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 ルンビア村に戻ると人魔とデーモンの戦いが始まっていた。

 

 とはいえ、遭遇する戦場は決して人魔不利という訳ではなかった。

 何処も人魔が五人ほど集まり、前衛として三人が息の合った連携を駆使し、ノーマル・デーモンを討伐していた。その後ろでは杖を持つ治癒士が、弱ったノーマル・デーモンにヒールを当て、黒ジェムを浄化している。流石は二千年以上、デーモンを討伐し続けている種族であろうか。

 

 レスターは感心しつつ、教会を目指した。

 昼すぎに言葉を交わした、男の家の前を通過するまでは。



「二、三、四……何でここだけ」


 ざっと大勢のノーマル・デーモンと、目で見える範囲で四体のアーク・デーモンが家の周りを取り囲んでいる。

 何語かは分からないが、アーク・デーモンがノーマル・デーモンに指示を送っていた。

 この場で戦う者は誰もいない。

 家の形は原形をとどめず、デーモンが破壊の限りを尽くす。さながら無法地帯のよう。


「お前は――」

 怪我とはいえないほどに傷ついた体、特に腕は関節が外れているのか、力なくぶらんとしていた。

 レスターは愕然とするも、黙って治癒魔法を施す。


「すまない――」

 男の力のない言葉に、レスターは続きの言葉を全てのみ込む。



「単刀直入に言う。奴等は俺ん家にある浄化済の黒ジェム――簡単に言うと空の器を狙っている。大気に散った黒ジェムを集めるのに、空の器が必要で――普通のジェムは容量が小さいから駄目だ。封入出来たとしても、大したことはない筈だ。手っ取り早いのが浄化済の黒ジェムと言ったところだろう」


 ジェムの強さは有限なれど、黒ジェムには無限の強さがある。

 理解できる話だ。

 無限の力を秘める浄化済の黒ジェムが、大気中のそれを集め出したら――。


 レスターは今迄の経験から、ここで今アーク・デーモンを叩いておかないと駄目だと考えていた。


「……人間に頼むのは筋違いだと分かっているが、事情があって他の奴には頼めない。どうか、俺と一緒にあいつ等が持ち去ったジェムの奪還をお願い出来ないだろうか。治癒量は多くはないが、君の治癒魔法は俺の体に相性がいいみたいだ」


 服はボロボロだが、体は問題なさそうなまでに回復していた。

 ヒール1でも塵も積もれば山となるということか。

 肚は決まっていた。

 

「レスター・アルナイルです、宜しくお願いします」

「俺はヴェイグ・シュトルム、生誕前暦二百三年生まれ。宜しく頼むぞ」



 ヴェイグは剛腕ギフトと俊足ギフトを持ち、膝まで伸びる両手剣を素早く振り回すことで、戦闘を優位に進める。単純で一芸に長けてるギフトではないが、そつなく一人で戦っている。流石デーモンを専門に討伐を数千年続けていると言えよう。

 一人で戦えるのは、キング・デーモン復活前の遠征隊に入っていたからとのこと。

 そこでみっちりしごかれ今の強さがあるらしい。

 四千五百万程度のギフト値だとか――人間で一千万を超える者は、今のところいないので流石と言えよう。


治癒ヒール!」


 レスターはヴェイグが倒していったノーマル・デーモンの黒ジェムを浄化していく。

 これもヴェイグがノーマル・デーモンを弱らせてくれているお陰なのは言うまでもない。

 上限値も飛躍的に上昇し、爆発する心配も殆どない。

 もとよりレスターはヒール1(正確には2未満)を問答無用で与えることが出来る。ノーマル・デーモンはレスターのヒールを受けて即死の効果が発動。灰燼に帰す。

 

 勿論これは全てヴェイグあってのことなのは釘を刺しておく。

 レスターは感謝しつつ、浄化作業を進めていく。 


「黒ジェムの浄化……君はヒールの量を1に調整できるのか」

 ヴェイグは呼吸を整えつつそう言いながら、ノーマル・デーモンを薙ぐ。

「俺は十二歳のとき、宣託を受けてヒールスキル1の治癒ヒールしか出来ないジェムを継承したのです」

「だからミルヒシュトラーゼはお前を……」


 ヴェイグが攻撃の手を緩めたので、レスターは知り合いなのかと聞こうと思った。けれども逡巡も一瞬のうちに終わり、ヴェイグは自分自身に気合いを入れる。

 

「俺がこのまま雑魚を倒すゆえ、治癒ヒールを引き続き頼むぞ。安心しろ。俺はこれでも幾多のノーマル・デーモンをこの剣で屠ってきた。背中は預けたぞ」

 

 レスターはヴェイグが口走った最後の言葉に反応しない訳にはいかなかった。

「――俺でいいのですか」

 訳が分からず思わず聞き返すレスターに、ヴェイグは答えなかった。

 聞こえなかったというべきだろうか――声を掛けてすぐ、ヴェイグはノーマル・デーモンの群れに飛び込んでいたのだから無理はないとレスターは考える。

 

 戦いの中でレスターは戦いがこんなに楽しいのかと肌で感じていた。

 人間が手を出してはならない、禁忌の生物に今は平気で戦いを挑んでいるのもそうだが、充実感と一緒に感じる緊張はとても新鮮で、十二分の満足をレスターに与えてくれる。

 死と隣り合わせだというのに、とても不思議な気持ちをレスターは抱く。


 理由は分かっている。

 レスターはヴェイグが背中を預けると言ったことが嬉しかったのだ。

 頼られることの嬉しさを始めて教えてくれた人かもしれない。

 

 そしたらやることは一つだけだ。

 ヴェイグの期待に応えるしかない。いや、答えたい。

 成し遂げたい気持ちはやがて願いへと変わり、行動へと移す。


 何事も気持ちは決断を決定づける、最後の香辛料スパイスだ。

 レスターはヴェイグが屠ったノーマル・デーモンの黒ジェムを面白いように、何事も無く的確に浄化し

ていく。


 今のレスターに不安なんてない。あるのは戦いの楽しさ、心地よさだけ。

 レスターはヴェイグとの共演をいつまでも続けたいと考えていた――。

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