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 リュウガキが最後に目撃された場所をレスターが問うと、神父は地図を机に広げると、見覚えのある地名を指差した。


「ネブラか――クアルソ討伐の前に、ショハムに関しての調査もしないとだね」

「楽しみが増えて私は嬉しいわよ」


 ミルヒは腕をぐるんぐるんと回して見せた。

 やる気満々といったところだろう。


「ななな……このタイミングで三軍神を討伐とは! ともなるとあの件は(・・・・)やはり……」


 神父が黙った。両手を口に当てて、とてもわざとらしい。

 というか隠さず言った方がいいと思うぞ。

 

「何か御存じなことでも?」

 すまし顔でミルヒが尋ねる。

「取り留めのないことですので、ミルヒ様には――」

「教えていただけると嬉しいのですが」


 レスターが無言の何かを感じたのは言うまでもない。

 神父は吹き出る汗を拭いながら、

「実は一年ほど前の春、ルントラ湿地帯を管轄する教会の者と話をする機会がありまして、大気中の黒ジェム含有率に異常な上昇が認められたと報告が……」


 一年前の春――レスターがアルビンと出会った頃のことだ。

 関連性はあるのだろうか。

 レスターは一人で背筋に悪寒を走らせていたところで、ミルヒが「何故報告しないのか」と割と怒り気味に言う。と言うか大気中の黒ジェム含有率って何だろう?


「飽くまで一時的な情報データだと思っていたのです。それに本教会の黒ジェム含有率測定器はこのように通常値を示しているゆえ……」

 

 レスターは二人の視線の先、壁にかかる時計を半分にしたような装置を見た。

 左を零と定め、青いラインの上を針が昇り、頂上を差した黄色いゾーンを五十、右一杯に振り七十五のラインで赤いラインと区分けされ、振りきれたところは百となっていた。

 そして今現在の位置は青いライン上、十の位置で針は止まっていた。

 恐らくこの装置が大気中の黒ジェム含有率を示す代物だろう。

 確かに神父の言う通りだった。


「問題ないかは王国が判断します。もとより黒ジェムの大気含有率は、国法が定める、教会の義務の筈ですが」

「お言葉を返すようで恐縮ですが、国からの支援もままならない状況では――」


 つうか支援って何だよ……。

 紅茶飲むお金があるなら、投資する先違うんじゃないかな。


 レスターは少し呆れながらも、装置に手を伸ばすとすぐに気づいた。

「歯車がないよ、この装置」

 黒ジェム含有率測定器を裏側に、レスターは裏蓋を開けて二人に示した。

 歯車は内部の機構に挟まっていた。

 レスターは外れていたそれを元に戻すと針は見る見る昇っていき、三十八で止まった。一応青いラインではあるが、十と比較すると明らかに大きい値だ。

 

 ミルヒは黙って視線を神父へと向ける。


「ええと……繰り返しになりますが、本教会は寄進が乏しく――」


 そそくさと壁掛けの黒ジェム含有率測定器を片付けようとする神父に、差し出された紅茶のグラスと残りを見せる。


「余り言いたくはないのですが、随分と深い味わいの紅茶を所望されているようで……」

「これは……その……」

「ルンビア村に住む者の納税率は非常に高いと聞いています。嘘は感心しませんね」

「はて……何のことでしょうか」


 神父はとぼけるので精一杯な様子。


「月一での、黒ジェム大気含有率の測定は、ザテリーテン王国法第三十六条に明記されている教会の義務であり、ルンビア村は王都に最も近い教会ゆえ、含有量の報告を一手に取りまとめる任を任せている筈です。私の下に来る報告書は偽造だったということなのですか」


「その点については誠に申し訳なく――しかしこの教会には、本当に寄進をする者がいないのです。何しろ人手も足りず人を招く余裕も――」

「御託を並べている暇がありましたら真実を語りなさい。二言目は言うまでもないわね」



 結局この神父は寄進したお金を着服していたので黒ジェム含有率測定器修繕を怠っていたと自供した。他にも諸地域の黒ジェム含有量のデータを隠蔽していたことも認めた。

 どこの世界でもこういう奴はいるんだなあ。

 ともあれ今は非常時ということもあり、次回同罪を犯した場合はそれ相応の罰を追って与えると言明、一月の自宅謹慎処分としてこの場を収めた。

 だが、事態はレスターが思っていたほどより深刻だった。


「私は言った筈ですぞ、ミルヒ様。このような事態を想定して、王国にも測定器を置くべきであってですな――」

 ヴァルターはかんかんだ。

 まあ無理もないだろう。

「あの装置はポーラルシュテルンが製作した世界に十三台しかない代物。内部の精密な駆動系をおいそれと作製できる代物でもないのはヴァルターも知っているでしょう。それよりも今後の手を考えなくては――」


 神父が各地の報告書を止め、ねつ造をしていたお陰で、本当に来る情報が何一つ入ってきていなかった。

 そして本物の報告書は、たんまり一年分あるそうで、精査するのに時間を要するとのことだから、二人の邪魔をしてはなるまいと思い、レスターは別行動をとることにした。 


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