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IF:白に染まる日

Caution!!Caution!!

「結:英雄無残」の後に(元)悪役令嬢が魔王の元に返って来なかった場合を描いたIF話ですが、これまでの話とは打って変わってのバッドエンドです。

あくまでIF話で本編がメインですので、こちらに救済はありません。

微糖恋愛やコメディチックなお話の雰囲気を壊したくない方は読まれないことをオススメします。後味が悪くなります。

「最近は平和ですね」


 シャルリーヌに茶番と説得役を押し付けて仲間ごと追い返してから、穏やかな日々が続いていました。

 負傷して閉じ籠っていることになっている私は悠々自適な生活を満喫し、人類は魔王の脅威が遠退いたとして胸を撫で下ろす、そんなお互いにとって都合のよい世界が訪れたのです。

 主戦派の魔族だけは納得がいっていない様子でしたが、そこは力で抑え付けました。人類と異なり力を信奉する魔族は、それで概ね治まるから扱いがラクです。


「おや、これは……」


 そんな中、私の元に一つの報告が入ってきました。それは王国の第一王子の結婚式が執り行われるという情報です。お相手は勿論婚約者であるシャルリーヌです。


「結婚、ですか。あのシャルリーヌが」


 彼女がまだ10歳の時から見てきた私としては、感慨深く、そして同時に何処か寂しい気持ちになりました。寂しさの中に何故かチクリとする痛みを感じましたが、努めて意識しないようにしました。

 魔王である私は当然ながら参列など出来ませんが、当日は遠目から見届けることにしようと思いました。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「ここからなら大丈夫そうですかね」


 ラングバルド王国の王族の結婚式は、王城から少し離れたところにある大聖堂で執り行われます。私は大聖堂の尖塔の上に立ち、眼下の光景を見下ろしました。

 大聖堂の前は階段状になっており、騎士達によって群衆が掻き分けられ道が作られると、そこに一台の馬車が乗り付けられました。馬車から降りてきたのは第一王子とシャルリーヌの2人です。シャルリーヌは純白のウェディングドレスを纏っていました。

 2人が階段を昇っていくと、学園の卒業生と思しき若者達が彼らの両脇に道を作るように立ち、彼らに祝福の言葉を投げ掛けました。おそらく、2人の同級生ということで特別に敷地内への立ち入りを許されたのでしょう。

 シャルリーヌのパーティメンバーだった男達も微妙な表情をしながらも、祝福していました。


「まぁ、彼らからすれば心の底から喜べることではないですよね……うん?」


 そんな中、見覚えのある少女が卒業生達の間から前に進み出ました。

 桃色の特徴的な髪をした彼女は、周囲の者の制止も構わずにシャルリーヌ達の元へと歩いていきました。騎士達が間に入って止めようとしますが、巧みに身をかわして走り出します。そして、走りながらその少女は胸元から短刀を取り出し、叫びました。


「あんたさえいなければ……ッ!!」


 真正面から襲い掛かってくる者など、仮にも勇者であるシャルリーヌからすれば簡単に迎え撃てたでしょう。ただし、それは彼女が剣を持っていればの話。ウェディングドレスを纏った今の彼女は完全に丸腰です。


「──────ッ!」

「シャルリーヌ!?」


 桃色の髪の少女──カテリーナの持つ短刀がシャルリーヌの胸元へと突き立てられ、純白のドレスがみるみるうちに真紅に染まっていきました。

 その光景を見た瞬間、私の頭の中は真っ白になりました。






 尖塔の上から飛び降りて階段の中腹に降り立つと激情のままに炎魔法を放ち、血に染まった短刀を持ったまま狂笑を上げていた少女を周囲の若者ごと消し飛ばしました。


「な、何だ貴様は!?」


 騎士達は突如現れた私に一瞬硬直しましたが、すぐに王子とシャルリーヌを守るように前に立ち、私に向かって剣を振るってきました。


「うおおおおぉぉぉーーーー!!」

「邪魔です」


 魔力を籠めた手を振るい、剣を振るってきた騎士達を薙ぎ払います。騎士達は身を砕かれて次々と息絶えていきます。


「く、怯むな! 殿下をお守りしろ!」

「退きなさい」


 王子の護衛だけでなく周囲の騎士達も私に向かって集まってきましたが、私は只管にそれを葬り去りながらシャルリーヌに向かって歩みました。


「邪魔だと……言っている!」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 気が付くと、瓦礫と人の死骸で埋め尽くされた地の中央で、私は紅いドレスを着たシャルリーヌを抱き抱えて居ました。


「シャルリーヌ?」


 問い掛けますが、シャルリーヌは目を閉じたまま答えません。


「シャルリーヌ……目を開けなさい」


 私も薄々気付いていました、彼女の背に回した左腕で鼓動を感じ取れないことに。

 彼女がもう二度と、目を開かないことに。


 一体、何がいけなかったのでしょうか。

 彼女を国に帰らせるべきではなかったのか、カテリーナと関わることを防ぐべきだったのか、それとも最初から彼女と関わるべきでは無かったのか。




 ちらちらと降り始めた雪が、破壊され尽くした王都を白く染めていく中、私は冷たくなっていく彼女を抱えながらただただその場に佇み続けました。

BAD END「白に染まる日」

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