第100話 十八階層
十八階層へ続く階段を上る。
「今度は……。」
「雪?」
目の前に広がっていたのは、白い世界だった。
地面には薄く雪が積もり、岩壁には氷が張りついている。
「寒いな。」
「うん。」
「ミャ。」
『さむい』
アイリがミケを抱き上げる。
「大丈夫?」
「ミャ。」
『だいじょうぶ』
「毛皮あるもんね。」
「俺たちより強そうだな。」
グレンが周囲を見る。
吐く息が白い。
「滑りそうだから気をつけろ。」
「うん。」
気配察知。
魔力感知。
「いる。」
「何体?」
「五体。」
少し離れた場所。
白い影が動く。
「来るぞ。」
雪を蹴り上げながら現れたのは、狼型の魔物だった。
全身を白い毛で覆われている。
「鑑定。」
《フロストウルフ》
寒冷地に生息する狼型魔物。
高い敏捷性を持ち、氷属性魔法を使用する。
「魔法も使うのか。」
「氷なら私の防具も注意した方がいい?」
「ああ。」
五体のフロストウルフが散開する。
「アイリ。」
「うん。」
「身体強化。」
光がグレンを包む。
「クイック。」
「ありがとう。」
さらにアイリ自身にも身体強化とクイック。
「ミケは?」
「ミャ!」
『やる!』
「じゃあ無理しない程度にな。」
「ミャ。」
一体のフロストウルフが口を開く。
「来る!」
氷の塊が飛んでくる。
グレンが横へかわす。
別の一体。
アイリへ。
「旋風防陣!」
グリムゾンティアが高速で回転する。
ガンッ!
飛んできた氷塊が弾かれ、地面へ転がった。
「魔法も弾けるんだ。」
「物によるだろうけどな。」
「これなら便利。」
さらに二体が左右から接近する。
「ミケ!」
「ミャア!」
サンダーチェイン。
バヂィィィン!
雷撃が一体目へ直撃し、二体目へ連鎖する。
「ギャウン!」
二体が雪の上へ倒れる。
「まだ!」
残った三体。
グレンが一体へ向かう。
ヴァリアント。
「スマッシュウェーブ!」
衝撃波が直撃する。
フロストウルフが体勢を崩す。
一気に距離を詰める。
「連続斬り!」
二撃。
深く斬り裂く。
倒れた。
「次!」
アイリの前へ二体。
「薙ぎ払い!」
ブォン!
長い刃が二体をまとめて斬る。
「ギャン!」
「ギャウッ!」
一体が倒れる。
もう一体は傷を負いながらも飛びかかる。
「三段突き!」
シュッ!
シュッ!
シュッ!
三連続の突き。
最後の一体も倒れた。
「終わり。」
「ミャ!」
『かった!』
「ああ。」
三人が周囲を確認する。
他の気配はない。
「ミケ。」
「ミャ?」
「魔力はどうだ?」
「ミャ。」
『へいき』
「グレン、分かる?」
「ああ。」
魔力感知。
ミケの魔力を確認する。
「……。」
「どう?」
「回復してる。」
「もう?」
「戦闘前より減ってるのは当然だけど。」
グレンが少し集中する。
「戻る速度が前より速い。」
「魔力回復の効果?」
「たぶんな。」
「ミケ、何か感じる?」
「ミャ?」
『げんき』
「元気だって。」
「それだけか。」
「ミャ!」
『もっとできる!』
「それは分かった。」
「ふふっ。」
アイリがミケを抱き上げる。
「でも無理はしないよ。」
「ミャ。」
『わかった』
三人は素材を回収し、十八階層を進む。
雪道。
足元は滑りやすい。
だが、グレンの罠察知と気配察知のおかげで、不意打ちを受けることはない。
しばらく進んだところで。
「止まれ。」
「何?」
「前。」
グレンが目を細める。
「大きい反応。」
「一体?」
「ああ。」
雪の向こう。
ズシン。
足音。
「来る。」
姿を現したのは、巨大な熊型の魔物だった。
白い毛。
太い腕。
鋭い爪。
「鑑定。」
《フロストベア》
高い筋力と耐久力を持つ熊型魔物。
氷属性魔法を使用し、近距離では強力な爪による攻撃を行う。
「強そう。」
「ああ。」
フロストベアが吠える。
「グオォォォッ!」
口元へ冷気が集まる。
「魔法来る!」
氷の塊。
大きい。
「アイリ、避けろ!」
「うん!」
二人が左右へかわす。
ドォン!
氷塊が地面へ激突し、雪と氷が飛び散る。
「ミケ!」
「ミャ!」
「足を止めて!」
「ミャア!」
アーススパイク。
ゴゴゴゴッ!
だが。
「グオォッ!」
フロストベアが強引に前へ出る。
岩棘が一本、二本と砕かれる。
「力強いな。」
「止まらない!」
「なら。」
グレンが前へ出る。
ヴァリアント。
「パワースラッシュ!」
ザンッ!
肩へ深く斬撃が入る。
「グオォォッ!」
フロストベアの爪。
「っ!」
グレンがバックラーで受け流す。
完全には流しきれない。
身体が少し押される。
「グレン!」
「大丈夫!」
「今度は私。」
アイリがグリムゾンティアへ氷属性の魔力を流そうとして止まる。
「……。」
「どうした?」
「氷、効くかな。」
「同じ属性だから微妙かもな。」
「じゃあ風。」
風属性魔石へ切り替える。
「エアーカッター!」
複数の風刃がフロストベアへ飛ぶ。
ザシュッ!
「グオッ!」
「通った!」
「ああ。」
グレンが距離を詰める。
「ミケ、雷!」
「ミャ!」
サンダーチェイン。
バヂィィィン!
フロストベアの巨体へ雷撃が走る。
「グオォォッ!」
動きが止まる。
「今!」
「薙ぎ払い!」
アイリが横からグリムゾンティアを振るう。
ザシュッ!
風属性をまとった刃が脇腹を斬り裂く。
「グオッ!」
「グレン!」
「ああ!」
ヴァリアントを両手で握る。
「パワースラッシュ!」
首元。
全力の一撃。
ザンッ!
フロストベアの巨体が崩れる。
ドサッ。
「……。」
動かない。
「終わった。」
「強かったね。」
「ああ。」
グレンがヴァリアントを見る。
「でもまだ余裕はある。」
「武器のおかげ?」
「それも大きい。」
グリムゾンティア。
ヴァリアント。
ミケの首輪。
そして、それぞれのスキル。
少しずつ。
確実に戦力は上がっている。
「ミケは?」
「ミャ。」
『へいき』
「魔力は?」
グレンが確認する。
「……また戻り始めてる。」
「やっぱり魔力回復効いてるね。」
「ああ。」
「これなら連戦にも強くなる。」
「ミャ!」
『もっとたたかう!』
「だから無理はするな。」
「ミャー。」
「ふふっ。」
素材を回収する。
さらに進む。
途中。
フロストウルフ。
フロストベア。
何度か戦闘を繰り返す。
それでもミケの魔力は、以前ほど大きく減ったままにはならない。
「便利だな。」
「魔力回復?」
「ああ。」
「ミケにはかなり合ってる。」
「魔法が主力だもんね。」
「そうだな。」
グレンがミケを見る。
「今後スキルブックが出たら、本当に三人分考えないといけないな。」
「取り合いになったりして。」
「ミャ!」
『ミケの!』
「早い。」
「まだ何も出てないよ。」
「ミャ。」
『ほしい』
「ふふっ。」
やがて、十八階層の奥に階段が見えてきた。
「十九階層。」
「着いたね。」
「ああ。」
グレンが時間を確認する。
「今日はここまでにするか。」
「まだ行けるよ?」
「行ける。」
「でも、十九階層を攻略したら次は二十階層主だ。」
「あ。」
「なら次は十九階層をしっかり攻略して、そのまま二十階層前で休憩した方がいい。」
「なるほど。」
「十五階層と同じだね。」
「ああ。」
「ミャ。」
『かえる?』
「今日は帰る。」
「ミャ!」
『ごはん!』
「それは絶対忘れないな。」
「ミャー。」
グレンたちは来た道を戻り、十五階層の転移装置から塔を出た。
次は十九階層。
その先には、四体目の階層主が待っている。




