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「肝心のキング・デーモンと三軍神のお話をしていませんでしたね」
神父は紅茶を口に含めて喉を潤すと今から話すことは口伝であることを重ねて口を開いた。
「人間と人魔が袂を分かった時期よりも遥か昔の話――民に慕われ、愛されていた王がいた。王は民の為にギフト継承に努め、大陸の発展に努めていた――最も平和だった時期と言われている――だが、そんな時代は長くは続かなかった。ギフトの力を誇示せんとする者達によって王は囚われ、永久に幽閉されてしまったのです」
「クーデター……」
レスターは言って、神父は頷く。
「牢屋に入れられた王は、それまでこよなく愛していたギフトを憎むようになりました――そして王はギフトを忘れる努力をしたのです」
「忘れるって言っても具体的に……?」
「記憶石と呼ばれる石に、自身の記憶を移すことにしたのです――生まれた日から、今の境遇に至るその全ての日を、果てしない月日をかけて王は記憶を石に宿し――やがて全てを移したところで、王は深い眠りにつき名をキング・デーモンと改めた」
力を宿す石といえば一つしかない。
レスターは手の震えが止まらなかった。
「まさかその石って……」
「ジェム――それは記憶石に宿された太古の昔の王が遺した憎悪の記憶――消費し続けることで、デーモンが強くなるのもこのためなのです」
レスターはミルヒに視線を向けると、小さく頷いて見せた。
口伝が嘘か本当かというより、そういった史実があることにレスターは驚いていた。
ギフトの怨念をジェム石として俺たちは使ってるのか――。
それでいて十二のときにジェムを飲んでいる俺達って――。
と言うか俺のヒール1の即死特典って相当ヤバイんじゃ……。
レスターは胸が熱くなった。体がどうにかなりそうだった。
「アルナイルが飲んでいるものは恐らくその王が幸せだったときの記憶の欠片――明るい時代のときのことでしょうから」
ミルヒの声がレスターの耳を通り抜ける。
聞こえない。否、今はそんな状況ではない。
ジェムはその王の怨みの塊だったなんて――。
一方で十二のとき、神父から貰った流動化したジェムのそれは確かに輝いていた。
なら問題ないのか? いや、どうなるか分からないぞ――。
考えたらきりがない。
震えが止まらなかった。
どうにかなっちゃいそうだった。
そんなときだった。
「安心しなさい」
レスターは背中に温かい物を感じた。
「アルナイルのジェムは他の人と別だから」
ミルヒの手だった。
触れると、とろけてしまいそうな白い肌で背中を撫でられていたのだ。
最初こそ恥ずかしいからどけてもらおうかとも思った。
でも、不思議と――勇気が湧いてきた。安心した。
恐らくミルヒの生きる力が成せる業だとレスターは悟る。
「そういえば……」
このときレスターは一つのことを思い出す。
二人ともアルナイルの名前を知っていて、探していたということを。
特別だから知っていたのだろうか。でも何で――。
レスターは聞こうとするも、神父が先に口を開いてしまう。
「さて、三軍神とはその王の記憶の中でも最深部――牢獄の中の記憶の際に作り出された神だと聞いています。名を軍神マーズ、智神ショハム、殺戮神クアルソ――」
「クアルソ……」
「アーク・デーモンが喋っていましたね」
「何と……口伝も侮れませんな。ともあれ、三人の神官は、キング・デーモンが復活する前に、ミルヒ様の曾祖父クロード様の活躍により永久の封印に処せられたと、私は聞いております。封印されている場所は殺戮神クアルソが、ルントラ湿地帯の奥地、ギドラ遺跡のみであることぐらいで後の二人は――いや確か百年前にここを訪れた男が漏らしていましたな――盗掘ハンターなる人間が人魔の領域で智神ショハムの遺物を見つけたと」
「人間……ならもうその男は死んでるわね。男の言っていたショハムの遺物は何処にあるのか誰かに語っていたかしら」
「それがその男――情報を魔王様に売りつけるんだと言って息巻いてまして――魔王様に謁見されに向かわれたと記憶しているのですが、確か名前は……」
「ゲンザブロウ……」
ミルヒは即答した。
「そうです。リュウガキ・ゲンザブロウ――人魔の遺跡を荒らす盗掘人です! やはりお会いになられていたのですね」
「刀を向けてきたから追い返してやったわ。私の記憶だとその後ですぐに第一級指名手配犯として国中に発布したけど、捕まったと報告はきてないわね」




