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人間と人魔が一回だけ話し合いの場を設けたことがあった。
内容は「人魔と人間の領地覚書について――」
その議事録が半頁だけ付録として載っていたのだが、レスターは読み進めるうちに目を疑った。
「人間は金輪際、人魔の領地を侵すことはせずとも、人魔はデーモンの討伐を生涯約束す――ってこれは一体……」
「生誕前暦一千年の頃――人間がジェムを見つけ、消費するようになった時代にそれを用いない人魔は非力だった。戦争は敗戦の連続、スキルで生きる者はこの世界で生きてはいけないと思ってしまうほどの屈辱を毎日受けていたわ」
レスターは頷き、ミルヒの話を一語一句逃さぬ姿勢を見せる。
「そんな時だったわね、デーモンが世界に現れたのは。初めこそは共闘して倒していたけど、倒せど強くなる一方で、百年も経つと倒せる人間も人魔も一握りの者しか倒せないほどに強くなってきた。人間は限界を知り、やがてジェムを武器に嵌める道を選んだ。でも、私達は知っていたの。ジェムを消費すれば消費するほど、世界に黒ジェムの瘴気を放ち、デーモンが強くなってしまうことを――だから、私の曽御爺さんは協定を結んだの」
「人魔がデーモンが出現するソーレンセン地方に住み、倒しつづける代わりに、人間は人魔と一切関わりを持たず、戦いも絶対に起さない――と。そんな……突拍子もない取り決めを……」
「仕方がなかったのよ。あの時は人間に奴隷以下の扱いを受けてた。人魔は希望を失っていた――そんな時曽御爺さんが皆を代表して決めたの」
レスターは人間に生まれたことを心底恥じた。
デーモンの元凶を、キング・デーモンを封じ込めた後も、消費し続け、しかも今は人間世界の間ではジェム流行だ。
「私達が人間と関わらない理由――これで理解できたかしら? 大部分の人魔は今でも怯えてるのよ。人間と関わると、また奴隷にされるのではないかとね」
「一つだけ」とレスター「何故ザテリーテンさんの治世の間に、人間との交渉の場を持たなかったのですか。ジェムの消費量を抑えるように、何故和議を設けるなどせず、相変わらず人魔の人達は保守的にソーレンセン地域に留まっていたのですか。キング・デーモンの復活が来れば、人間だって協力すると思いますし、それに倒しつづけるたけの対処療法ではいずれ破たんが――」
「そんなことアルナイルに言われなくても分かってるわ」
ミルヒは今迄にない邪の剣幕を示す。
「人魔は覚えてるの。人間が私達を奴隷として使っていた時代を――とは言え、長生きもしないジェムに溺れる人間に分かる筈もないでしょうけれども。誰が他国、特に人間の国なんかに助けを求めるものですか。私自身はその時代を生きてないから分からないけど、母から人間の歴史は耳にしているの。だから私は、世界が滅亡に向かおうとも、絶対に他国の助けを求めることなどもしないし、考えもしないわ。私達で解決できなければ全て終わりにするつもりよ」
言うとミルヒは黙ってしまった。
拳を作り、怒っているのは明らかだった。
「ここからは私がお話しましょう――当時、ジェムを用いたことで著しい力を得た人間は、我ら人魔族を野蛮人と呼称し、執拗にザテリーテン王国にデーモンの討伐を強制してきたのです。そしてジェムの消費に呼応してデーモンに対応できる者に限りがありました。その中で、唯一ミルヒ様の曾祖父、クロード様が従える僅かな手勢だけが、頼みの綱だったという訳です。講和の際もクロード様が出席され、キング・デーモン討伐にも行かれました。尚、キング・デーモン討伐の際、一隊が編成されたのですが、生きて帰れた者は一人だけ――と聞いています。しかしその者もその後、何処へ行ったなど消息は一切不明ではありますが」




