5/9
第五章:異郷の町
三日後。
私は、国境を越えた小さな町ミルフェにたどり着いた。
ここはドゥランシル王国の影響が薄く、出入りも自由。
商人や冒険者が行き交う、自由な土地だ。
「ようこそ、ミルフェへ。旅人さん」
酒場の主人が、温かいスープを差し出した。
「ありがとうございます……」
私は顔を隠すために、髪を茶色に染め、名前も「リル」と名乗った。
「どこから来たの?」
「……東の村です。家族が亡くなり、身寄りがなくて」
「可哀想に。でも、ここなら働けるよ。掃除や調理なら、毎日雇うぜ」
「お願いします」
こうして私は、酒場の女中として暮らし始める。
──平和だった。
毎日、皿を洗い、客に笑いかけ、夜は小さな部屋で地図を広げた。
「次は……南の海沿いの町か」
逃げ続けるつもりだ。
でも、運命はそう簡単には許してくれない。