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 同日夕方、レスターはカリーサ段丘の中央に位置するルンビア村の教会を訪ねた。

 ミルヒも一緒である。

 ヴァルターは今日泊まる宿など、身の回りの手配をするとのことで来ていない。



「早速で恐縮なのですが、三軍神について、引いてはキング・デーモンについてお持ちであれば、お聞かせいただきたいのですが――」

「キング・デーモン……人間の口から出るとは驚きましたな。既に耳に入っているやもしれませんが、キング・デーモンは人間が作り出した、悪魔であることはご存じでしたかな」


 神父の言葉に、レスターは冷えた唾を飲んだ。


「そのことについては……ただ、俺が気になるのは、何故人間はキング・デーモンの存在を忘れ、ジェムを悪戯に消費し続けるのでしょうか」

「ふむ、人間はそこまで忘れてしまっているのか。一から歴史を話さねばならないようですな」


 神父は淹れた紅茶を注ぎ、飲むことはせず棒で紅茶をかき混ぜて、口を開く。


「――ジェムを見つけ、力を得た人間は、古来より続くギフトを蔑み、我々を奴隷として扱っていた。それでも我々は人間と長期に亘り交渉を重ね、我々人魔はデーモンを討伐する代わりに、自由を得、この土地へと移り住んだのです。生誕前暦四百二十五年のときの話です」


「人魔と人間の領地覚書――ですね」


「そちらもご存じでしたか。確かに人魔と人間は領地についての覚書を交わしました。統一人魔連合の長にしてミルヒ様の曾祖父クロード・ザテリーテン様が指導者であった時代の話です。ですがその様子ですと人間は誰一人として記憶をきちんと継承していないようですね――儚い命ゆえ、致し方ないというところでしょうか」

「……」

 

 合点がいく回答だった、というのがレスターの率直な感想だった。


 デーモンがどうして人間界に殆ど姿を現さないのかの説明もつくし、逆にどうして人間界に人魔のが接触をしてこないのも納得がいく。


 人魔は忠実に約束を守り討伐を怠らずデーモンの討伐を行なっていた結果、逆に人間はキング・デーモンを含め彼らの真実をを知る者がいなくなってしまい、継承がうまくいかなかったのだと考えるのが自然だ。文献も探せばあるだろうが、人間界では国、王、その全てが何度も入れ替わっている。


 その都度、そのときの国家が都合の悪い物を焼却なりしてしまったらお終いだ。


 ともあれデーモンは、触れてはならない禁忌だけの教えが口伝えで人間界に残り、その他は忘れらされてしまったのだと考えるのが妥当だろう。

 歴史は常に都合のいいように改変され、継承されていく。

 典型的な例だ。

 

 神父さんが無理もないというのも納得がいく。

 人間の寿命がジェムで縮まってしまった弊害である。

 こればかりは仕方がないとしか言いようがない――でも。


「その後、キング・デーモンが復活し、我らが人魔はクロード様を長として戦い、そして相打ちされ――世界は束の間の平和に戻った。その後は統一人魔連合も暫くは維持されますが、主亡き国はすぐに分裂。十三王朝時代に入ります」

「……」

 

 有能な後継者がいなければ、その国は滅びる。

 世の常だ。


「折しもソーレンセン地方はキング・デーモンの脅威が失われたことで、才覚ある者達が各地で血気盛んに声を高らかと上げ、その後五百年もの間、人魔の領域全土が未曽有の戦火に包まれることになります。あの時期が神父として、教会を維持するのがやっと。当然ながら、今迄積み上げてきた文化は殆ど喪失してしまったと言っても過言ではありません。本教会も過去の聖遺物を保存するのがやっとで……」


暗黒時代シニスター・レイン

 ミルヒが誰に言うでもな呟く。

 神父はミルヒの言葉に呼応して、頷いた。


「ミルヒ様の仰る通り、キング・デーモン討伐の後の時代を暗黒時代シニスター・レインと呼び、その間の伝承は書物としてこそ残せてはいない現実がありますが、幸いにも人魔は長生きな種族、ゆえにその時代を生き抜いた者は多数おります。私もその一人ですけれども」


 神父は立ち上がると、机を叩いた。


「しかし記憶にあるということと、口にすることとはまるで異なります。誰もが辛く、暗い過去を思い出したくないように、幾ら覚えていても、語れないことは多々あるのです。特に一千年前(・・・・)頃はギフトの口伝すら難しく……」

「その話はいいので、その後をアルナイルに聞かせてあげなさい」


 ミルヒだった。

 神父の話を遮り、ミルヒが口出しする。

 神父は額の汗を拭いながら、ゆっくりとミルヒの顔色を窺いながら口を開く。


「ともあれ、紆余曲折ありながらも生誕暦八百年、ミルヒシュトラーゼ様が人魔の領域全土を統一され、今に至るわけなのです」


 おいおい随分と端折ったな。

 まぁ訳ありのようだし、今は少なくともその情報は必要ないので、聞かないことにしておこうとレスターは考える。


「ギフトと仰いましたが、人魔の方々は今でもギフトを皆がお持ちなのですか」

「左様、我々人魔は、五歳になるとすぐに親からギフトを学びます。そして学び得た知識をデーモンの討伐を通して仲間と共に高め合い、時には融合、発展を繰り替えしながら、今のギフトがあるのです」

「口伝……ですね」

「ええ、例外はありません。紙に残すことはしません」

 

 神父は力強い言葉で言った。


Key Point

一千年前の口伝が難しくなった理由……。

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