分かっている。
ならば、これまでとは違う。
グレン。
アイリ。
そしてミケ。
三人に必要なスキルを探せる。
「まず白から確認するか。」
「全部?」
「一応な。」
グレンが一冊ずつ鑑定していく。
《採取》
《採掘》
《清掃》
《解体》
《木工》
《料理》
《投擲》
《釣り》
《裁縫》
《短剣術》
《盾術》
《火魔法》
《水魔法》
他にも様々な低位スキルがある。
「結構いろいろあるね。」
「ああ。」
「使えそうなのもあるんじゃない?」
「あるけど、何でも覚えればいいってものでもないだろ。」
「そうだね。」
「必要なものだけ残す。」
グレンが《裁縫》のスキルブックを手に取る。
「これは俺がもう持ってる。」
「魔銀糸を使ってるもんね。」
「ああ。」
「じゃあ合成?」
「そうする。」
すでに持っているもの。
今の三人には必要のないもの。
それらを分けていく。
「じゃあ合成するぞ。」
「うん。」
まずは白。
二冊ずつ選んでいく。
「合成。」
二冊のスキルブックが光に包まれ、一冊の緑へ変わる。
「鑑定。」
《索敵》
「気配察知あるよね?」
「ああ。」
「ならいらない?」
「今のところはな。」
合成用へ。
次。
「合成。」
《修復》
「魔道具とか直せそう。」
「魔道具作成があるからな。」
「じゃあこれも?」
「ああ。」
さらに合成。
白のスキルブックが次々と緑へ変わっていく。
その途中。
「これ。」
「何?」
《跳躍》
「……。」
アイリがミケを見る。
「ミケに合いそう。」
「俺も思った。」
「ミャ?」
グレンが《跳躍》をミケの前へ置く。
「使えるか?」
「ミャ!」
『やる!』
ミケが前足を乗せる。
光。
スキルブックがミケの身体へ吸収された。
《跳躍》
習得。
「使えたな。」
「ミャ!」
『できた!』
「ますます高いところまで行きそう。」
「家の中で試すなよ。」
「ミャ?」
『なんで?』
「壊すから。」
「ミャー。」
「不満そう。」
「外でやればいい。」
「ミャ!」
『やる!』
「後でな。」
合成を再開する。
白から緑。
そして、使わない緑を二冊ずつ合わせて青へ。
「合成。」
光。
一冊の青いスキルブック。
「鑑定。」
《頑強》
「身体の耐久力を高める常時発動型。」
「グレンじゃない?」
「ああ。」
前衛で戦う以上、身体そのものが頑丈になるなら無駄にはならない。
「使う。」
青い光。
《頑強》
習得。
「安全第一。」
「当然だ。」
「ふふっ。」
次。
緑二冊。
「合成。」
青。
《俊敏強化》
「これは……。」
グレンがアイリを見る。
「私?」
「ああ。」
「グリムゾンティアが長柄武器になって、前に出ることも増えただろ。」
「うん。」
「速く動けるなら、その分安全になる。」
「やっぱり安全なんだ。」
「当たり前だろ。」
アイリが笑いながらスキルブックを受け取る。
青い光。
《俊敏強化》
習得。
「どう?」
「少し身体が軽くなった感じ。」
「塔で確認だな。」
「うん。」
さらに合成する。
「これも青。」
「鑑定して。」
「ああ。」
《魔力操作》
「魔力を細かく扱いやすくするスキルか。」
「私?」
「アイリにも使える。」
グレンがミケを見る。
「ミケにも使えるかもしれない。」
「ミャ?」
「それに俺も魔道具を作る時に使えそうだ。」
「三人とも使えるんだ。」
「だから保留。」
「ふふっ。」
《魔力操作》を横へ置く。
さらに。
合成。
選別。
不要なものは、また合成。
大量にあった白と緑のスキルブックが少しずつ減っていく。
やがて。
「青が溜まったな。」
「三冊ずつ?」
「ああ。」
グレンが青いスキルブックを三冊並べる。
「合成。」
三冊が光に包まれる。
光が混ざり、一冊の紫へ変わった。
「できた。」
「何かな。」
「鑑定。」
《魔力障壁》
「防御?」
「ああ。」
魔力を消費し、攻撃を防ぐ障壁を展開する。
「これ。」
グレンがアイリを見る。
「アイリ。」
「いいの?」
「ああ。」
「グレンの方が前にいるよ?」
「俺には盾がある。」
ミスリルバックラー。
衝撃耐性。
そして今は《頑強》もある。
「アイリは長柄武器で戦えるようになったけど、元々は後衛だ。」
「うん。」
「防御手段は多い方がいい。」
「分かった。」
アイリが紫のスキルブックを使用する。
《魔力障壁》
習得。
「これで少し安心だ。」
「グレンが?」
「ああ。」
「私のスキルなのに。」
「アイリが安全になるスキルなんだから、俺が安心するだろ。」
「ふふっ。」
「何がおかしい。」
「何でもない。」
さらに青三冊。
「合成。」
紫。
「鑑定。」
《高位剣術》
「高位剣術?」
グレンが詳しく確認する。
《高位剣術》
剣士向けの上位戦闘スキル。
習得することで、三種類の上位剣技を使用可能になる。
《剛破斬》
力を一点へ集中し、強固な防御を打ち破る強力な斬撃。
《瞬影斬》
一気に敵との間合いを詰め、その勢いを乗せて斬り抜ける高速剣技。
《飛翔斬》
剣を振ることで鋭い斬撃を飛ばし、離れた敵を攻撃する遠距離剣技。
「三つも?」
「ああ。」
「私の長柄武器術みたい。」
「そうみたいだな。」
アイリの《長柄武器術》も、《三段突き》《薙ぎ払い》《旋風防陣》という三つの基本技を使用できる。
「これはグレンだね。」
「ああ。」
迷う理由はない。
グレンが紫のスキルブックを使用する。
光が身体へ吸収される。
《高位剣術》
《剛破斬》
《瞬影斬》
《飛翔斬》
習得。
「……分かる。」
「何が?」
「使い方。」
「三つとも?」
「ああ。」
「試したい?」
「塔でな。」
「庭では?」
「飛翔斬なんか撃ったら何が壊れるか分からん。」
「だよね。」
「ミャ!」
『やる!』
「お前の技じゃない。」
「ミャー。」
さらに合成。
青三冊。
紫。
「鑑定。」
《高位治癒》
「高位治癒。」
「私かな?」
「それ以外誰がいる。」
グレンが詳しく確認する。
《高位治癒》
治癒魔法を扱う者向けの上位スキル。
習得することで、三種類の高位治癒魔法を使用可能になる。
《エリアヒール》
一定範囲内にいる複数の対象を同時に回復する。
《フルリカバリー》
対象一人へ非常に強力な治癒を施し、重傷を一気に回復する。
失われた部位を再生することはできない。
《エリアキュア》
一定範囲内にいる複数の対象の毒や麻痺などの状態異常を同時に治療する。
「……。」
「グレン?」
「これはいい。」
「そんなに?」
「当たり前だろ。」
グレンが《フルリカバリー》を見る。
「ハイヒールより上だ。」
「そうみたいだね。」
「しかもエリアヒールとエリアキュアもある。」
「三人まとめて回復できるね。」
「ああ。」
グレン。
アイリ。
ミケ。
全員が傷ついた場合でも、一度に回復できる。
状態異常も同じ。
「これは絶対アイリ。」
「うん。」
アイリが紫のスキルブックを受け取る。
光。
《高位治癒》
《エリアヒール》
《フルリカバリー》
《エリアキュア》
習得。
「どう?」
「使い方は分かる。」
「魔力消費は?」
「ハイヒールよりフルリカバリーの方がかなり多そう。」
「なら本当に危ない時用だな。」
「うん。」
「エリアヒールも三人が少しずつ怪我した時には便利そうだ。」
「ミケも一緒に回復できるね。」
「ミャ?」
『ミケ?』
「怪我したら治してあげるって。」
「ミャ!」
『なおす!』
「でも怪我しないのが一番だからな。」
「ミャ。」
『わかった』
「グレン。」
「何?」
「私にもいつも言ってるよね。」
「当たり前だろ。」
「ふふっ。」
さらに青三冊。
「合成。」
紫。
「鑑定。」
《魔力圧縮》
「魔力を圧縮し、同じ魔力量でも魔法の威力を高める……。」
「それ。」
アイリがミケを見る。
「ミケじゃない?」
「俺もそう思った。」
「ミャ?」
ミケのサンダーチェイン。
アーススパイク。
どちらも幼体とは思えない威力を持っている。
さらに首輪へ組み込んだ魔力増幅回路。
そこへ《魔力圧縮》まで加われば。
「……。」
「グレン?」
「強くなりすぎないか?」
「ミャ!」
『つよい!』
「まだ覚えてない。」
「ミャ。」
『ほしい』
「使えるか試してみるか。」
「ミャ!」
ミケが前足を乗せる。
光。
紫のスキルブックが身体へ吸収された。
《魔力圧縮》
習得。
「使えた。」
「ミャ!」
『つよくなった!』
「庭では使うなよ。」
「ミャ?」
『なんで?』
「絶対ダメ。」
「ふふっ。」
増幅されたアーススパイクだけでも、大量の岩棘を発生させる。
そこへ《魔力圧縮》まで加わった。
「次に使う時は気をつけた方がいいな。」
「塔なら大丈夫じゃない?」
「威力を確認してからだ。」
「うん。」
さらに合成を続ける。
青三冊。
「合成。」
紫。
「鑑定。」
《魔力強化》
「これは私、もう持ってるね。」
「ああ。」
「じゃあ合成用?」
「そうだな。」
横へ置く。
さらに青三冊。
「合成。」
紫。
《高位盾術》
「盾。」
「グレン?」
「使えなくはないけど。」
グレンがミスリルバックラーを見る。
「今は必要ないな。」
「じゃあこれも合成用?」
「ああ。」
そして。
残った青三冊。
「これで最後。」
「何が出るかな。」
「合成。」
光。
一冊の紫。
「鑑定。」
《高位火魔法》
「あ。」
アイリが覗き込む。
「火魔法。」
「ああ。」
グレンが詳しく確認する。
《高位火魔法》
火属性魔法を扱う者向けの上位スキル。
習得することで、三種類の高位火属性魔法を使用可能になる。
《フレイムランス》
高密度の炎を槍状に形成し、敵へ放つ。
貫通力と威力に優れた単体攻撃魔法。
《フレイムウォール》
指定した場所へ炎の壁を作り出す。
敵の進路を塞ぎ、接近を妨害することができる。
《フレアバースト》
指定地点で爆炎を発生させ、周囲の敵をまとめて攻撃する範囲魔法。
「三つ。」
「これも長柄武器術や高位剣術と同じだな。」
「フレイムランス。」
「単体用だな。」
「フレイムウォール。」
「これは使えそうだ。」
「グレン好きそう。」
「敵を近づけないで済むんだぞ。」
「やっぱり。」
「安全に戦えるならいいだろ。」
「うん。」
「それにフレアバースト。」
「範囲攻撃だな。」
単体。
足止め。
範囲。
三種類。
グレンが少し考える。
「アイリ。」
「うん?」
「覚えるか?」
「いいの?」
「ファイアボール持ってるだろ。」
「うん。」
「なら使える。」
「でも私、攻撃魔法いっぱいあるよ?」
「だからって使えるものをわざわざ金にする必要もないだろ。」
「そっか。」
「必要になった時に選べばいい。」
「うん。」
アイリが《高位火魔法》のスキルブックを受け取る。
紫の光。
《高位火魔法》
《フレイムランス》
《フレイムウォール》
《フレアバースト》
習得。
「どう?」
「分かる。」
「使えそう?」
「うん。」
アイリが少し考える。
「でも。」
「何?」
「グリムゾンティア。」
「あ。」
二人が同時に武器を見る。
現在のグリムゾンティア。
長柄武器へ改造されているが、魔石を利用した魔力増幅回路はそのまま残してある。
風。
氷。
そして。
一つ。
空いている。
「ちょうど一個空いてるね。」
「ああ。」
「火の魔石。」
「……。」
グレンが考える。
「付けられるな。」
「やっぱり?」
「ああ。」
風。
氷。
火。
三属性。
グリムゾンティアの三つの魔石スロット。
すべて埋まる。
「火属性の魔石を入れたら、今覚えた魔法も強くなる?」
「なると思う。」
「フレイムランスも?」
「ああ。」
「フレアバーストも?」
「たぶんな。」
「フレイムウォールも?」
「それも。」
「……。」
アイリの顔が少しずつ明るくなる。
「欲しい。」
「だろうな。」
「グレン。」
「分かってる。」
「買いに行く?」
「ああ。」
「ギルドならあるかな。」
「火属性は珍しくないし、中級魔石くらいならあるんじゃないか?」
「じゃあ後で行こう。」
「そうするか。」
「ミャ!」
『いく!』
「お前はエレナに会いたいだけじゃないのか?」
「ミャ?」
『エレナ?』
「……。」
アイリが笑う。
「ミケ、エレナさん好きだもんね。」
「ミャ!」
『すき!』
「エレナも喜ぶだろうな。」
「うん。」
大量にあったスキルブック。
白。
緑。
青。
紫。
合成を繰り返した結果、かなり数は減った。
だが。
得たものは大きい。
グレン。
《頑強》
《高位剣術》
《剛破斬》
《瞬影斬》
《飛翔斬》
アイリ。
《俊敏強化》
《魔力障壁》
《高位治癒》
《エリアヒール》
《フルリカバリー》
《エリアキュア》
《高位火魔法》
《フレイムランス》
《フレイムウォール》
《フレアバースト》
ミケ。
《跳躍》
《魔力圧縮》
そして。
まだ誰にも使わせていない《魔力操作》。
「結構増えたな。」
「一気に強くなった気がする。」
「ああ。」
「十九階層行くの楽しみだね。」
「新しいスキルは試したいけど、無理に使う必要はないからな。」
「分かってる。」
「ミケも。」
「ミャ!」
『つかう!』
「分かってないだろ。」
「ミャ?」
「ふふっ。」
グレンが残ったスキルブックをストレージへ戻そうとして。
「……ん?」
「どうしたの?」
一冊。
白いスキルブックが残っていた。
「見落としてた。」
「何?」
「鑑定。」
《鍛冶》
「鍛冶?」
「俺はもう持ってる。」
「じゃあ合成用?」
「そうなんだけど。」
グレンがミケを見る。
「……。」
「グレン?」
「いや。」
ミケもスキルブックを使える。
なら。
「生産スキルはどうなんだろうな。」
「ミケが?」
「ああ。」
「鍛冶するの?」
「分からん。」
「ミャ?」
『なに?』
グレンが《鍛冶》のスキルブックをミケの前へ置く。
「試すだけ試してみるか?」
「ミャ!」
『やる!』
「意味分かってるか?」
「ミャ!」
『やる!』
「絶対分かってない。」
ミケが前足を乗せる。
その瞬間。
光。
「……。」
「……。」
白いスキルブックが消え、ミケの身体へ吸収された。
「え?」
アイリが目を丸くする。
「使えた?」
「……ちょっと待て。」
グレンが鑑定する。
《ミケ》
種族:ラグナリンクス。
成長段階:幼体。
主人:アイリ。
属性:雷・土。
スキル。
《魔力回復》
《跳躍》
《魔力圧縮》
《鍛冶》
「……。」
「グレン?」
「覚えてる。」
「鍛冶?」
「ああ。」
二人がミケを見る。
「ミャ!」
『できた!』
「できたじゃなくて。」
グレンがミケの前足を見る。
「お前、どうやって鍛冶するんだ?」
「ミャ?」
ミケも自分の前足を見る。
そして。
爪を出す。
「……。」
「……。」
「ミャ!」
『これ!』
「まさか。」
グレンが爪を見る。
「それで叩くつもりか?」
「ミャ!」
『たたく!』
アイリが吹き出す。
「ふふっ。」
「笑い事じゃないだろ。」
「だって。」
アイリもミケの爪を見る。
「ハンマーの代わり?」
「そんなわけあるか。」
「でも鍛冶覚えたよ?」
「……。」
「ミャ!」
『できる!』
自信満々だった。
「……分かった。」
「試すの?」
「ああ。」
グレンが立ち上がる。
「さすがに気になる。」
「私も見たい。」
「ミャ!」
『やる!』
「その前に。」
「うん?」
「ギルドだ。」
「あ。」
「火属性の魔石、忘れてるだろ。」
「忘れてないよ。」
「今の顔は忘れてた。」
「忘れてないもん。」
「ミャ!」
『エレナ!』
「お前はそっちしか覚えてないな。」
「ふふっ。」
スキルブックの整理をしていただけのはずだった。
だが。
グレン。
アイリ。
ミケ。
三人とも、新しい力を手に入れた。
そして。
次に必要なのは。
火属性の魔石。
「じゃあ行くか。」
「うん。」
「ミャ!」
『エレナ!』
「ギルドな。」
三人は出かける準備を始めた。




