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ノーマル・デーモンを全て倒した後、レスターはミルヒの後を追い、謁見の間を離れて廊下を走る。
大階段室を通り抜けた先、螺旋階段を上っていた。
ミルヒは全てを終えると大きな気配を感じると言って窓を割り、屋上へと向かった。
勿論浮遊ギフトを駆使して。だから今レスターと一緒にはいない。
レスターは城の中で迷子になりながらも、想像で今いる場所を大まかに俯瞰する。円塔の中――外から見えた鳥が巣を作っていた場所の建物がそれだ。
駆け上がる途中に開いた窓から、城に入る前まで聞こえていた鳥の鳴き声は一切聞こえなかった。
レスターは身震いをしつつも、昇りきって一つの扉を認めた。
そして呼吸を整えたレスターは扉に手をかけ、戦いの場へと飛び込む。
「よくも俺の子分を奇怪な武器で殺めてくれたな――」
喋る個体――アーク・デーモンだ。
最初に出くわしたそれよりも快活で明瞭な言葉遣い、上位互換のようだ。
雰囲気は十分。ローブに身を包み、その姿は窺い知ることこそ出来ないが、角が二本ローブから突き出していた。
「だがお前は俺を倒せない――倒せる筈がないのだ。何故なら俺を倒したら、その瞬間、この国は灰燼に帰してしまうのだからなあ――」
胸元に植わる黒ジェムの結晶――ヴァルターと出会ったときに見たそれより三回りほど大きいそれをまざまざとアーク・デーモンは見せて、高笑いを浮かべる。
何がどう面白いのか分からない。頭のネジが外れているのだろう。
アーク・デーモンはゲラゲラと喉を鳴らし満足げだ。
「三流」
笑うアーク・デーモンを尻目に、ミルヒは呟く。
「んあ?」
アーク・デーモンが真横に長い口を大きく開ける。
「三流と言った」
ミュルグレスを鞘に収め、嘆息をつくとミルヒは左手を腰に添え鼻で笑う。
「百年先を見通す者は一流、十年先を見通す者は二流、一年先しか見通せない者は三流。今のお前は刹那の欲求に身を委ね、盲目に私を殺めることしか眼中にない。悪いけど三流以下ね。己の愚かさを恥じて、早々に城から立ち去るなら許してやってもいいかしらね」
厭味ったらしくミルヒはもう片方の手で、憎々しく数をカウントするごとに指を折りながら説明する。
「貴様……!」
こりゃ怒るのも無理ないな……。
「ゴミの分際で、魔王に口利きするとは面白いですこと」
そんな挑発していいのか――って!
ミルヒは地面を強く蹴った。
再び、レスターの理解が及ぶ範囲外の事象が一度に起きてしまう。
唯一理解できたのは、アーク・デーモンの体に魔剣が突き刺さっていて、動けなくなっている姿である。
レスターもアーク・デーモンもこのときは誰も動けず硬直していた。
一体、二体、三体目のノーマル・デーモンが薔薇の花弁と共に散っていくのを見て、ようやっとアーク・デーモンが反応を示し、ノーマル・デーモンを三十体前後召喚する。
この地点でレスターは訳が分からなくなるのだが、ミルヒには全く関係ない話だった。
開口一番、ミルヒは召喚ほやほやのノーマル・デーモンを二体、ミュルグレスで串刺しにしてしまう。レイピアが刺突武器だからとはいえ恐ろしいものだ。
刺さったそれを蹴り飛ばして引きはがし、次の攻撃へと流れるように移行する。
数に物を言わせて飛びかかるノーマル・デーモンもいるが全くの体を成していない。
「愚かね」
ミュルグレスを収め、浮遊ギフトを駆使して人間では想像し難い高さにまで飛翔。ノーマル・デーモンの頭を足場にして軽々と、アーク・デーモンへと間合いを詰める。
レスターはミルヒがギアを上げたと肌で感じる。
数をもろともせず駆け抜けたところで地に足をつけたと同時に、ノーマル・デーモンの背後に回ると背中に手を回し、三種の魔器の一つ、投擲武器を投げる。
不規則に宙を舞う武器と思うなかれ。
アンチテイルから鍵爪が突出、まるで意志を持つかのようにノーマル・デーモン二十体を八つ裂きにしていく。
残りは戦意をなくして円塔から飛び降りようとするも、結局は寿命が多少延びただけ。何処までも追いかけるアンチテイルの所為でその全てを行動不能へと陥れる。
「お前……!!!」
一対一のとき。
アーク・デーモンはミルヒに襲いかかる。
それも当然のこと。
ここで逃げれば、結局アーク・デーモンはキング・デーモンに殺されてしまう。
ゆえに戦いに挑む。アーク・デーモンの思考としては当然だ。
黒ジェムを抱えていれば少なくとも今、この状況でミルヒが殺めにくることはないだろうと踏んでの計算も入れてである。
「立ち向かう姿勢は褒めてあげる」
流れるように屈み、腰に吊した三種の魔器の一つ、拳鍔を右手にはめると跳躍一撃。アーク・デーモンは宙を舞い、ミルヒも浮遊ギフトで後を追う。
「でも戦う相手を間違えたようね」
地面へ誘う拳を与え、再び重力を得たアーク・デーモンが落下、途中でアンチテイルの餌食となり体は二分割に。
この世の者とは思えぬ奇声を上げながら、ガラクタと化した下半身が落下の流れでミュルグレスを抜き、中空でアーク・デーモンを一突き。
地面に突き刺し、行動不能へ導く。
ミルヒのスキルかは不明だが、全てが終わったと同時にアンチテイルは、ミルヒの左手に収まっていたのは言うまでもない。
「これで満足かしら? アルナイル君」
ミルヒはアンチテイルを折り畳み、背中に隠しながら誇った顔を見せる。
レスターは驚きの表情を作った後、顔の形をを整えて口を開いた。
「何でザテリーテンさんが一国を統一出来たのか、何となく分かった気がします……」
感心するレスターだったが、ミルヒは意外なことを口にした。
「ふと思い出したのだけど――人間の中で、勇者とか呼ばれた人がいて、魔族を倒すとか息巻いてるパーティがあると、風の噂で耳にしたことがあるの――」
それって脅し……?
それとも知ってたのか?
レスターは唾を飲む。
「一度相対してみたいわ。アルナイルは心当たりある?」
レスターは精一杯首を横に振った。
次にギルドへ戻る機会があれば、仲間を含めて全員に、人魔もとい魔王を倒そうだなんて言わない方が身のためになると説明するべきだと思った。
三種の魔器
統一人魔連合国の長クロード・ザテリーデンから受け継いだ三種の最強武器。
ミュルグレス
三種の魔器の一つ、細身のレイピア。
刺突を得意とする武器だが、ミルヒが握るときのみ、エフェクトを纏い斬属性も有する。
攻撃を繰り出すと薔薇の花弁が舞うのが特徴。とても綺麗。
アンチテイル
三種の魔器の一つ。遠隔武器。
意思を持って空中を動き、敵を薙ぎ払う。
敵に囲まれた時とかには有用。
通常時は折りたたんで背中に隠しているので見えない。
スファライ
三種の魔器の一つ拳鍔
その拳一発で敵を打ち砕くと言われるも、それは往々にて正しい。
大勲位薔薇章を改良して常に内側にしまっている。




