第47話 防御の秘密を探れ
クラン『灰国の鉄壁』へ治療師として勤務するのは、クラン会議から3日後に決まった。
商業都市ウルカニルには、既にシルビアの転移陣が設置されている。
すぐにクランと直接交渉することができ、採用は二つ返事で決まった。
非常勤とはいえ、治療のできる魔法使いは、クランや冒険者から歓迎される。
エドモンダ侯爵様の紹介状で、信頼があるならなおさらだ。
この間に、嬉しい知らせが届いた。
クラン『暁の刃』が攻略中だった中規模ダンジョンを踏破したのだ。
メアリがクラン拠点に戻ったときに、攻略の様子を教えてくれた。
バニス草の粉を利用したオーク攻略は大成功だったそうだ。
オークにとってバニス草の粉は猛毒で、粉に触れると弱体化、もしくは死亡してしまう。
人体に影響はないため、粉をばらまくことでオークだけが苦しむことになる。
未踏破区域への散布に加え、生き残ったオークに対しても、直接粉をかけることで、楽に殲滅することができたようだ。
罠についても想定通りで、手動で動作する罠が動作することはなかった。
モンスター部屋の大量のオークも、大半が粉の毒で息絶え、生き残ったオークキングは戦力を集中することで討伐できたとのことだ。
この成功で『暁の刃』は汚名返上となり、今後も新たなダンジョン攻略に向かうだろう。
そしてメアリは……。
「師匠、『暁の刃』へのけじめはつけました。今後は『百錬自得』のメンバーとして、精進することを誓います」
「お、おう」
ということで、俺の弟子としてクランに入ることが決定した。
俺の出張中は、ミリアンと共にスキル修得に励んでもらう予定だ。
今日から『灰黒の鉄壁』に出勤だ。
マーガレットと共に、商業都市ウルカニルに来ている。
どのようにグレアートの【建城鉄壁】スキルを見せてもらうかは、よくわかっていない。
エドモンダ侯爵様が言うには、いけばわかる、とのことだった。
……教えてくれてもいいと思うんだけど。
『灰黒の鉄壁』のクラン事務所へ行くと、リーダーのグレアートの元へ案内してくれた。
……ゴツイ、一言で表すとこういう感じだった。
とにかく全体の部位が太い。
全身が筋肉の塊のような人だった。
身長も2メートルほどと高く、座っているのだが、威圧感が半端なくある。
これ……スキルじゃなくて筋肉で防御力高いんじゃないだろうな。
「俺がグレアートだ!治療師だな!これからよろしく頼む!」
声でかっ。
周りの空気がビリビリ震えた気がした。
「は、はじめまして。治療師のチェスリーと申します。よろしくお願いします」
「助手のマーガレットですわ。よろしくお願いします」
「はっはっはっ!かしこまらんでよい!敬語もいらん!気楽に話してくれ!」
「……わかった。それで具体的にはどこで仕事をすればいいんだ?」
「俺のクランはウルカニルの防衛を任されておる。荒事が多いので生傷が絶えんのだ。ポーション代も馬鹿にならんでな!ガッハッハ!」
「はあ……片っ端から治療するってことかい?」
「ガッハッハ!そう言いたいところだが、非常勤の限られた時間を有効に使わせてもらうぞ。最も怪我をする時間帯に集中して治療してもらおう!」
「ほう、例えば魔物が出現する夜とか?」
「はっ!俺のクランは都市にくる魔物如きに遅れをとるような柔な鍛え方しとらんわ!」
「え?生傷が絶えないって……」
「もちろん、俺らの訓練の時間だ!模擬戦は特に真剣にやっておるからの!」
「ええ!?訓練で!?」
「そうだ!何事をも跳ね返す強い肉体を作るために、訓練こそ最重要なのだ!」
何という脳筋……。
しかもそれで生傷が絶えないって、どんな訓練してるんだ。
「わ、わかった……。訓練に立ち会って、怪我したものを治療すればいいんだな」
「そうだ!場所は訓練場で、念のため防具をつけるのを忘れるなよ!」
「……えぇ、治療師なのに何で防具がいるんだ?」
「たまに吹っ飛んでく奴がおるからの!回避に自信があるならつけんでもいいぞ!」
おいおい、治療師なのに安全地帯はないのかよ。
しかし、実際に訓練風景を見ないと、どれだけ危ないかわからないな。
「……わかった。防具はつけておくことにして、マーガレットは外で待機な」
「わ、わかりましたわ……」
既に訓練は始まっているとのことで、訓練場へ案内される。
うっ……強烈な男の汗臭い匂いが漂っている。
マーガレットも渋い顔で鼻をつまんでいる。
「ここだ、入ってくれ!」
「はい……マーガレットは少し離れてていいよ」
「はい・・・・・そうさせてもらいますわ」
訓練場の中には男が20人ほどいた。
グレアートが壁に沿って座り、俺も隣に腰を下ろした。
3組が1対1で格闘戦を行っており、残りは同じように壁の周りで見学している。
どれも凄まじい格闘戦を繰り広げているが、特に1組は目を見張るものがある。
完全に足を止め防御もせずに、相手の顔や腹に交互に拳を打ち合っているのだ。
1発入るたびに、訓練場が振動する。
「あの…・・グレアートさん。あれは何をやっているんだ?」
「あれか、見て分かるだろう。お互いの拳にどこまで耐えられるかの訓練だ」
見たまんまじゃん!
そりゃあ生傷も絶えないわけだ。
こんなの続けてたら、体が壊れてしまうじゃないか。
それにしても全員が筋肉隆々だな。
訓練場内が蒸し暑くて汗が出てきた。
「やめい!次は俺の訓練だ。全員並べ!!」
何が始まるんだ……。
おっと、魔力視の眼鏡かけておこう。
グレアートが中央に立ち、その前にずらっと全員が並んだ。
「はじめい!!」
グレアートがスキルを使ったのだろう、魔力視の眼鏡ではっきりと見えた。
黒っぽい茶系の魔力が、全身を覆っていく。
これが……防御のスキルか!?
そして全員が気合いを込めつつ、拳や蹴りでグレアートに打撃を与えていく。
それをグレアートが堂々と体で受け止める。
室内にはリズミカルに響いてはいけないような、重い打撃恩が連続で響き渡る。
ドンドンドン!ドンドンドン!ドンドンドンドンドンドンドン!
三々七拍子かよ!?
たっぷり30分、打撃を加えていた男たちが全員へばるなか、グレアートは余裕で立ち構えたままだった。
「チェスリー!治療してやってくれ!!」
うわあ、グレアート無傷だよ。
他の人は、打撲の痕が痛々しいな。
でもこれなら初級のヒールで治せる程度だ。
外にいたマーガレットを呼び、二人でヒールをかけていく。
マーガレットはちょっと涙目になっていたけど、まあこれも修行の一環という事で。
マーガレットのヒールで、あからさまに顔が緩んでるやつは、後でグレアートに告げ口しておこう。
「チェスリー、おまえさん凄いな。打撲がこんなに速く綺麗に治るの見たことないぞ」
グレアートが驚いたような顔で声をかけてきた。
実は打撲に混ざって、骨にヒビが入ってそうな酷いものがあったので、例の白黒の魔力色を流して治療していたのだ。
「ははっ、伊達に治療で金稼ぎしてるわけじゃないってことだ」
ほんとは伊達だけどね。
いや、魔班病治療では荒稼ぎしてたようなものだし、嘘じゃないか……。
「いい腕だ。専属にしたいぐらいだな!」
「いやいや、それは勘弁してくれ。他にも依頼があって、ここには小遣い稼ぎで来てるだけだからな」
これがクランで決めた言い訳だ。
空いた時間の小遣い稼ぎを、非常勤でしているということにした。
「しょうがないな!だが契約してる間はしっかり頼むぞ!」
この契約期間も曖昧にしている。
俺がスキルを修得するまで、というのが本音だが、こちらから仕事をさせて欲しいと頼んだので、ある程度は融通をきかせるつもりだ。
よくそんな条件で採用されたものだと思ったが、実際に見て納得した。
これほど怪我をするなら、俺がもらう報酬より、ポーション代のほうが高額になるだろう。
そして目的であるレアスキルも、まさか初日から見られるとは思わなかった。
だが、あの防御のスキルが最も硬いものかどうか、これから見極める必要がある。
一先ず情報を探らなければならない。
俺は自他ともに認める隠し下手なので、調査はマーガレットにお願いした。
マーガレットは、元貴族学校の知り合いに話をしてくれた。
その知り合いからの話によると、最も硬い防御は滅多に見ることはなく、、訓練では使わないそうだ。
あの完璧に見えた防御の魔力より、もっと上があることに驚きだ。
滅多に使わないなら……使わざるを得ないように仕向けるしかないな。
俺はマクナルに転移で移動した。
マクナルに移動した目的とは――。
「レフレオン、久しぶりだな」
「おう、どうした?ついに冒険に出かけるのか?」
「いや、冒険はまだだ。レフレオンに一つお願いがあってな」
「つまんねえことだったらお断りだぜ。俺も暇ってわけじゃねえんだ」
「防御力に自信のあるやつがいるんだが、試してみたくないか?」
「……ほお。そいつあおもしれえ話じゃねえか。どんぐれえ硬えんだ?」
「筋肉隆々の男20人が殴り続けて、傷一つつかないぐらいだ」
「おう、すぐ連れてけや。俺がやってやる」
レフレオンは斧使いだが、あの『灰黒の鉄壁』の連中にも負けないぐらい、筋肉に自信を持っているのだ。
さらに以前教えた武術の魔力補助により、攻撃力は桁違いに増している。
これなら本気を出さざるを得ない状況に追い込めるかもしれない。
問題は、レフレオンが訓練時の防御を破れるかどうか、やってみないとわからないこと。
グレアートが挑戦を受けるかどうかは、心配していない。
こういう挑戦は絶対好きそうなタイプだからな。
そして次の日、俺は転移でレフレオンをウルカニルに連れてきた。
堂々と正面から挑戦状を叩きつけると、グレアートは喜々として挑戦を受けた。
訓練場でレフレオンとグレアートが向かい合う。
「おめえ防御に相当自信があるそうだな。だが俺の攻撃には耐えられんぞ」
「ガッハッハ!なかなか良い筋肉をしているようだが、その程度で俺の防御が崩せるか!」
「言ったな、なめるなよ!」
レフレオンが腕に力を込める。
あれからも訓練していたようだ、魔力視で視ると赤系の補助魔力が、きっちり働いている。
グレアートは、いつも訓練で使う防御スキルで対抗するようだ。
レフレオン頼むぞ!
「はあっ!!」
レフレオンの拳でグレアートが吹っ飛ばされた!
これにはグレアートも驚きを隠せない。
俺も期待していたとはいえ、驚きを隠せない。
「くっ!!この程度でいい気になってんじゃねえぞ!!もう一度勝負だ」
「けっ!負け犬はよく吠えやがる。何度でもやってやらあ!」
グレアートが気合いを入れなおし、防御を固めていく。
これが本気か!?
魔力視の眼鏡ではっきりと見える。
黒に近い……いや、これはグレアートの髪の色にそっくりの灰黒色の魔力だ。
「どりゃああ!!」
レフレオンが再びグレアートを拳で殴る。
体が浮き上がりそうなほどの轟音が訓練場に響くが、グレアートは微動だにしていない。
「ぐああああ!」
レフレオンが拳と肩を傷めたようだ。
俺は急いでレフレオンを治療する。
ありがとうレフレオン。
お前の尊い犠牲のおかげで、レアスキルの本気はしっかり視させてもらったぞ。
次回は「クラン『黄金の翼』へ」でお会いしましょう。




