表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/22

21

 外に出ると、薄く伸びる雲に茜色の夕日が、緩やかな斜面を彩る緑の田畑を朗らかに照らしていた。

 その背後には岩の山々が連なり、まるで村を守るかような姿にレスターは息を飲む。

 

 教会から村の中心までは一本道で、大凡三十分ほどあるとのことなので、取り敢えずレスターは散策することにしたのだが、道は舗装されておらず、凸凹に足を捕られ、つま先を痛めたのは言うまでもない。

 とはいえ、レスターを悩ますのは単に道の悪さではなかった。


 一本道ゆえに、誰彼問わずレスターに視線を向けて来る。

 決していいものではない――白い目線だ。

 家々の前を通るたびにレスターが声を掛けても、挨拶を返す者は誰一人としていなかった。


 それでもレスターは仕方のないことと割り切るしかないと考える。

 人間は現在進行形でジェムを使い、大気中に有害な黒ジェムを排出しているのだから。

 このままでは世界が終わってしまうのも知らずに。


 

 村の中心へと向かう途中、レスターは一本の折れた道の先に見える広い家を認めた。

 他の家々は道沿いにあったが、その家だけ離れたところにあり、まるで他を寄せ付けていないかのよう。

 近づいてみると一回建ての広い家屋に、四角柱の煙突が一つ。もくもくと茜色の煙が空へと昇っていく。言うまでもないのだが、庭はとても広く境界線が見えないほどである。

 恐らく本道と折れた道の手前までが敷地なのだろうと、レスターは推察する。



 一人の男前でボサ頭の男が出てきた。

 人間で言うと二十代後半な風貌。がっしりとした体躯。見る者にクールな印象を与える。

 身長はレスターより高く百七十超えていて、背中に膝まで伸びるほどの大きな剣を一本佩わせ、狩りにでも出かけるのだろう。ぎっしりした腕の筋肉に、所々に見える古傷が、男の成りを際立たせているのは言うまでもない。


「見ない顔だな――お前、何処から来た」

 男は髪を掻き毟りながら言った。

 とてもぶっきらぼう――だが、会話ができるだけましだ。


「人間が俺に何か用か」

 男が再度訊ねる。


「いえ、たまたま通りかかっただけで――」

「俺ん家は観光名所じゃねぇ。つうか人間が何でここにいるんだ? よくもまあデーモンに殺されずにここまでこられたな」


「この国の魔王様と家令のヴァルターさんに助けて貰ったので何とか――ともあれ今は、いろいろありまして、一緒に旅へ出たところです。初めてきた村でしたので…・…何といいますか、迷惑でしたらすぐ退散しますので」

 

 言ってレスターは会釈をして去ろうとしたが、

「ミルヒシュトラーゼがこの村にいるのか」

 レスターには何故、男がミルヒを呼び捨てで呼んだのか分からなかったが、

「今、何処にいるのかは分かりませんが、恐らく教会にいるかと。ですが今彼女はとても忙しいので、会うのは難しいと思いますよ」


「恩に着るぜ、人間」


 レスターの問いには答えず、男は家の中に戻っていってしまった。

 同時に煙突からずっと昇っていた煙も消えた。

 レスターは後を追って玄関に向かおうとしたが辞め、村の中心部へと向かうのを諦め、道を外れて獣道へと入っていく。


 途中、草を掻き分けながら、レスターはずっと考えていた。

 短命なゆえに忘却される記憶の欠片――人魔を同じ人である事実を忘れている種族。

 長生きゆえに残る記憶の欠片――約束を反故にすれば、人間が再侵攻する不安――。

 

 歴史の真実を国に戻って教えるべきなのか。

 けれども人魔はそれを欲していない。

 寧ろ逆、このまま解決できなければ世界など滅びてしまえばよいとミルヒは言う。

 架け橋になればと思い受けたものの、現実は甘くはない。

 現に村に来て誰一人としてレスターに声をかけるものはいなかった。

 レスターは苦しんでいた。

 


 獣道を進むこと五分、草原地帯がレスターの眼前に広がる。

 風が吹くと様々な音色を葉が奏でる草原に、レスターは足を踏み入れようとするも、途中でやめた。

 手つかずの自然が残る草原の上で生きる色とりどりの花、蜜を求めて蝶々が飛び、その上を巣作りの材料を探しにきた小鳥が舞い、更に上には茜色の陽に照らされた綿雲がゆっくり流れ、影を作る。

 レスターは邪魔にならないように寝転がる。


「あの話……」

 

 レスターは神父が言った、王の末路の話を思い出す。

 人間界にいたら知ることなど絶対に不可能な伝承――。

 勿論、口伝なゆえ、誇張、改変はあるだろう。


 だが人魔は人間よりも遥かに長生き。

 ギフトを真面目に口伝で受け継ぐ人達だ。

 彼らが著しく歴史真実をいとも容易く捻じ曲げてしまうだろうか。虚偽を弄するだろうか。

 神父さんもその点は一貫して事実だと詰問したときに言ってたな。


 そう考えると、後に残るのは王は記憶石に全ての感情を納め、そしてキング・デーモンに変わった――悲しい結末のみ。


 レスターは大きなため息をついた。

「即死特典のヒールスキル1なら嬉しかったけど……荷が重すぎるよ……」


 目に涙を溜め、手の甲で拭うと代わりにレスターは一つの事実を思い出した。

「どうしてザテリーテンさんは俺の背中を――」


 優しくしてくれた事実。

 その上で、聞きそびれてしまった、出会ったときから名前を知っていたということ。

 分からないことだらけだ。もしかして、末路は同じようにデーモンになってしまうのか?

 その他にもレスターはジェム、人魔と人間、何よりデーモンの真実も考えなくてはならない。

 やがて未解決の思考は不安を呼び、押しつぶされそうになっていたレスターが自身の胸に手を当てた――ときだった。


「人の究極の幸せは以下の四つであると心得なさい」


 声が聞こえた。

「神官様!!」

 目を真っ赤にしたままレスターは慌てて起き上がるも、誰もいない。

 代わりに、山裾から降りた一陣の風が草の香りを乗せてレスターを撫でた。

 そして同時進、村の方から大きな音が聞こえてきた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ