表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/142

泥の妄執5話《濁木邸 狂詩曲(ラプソディー)》後編

小さな音とともに、

壁の一部がゆっくりと動き始めた。


そして――

隠し部屋へと続く通路が姿を現す。


優は一瞬ぽかんと口を開けて見つめていたが、

遊楽が優に触れようとしたその瞬間

「待って下さい!!」


「がははは!! 越後屋だ〜〜〜!!

お主も悪よの〜〜〜!!

こういう隠し部屋って絶対これだろ〜〜〜!!」


意味不明な叫びを上げ、

優は全力で隠し通路へ走り出した。


「優様ぁぁぁ!!」

抜楽が慌てて追い、その後ろを遊楽が追う。


「抜楽、あそこには入れるなよ!」

「もう無理だよ父上〜〜〜!!」


通路は手狭で、一人ずつしか入れない。


少し前、濁木邸――。


遊楽は度重なる優の無茶、

派閥からの突き上げ、

そして“濁木家の切り札”が消えていることに気づき、

朝から動き詰めで疲労困憊だった。


今日ばかりは抜楽に優の世話を任せ、自身は動き回っていた。


(あの人形は厳重に保管していたはず……

雁楽と元楽しか知らない。

あのガキども、今日会ったが知らばっくれていやがる。

どっちが勝手に盗んだに違いない……許さんぞ)


小ホールでは大音量のカラオケが流れ、

遊楽は休憩のため寝室へ向かった。


「いい加減、天宮に鞍替えするか……

いや、茜を手に入れてからだな。

うむ、寝よう」


そう言って寝ようとした瞬間――

寝室の扉が乱暴に開かれた。


「何事だ」


起き上がった遊楽の目に映ったのは、

普段以上にランランとした目をした久遠優。


「なんだ豪華そうな扉だから開けたのに、

カエルが居やがる。つまんねー」


豪華な成金趣味の寝室を一瞥しただけで、

優は興味を失った。


遊楽はその態度にイラつきつつも、

顔に出さず冷静に声をかける。


「優様、どうしましたかな?」


優はくるりと回り、廊下へ出ると

窓の外、離れの倉庫を指さした。

「あそこだ!!

俺のセンサーがビビッと来たぜ!!」


指さした方に優が動き出した。


「は?」

遊楽は一瞬思考が止まったが、

優が向かう先に恐怖を覚え、慌てて追う。


汗だくの抜楽が合流する。

「父上、あのガキどこ行きましたか」


(……三人の息子の中でもコイツはやはり無能だ)


「バカ者!!

貴様の役目はアイツを抑えることだろうが!!

急げ、アイツは倉庫に行った!

今は誰も拘束してないが、

万が一あそこを見られたら非常にマズイ!!」


隠し部屋には非合法な品が多数置いてある。

見られたら終わりだ。


抜楽はぎょっとして優を追う。




そして今――。


優はハイテンションのまま隠し廊下へ突入し、

一直線の通路を駆け抜け、

目の前の扉を勢いよく蹴り破った。


優は部屋の前でぴたりと立ち止まり、

まるで時間が止まったかのように動かなくなった。


遊楽はその様子に戸惑い、

おそるおそる声をかける。


「さ、さあ優様……ここには何もないでしょう……?」


だが優は動かない。


遊楽は不安を抱えながら部屋を覗く

だが――

覗いた光景は、遊楽の想像を完全に裏切った。


部屋の中央に、

五人の男たちが集まっている。


そのうち一人は、

遊楽によく似た“カエル顔”の男。

手には奇妙な人形を持っていた。


雁楽だった。


他の四人も、

ハコノミの“問題のある料理人たち”。


そして――

床には 二人の人物が拘束された状態で座らされていた。


遊楽は目を疑った。


「……茜……!?

それに……リカ殿まで……!」


茜は顔を上げ、

怒りと困惑が入り混じった唸り声を上げた。


「馬鹿な……!

なぜ貴様がここにいるの、雁楽!!」

遊楽が吠えた


雁楽にとって、

今日が“絶好の機会”だった。


明日から茜に護衛がつくという噂。

父・遊楽は久遠優の対応で忙しく、

屋敷は全体的に人手が散っている。


使用人たちはホールの準備で手一杯。

屋敷内の警戒も薄い。


雁楽はそこを突いた。


茜の家に使用人をねじ込み

実家の隠し部屋を利用

人形を手に入れ、計画を進める

今日中に“全てを終わらせる”つもりだった


完璧なはずだった。


だが――

優が現れた。


雁楽は震える声で問いかける。

「な……なぜだ……

どうして……どうして分かった……?」


優は隠し部屋に入ると、

まず部屋の広さに目を丸くした。


(……小判小判……w)


そして五人の男たちを見て、

さらに目を見開く


「え」(何だこのチンピラ)


だが――

優の視線はすぐに床へ向いた。


そこには、

拘束されている二人。


リカと茜。


優とリカの目が合う。


リカの瞳には、

驚きと安堵が入り混じっていた。

口は塞がれているが、必死に何かを伝えようとしている。


(……助けて)


優は状況を一瞬で理解した。


その瞬間、

優の表情がふっと変わる。


今日の優はカラオケでテンションが振り切れていて、

ある意味“無敵状態”


そして――

自分の世話をしてくれているリカが危機にある。


優の中で、何かが切り替わった。


「……てめー、リカに何してんだコラ」


白金色の魔力が優の周囲に立ち上る。


その魔力は濁木邸を越え、

天華全体にまで広がるほどの圧力を帯びていた。


部屋の空気が震え、

雁楽も他の男たちも思わず身を固くする。


バチッ、バチッ――

白金のオーラが優の身体を包む。


隠し部屋の器具が揺れ、

いくつかが軋んだ音を立てた。


「おめーら覚悟しろよ。今の俺は怒ってる。

手加減できんぞ!!」


緋色の瞳がランランと輝き、

優は胸を張って宣言する。


「今の俺は……そう、スーパー久遠優だ!」


優が指をさす。

リカの近くにいた男だ。


「まずはお前だ!」


シュンッ。


優が飛び出す――

が、速度は“恐ろしく普通”。


指さされた男は驚きつつも、

あっさりと横に避ける。


「おっと」


そのまま優の腕を軽く押さえ込み――


ガシッ。


優はあっさり拘束された。


「あれ~~!? ちくしょー! 離しやがれ!!」

じたばた暴れる。


さっきまでの纏った魔力が萎んでいく優を見て、

男が雁楽に問いかける。


「こいつ、どうしますか?」


雁楽は肩を震わせ、

乾いた笑いを漏らした。


「……はは。ビビらせやがって」


その瞬間


「雁楽……馬鹿なことはやめろ」


低い声

遊楽だった


雁楽は遊楽に下卑た笑みを浮かべながら近づく

次の瞬間――


ドゴッ!!


雁楽の拳が、遊楽の腹にめり込む。


「ぐっ……!」

遊楽はもんどり打って床に倒れた。


「わっ、兄さん何してんだよ!」

抜楽が慌てて駆け寄る。


だが雁楽は笑いを止めない。

「ハハハハハ!!幸運だ」


その目は完全に狂っていた。

「今日で家督を譲ってもらおう、親父」


倒れた遊楽を見下ろしながら吐き捨てる

「いい加減、お前のやり方にはウンザリしてたんだよ」


そして、吐き捨てるように続けた。


「茜に人形を使わずに振り向かせる? 笑わせんな

お前みたいな、

醜い爺に振り向くことなんてありえねぇんだよ、バーカ」


「……何を……」


遊楽が苦しげに呻く。


雁楽は振り返り、男たちに命じた。

「こいつら、消していいぞ」


ニヤリと笑う。


「好きにしな」


その瞬間――


男たちが一斉に動いた。

「オラァ!!」


「前から気に入らなかったんだよ!」


拳と蹴りが容赦なく叩き込まれる。


「ぐっ……!」

遊楽と抜楽は防ぐこともできず、ただ殴られ続ける。


そのとき――

ふっ、と空気が揺れた。


「……ん?」

一人の男が振り向く。


次の瞬間


ドンッ!!


その男が吹き飛んだ。

「なっ!?」


続けざまに、影が走る。


ネズミの獣人、袁小

一人の男の腕を掴み、そのまま流れるように投げる。


ゴンッ!!


床に叩きつけられた男が動かなくなる。


さらに


バキッ!!

別の男が蹴り飛ばされる。

「うおっ!?」


倒れた男の向こうに立っていたのは、


まだ少年の面影を残す青年――犬飼太郎だった。

「あぶねー……ギリ間に合った?」


軽い口調で言う。


だがその目は鋭い。

袁小の“導き”によって、この場所に辿り着いたのだ。


「待て!!」


雁楽が叫んだ。

「これ以上近づいたら……

こいつがどうなるか、分からんぞ!」


雁楽は優を指し示す。


優を押さえている男も、

雁楽の意図を理解したように頷き、

優を前へ突き出すように構えた。


太郎と袁小の動きが止まる。

「くっ……」


二人は優の安全を最優先にし、

不用意に動けなくなった。


部屋の空気が張り詰める中、

雁楽はすでに“逃走”を考えていた。


(……あそこへ行けば大丈夫だ。

そのために、この部屋を選んだのだから)


隠し部屋の奥には、

雁楽が密かに用意していた“転移装置”がある。

父・遊楽にも知らせていない、

自分だけの逃げ道。


雁楽はそこへ向かおうとした――

だが、盲点があった。


太郎と袁小に気を取られ、

茜とリカの動きを見ていなかったのだ。


拘束されている二人は、

信じられないほど正確なタイミングで

互いに目配せし、意思を合わせた。


優を押さえていた男の腕に、

二人が同時に体ごとぶつかる。


「なっ……!? おい、離れろ……!」


男が体勢を崩した、その瞬間。


まるで合図を待っていたかのように――

太郎と袁小が動いた。


「……っ!!」


雁楽が転移装置に手を伸ばそうとした瞬間、

優を押さえていた男は優を手放し、

逆に太郎に取り押さえられる。


太郎は静かに告げた。


「……終わりだよ」


その言葉に、

雁楽の顔色が変わる。


「ふざけるな……!」


雁楽は焦りのあまり、

手に持っていた“人形”を振り上げ――

茜ではなく、リカへ向けようとした。


リカの瞳が大きく見開かれる。


その瞬間


白金の光が、

二人の間に割って入った。


人形と、白金の光が交差する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ