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戦いは唐突に始まるも、レスターは自分の身に何が起こったのかいまいち理解出来ていなかった。
「いてて……」
地震が収まった後、レスターは目を擦り破壊された入り口を見ると、数にして二十を超える言葉を発しないノーマル・デーモンが群れを成していた。
けれどもその一体だけは趣が全く異なる。
レスターから対象の距離は三十メートルほどだろうか。
見覚えのある形の、特に下半身だけが転がっていた。
ヒール1など関係なかった。
粉々で見る形もなく、上半身は消え去っていた。
「ポーラルシュテルンM830……生誕前暦877年-827年に活躍したグラナダ産業国の天才発明家ヨハン・ニコラウス・フォン・ポーラルシュテルンが自国防衛の為に製作した最後の名器……レバーアクション式ジェムライフルを如何してザテリーテンさんが!」
「私の所有物じゃなくて、ただの借り物よ」
ミルヒはポーラルシュテルンを肩に乗せて、微かに笑う。
「か、かっこいい――じゃなくて!! ポーラルシュテルンが発明した作品はその全てが名器ですよ! 人類の宝ですよ! 武器はおろか鋳型も図面ですら全てが焼却されて、名前とスケッチ絵でしかその姿を知ることができない名器を、何でザテリーテンさんが……」
「珍しい、珍しい、珍しい……耳にタコできるほど、私も友人から聞いているわよ」
「だったら――って!」
レスターを無視して二発目を発射。ノーマル・デーモンの上半身が粉々に吹き飛ぶ。
間を置かず、ミルヒは一歩進むと左手でライフルの銃身を支え、駆動式レバーを右手で傾ける。
レバーを曲げ切ったところで天頂部が開き、中から灰色の蒸気――黒ジェムの瘴気が飛び出す。鼻を覆いたくなる臭いがした。
同時進、金属の音がカチリと鳴るのを皮切りに、再び駆動式レバーを戻して三発目を発射。ジェムのエネルギーが下半身に当たり、肉片となって四方八方へと飛び散る。
全て数秒の出来事だ。
「人間が作る武器は本当に品がないわね」
何処からともなく床から湧き出るノーマル・デーモンに向け、倒れた机に右足を載せ、同じ所作を繰り返す。
呆気ないが一番似合うだろうか。
着弾に呼応して衝撃波が謁見の間を駆け抜け、琥珀色の髪を流れるように揺らす。
レスターは息を飲んだ。
服の相乗効果も相まって、やっぱりかっこいいと言わざるを得ない……。
レスターはミルヒの姿に再び息を飲む。
「フィオドアが来たら新品の結晶化したジェムを装着するように釘を刺しておきなさい。ジェムが空で使い物にならないわ」
ミルヒはライフルを投げ捨てた。
って、伝説の武器をそうも簡単に捨ててしまうなんて!!!
というか友人の名前はフィオドアさんなのか――って今はそんなこと考えている暇はないと理解したレスターは、
「あああ、人類の宝が! ポーラルシュテルン……実射可能なジェム系古代武器なんてもう世界中に何処を探してもないと思ってたのに――って、重たい……」
レスターはミルヒが片手で投げ捨てたポーラルシュテルンが持ちあがらない。
両手でかつ胸で抱えてがやっとの重さだった。
「二十キロはあるから、人間が片手で持つと腕を壊すわよ」
「幾らなんでも重すぎるだろ……」
持てないことに唖然とするレスター。
ともあれ、何とか両手で抱えるようにしてポーラルシュテルンを持つレスターの前に、ミルヒは既に別の態勢を整えていた。
「私の得意分野は魔剣。三種の魔器の一つ――ミュルグレスね」
絵で見たレイピア――銀色で細身の剣に、取っ手には金色の装飾が施されている。
引き抜くと外気に触れた瞬間、真っ赤なエフェクトが剣を包む。
「驚くのはまだ早いわよ」
一回、ミュルグレスで空気を薙ぎると、何処からともなく薔薇の花弁が舞う。
「綺麗でしょ。私も好きなの」
一体どういう仕組みなんだ?
つうか本当に魔剣なんじゃ――。
「悪魔の剣の略称ではないので、お間違えなきように」
ヴァルターはレスターに忠告する。
察したレスターは笑うしかなかったのだが、
「ヴァルターは皆を連れて城下町へ向かいなさい。ここは私とアルナイルで問題ないから」
ヴァルターは家臣を引き連れて、窓から飛び出た。
一方、レスターは魔族の名称が人魔族の総称で、人間との対比で造られた「悪魔」から由来しているものではないのだったことを改めて思い出していた。
ってか、笑えない冗談はよしてくれ……。
人魔の歴史を知っても尚、冗談なんか言えるわけが……。
「ないだろって……え?」
一陣の風が謁見の間を吹き抜ける。
それは爆風とは程遠く、心地よい風。レスターの頬を掠め、薔薇の花弁が頬についた。
レスターは手に取って確かめる。
ミルヒがミュルグレスから出していたそれである。
「ふう……」
状況整理もままならない間に、ミルヒの満足げな声がレスターの耳に届く。
見ると、目の前のノーマル・デーモン五体は既に骸に代わっていた。
静かな戦闘――目の前で既に終わっていた戦いに、レスターは眼を大きく開けずにはいられなかった。
唯一記憶しているのは、妄想している間にミルヒの体が浮いて――。
「体を軽くする浮遊ギフトと、動きやすくする俊敏ギフトよ。ただ私の場合は曾祖父の受け売りだから、他の人より早く動けるだけの話ね。因みに浮遊ギフトで、手に持つ物も軽く出来るから、ポーラルシュテルンも片手で撃てるってわけ」
「浮遊ギフトに、瞬き一回で五体を倒せるぐらいの俊敏ギフトですか」
「ジェムを用いない分、私達は自分自身の才能――ギフトを磨いていくのよ。もとよりギフト値九千七百万の私より高い人はいないけども」
「一国を束ねる者が、自らの才能を自慢ですか……」
「人魔族の長を務める者は、他の者よりギフトが高いことを公に呼称しておかないと、舐められることがあるのよ。暗黒時代が典型的な例ね。強い者が更に強い者を倒す時代――だから、誰よりも強いことを誇示しないと、少なくとも人魔の世界では安定性を図ることが難しいの。尤も、全てに精通していないと、叛乱もなく八百年も統治出来ないけれども――それより折角私が倒したのだから、治癒をノーマル・デーモンの黒ジェムに当てなさい。瀕死にしてあるから慣れてない貴方の魔法でも上限値が上がっていて、トドメを刺しやすい筈よ」
「八百年……ということは今は少なくとも……」
単純な好奇心でレスターは暗算を始めるも、レスターの一言がミルヒの耳にジェムライフルよりも早く飛ぶ。
「今この状況で私の何を数えてるのかしら、レスター君」
言葉の調子を上げたミルヒに睨まれた。
今は四の五の言わず戦うしかないようだ。
レスターは考えることを止めて一言。
「へいへい――精一杯かけさせていただきますよっと」
ポーラルシュテルンM830
基礎値が億単位に相当する失われたレバーアクション式ジェムライフル。名器。
同時にグラナダ産業国が最後に大量生産した最後の武器。
デーモンを容易く粉砕することが出来るが、数発ごとに結晶ジェムを都度交換しないといけない為、使い勝手が悪いのが特徴的。
ポーラルシュテルンM830の製作背景には、当時国家の滅亡危機に瀕していたグラナダ産業国が本土防衛の為にポーラルシュテルンに絶対無二の強力な武器製造を依頼をした経緯を持つ。
当時、ポーラルシュテルンM830はアンチマテリアルジェムライフルとして生産予定だったが、戦争により設計図、鋳型を全て焼失。唯一レバーアクション式ジェムライフルの設計図だけが残っていただめ、やむなく方針を転換し生産を開始した経緯がある。尚、この三年後天才発明家ポーラルシュテルンと共にグラナダ産業国は滅亡した。
ノーマル・デーモン、アーク・デーモンの倒し方
3:オーバーキルをする
→ オーバーキルを演出することで、爆発せずに討伐することが可能。
→ 現状ポーラルシュテルン製作の古代武器のみ可能。




