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江戸のような異世界で  作者: osagi
くノ一の里
89/92

<忍月>

 俺もこの村に来てから五年。忍月を含めて三人の子供に恵まれて、長女の忍月は小さなくノ一として日々その技を学んでいる。だがその忍月が学ぶ忍術学校は全寮制であり、俺と忍月の接点はないに等しい。


 「それで、子供たちはどうなんだ?」


 夕方になって家へと帰ってきた白月に俺は忍月のことを聞く。白月はこの村の村長であり、忍術を伝授する立場にある。そのため白月は忍月も含めたこの村の子供たちと毎日会っているのだ。


 「しっかりやってるわよ。忍月はきっと私を超えるくノ一になるだろうけど、私みたいに跡継ぎを作らせるにはもったいないわ」


 白月も元々は御庭番であった。しかし跡継ぎを作るためとして御庭番を離れて奉行所に組み入れられ、今では村に帰って村長である。


 「やっぱり、御庭番に戻りたかったのか?」

 「この里にとってくノ一としての本領を発揮できるのは御庭番だけなの。くノ一として生まれ、くノ一として生きてきたのであれば戻りたくもなるわ」


 俺は白月の言葉に何とも言えない気持ちになるが、白月はそんな俺を見てクスリと笑う。


 「でも別に後悔はしてないわ。あなたがいるんだもの。それに続けようとすれば本当はいつでも続けられたのよ」

 「そうなのか」

 「忍月ができたときにあなたに妊娠していると気づく前にあなたの前から姿を消して村に帰って出産する。そして御庭番に戻って二度とあなたの前に現れなければ十分御庭番にいられたわ」


 だが、白月はそんなことはせず俺と一緒にいるために白月は俺を村に連れて帰ってきてくれた。これはこれでうれしい言葉である。そしてそんな気持ちに応えようと俺は白月を抱き寄せるが・・・。


 「もう、焦らないで。できたら明日、千鶴と一緒に忍月と勝負をしてほしいの」

 「勝負?」

 「確かにあの子はまだ小さいのに上の子たちを越える技術を持っているわ。でも一度は私以外に自分よりも上がいると教えなくちゃ」


 いったい何を言っているのかわからないが、そう言って白月は明日の作戦を俺に伝えてきたのだった。



・・・・・



 俺と忍月の接点は親子でありながらほぼ無いに等しい。忍月は生まれてすぐに乳母のもとで育てられ、俺は会うことができなかった。そしてそのままくノ一として育てられるために白月が通うような形で育てられてきたのだ。


 そのため忍月は俺が白月と一緒にいることから父親だとは知っているが、それ以上でもそれ以下でもない関係性なのだ。俺は忍月への思いはすべて白月に、白月は俺のその思いをすべて受け止めるということをしてきたのだ。


 「よーし、やっちゃうよ」


 そして今、忍月は俺の目の前で軽く体を動かしている。


 「お父さんだからって手加減はしないんだからね」

 「はいよ」


 今回の勝負、それは森の中を逃げまわる俺を忍月が捕まえるというものだ。そして俺は森の中に入って忍月が来るのを待つことになる。


 (いったいどうなるか?)

 (白月様の言っていた通り私たちは私たちに与えられたことをこなしましょう)

 (そうだな)


 刀に手をかけた俺は千鶴にそう言われて森の中を歩いて行く。今回の勝負、それは千鶴の能力を最大限に使ったものになるのだ。


 そして、しばらくすると忍月はすぐに俺を見つけて俺に背後から背中へと飛び掛かってくる。


 「ほら捕まえた。ウサギは耳がいいし、人間なんか簡単に捕まえられるんだよ」


 ご機嫌にそう言った忍月であるが、忍月はそれ以上何も言わずただ俺に背負われるだけになる。すると、そこへ近くにいた白月がやってくる。


 「捕まったのはあなたよ忍月」

 「え?」


 忍月もようやく自分の体が動かないことに気付く。俺の背中に覆いかぶさった忍月が足で絞めつける俺の腰にあるのは千鶴の二刀流『双翼』である。


 千鶴は忍月が触れた瞬間にその意志を忍月に移して忍月の体の動きを完全に封じたのだ。そして千鶴から解放された忍月は黙ったまま大きくため息を吐く。


 「情報がない相手との戦いに油断は禁物よ―――」


 それから白月の長い説教が始まる。調子に乗る忍月をギャフンと言わせる白月の作戦はこちらの思い通りに完結したのだった。





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