小さなハナシ
海を見晴らす荒寥とした丘の上。
一本道が海に向かって伸びる。
その先は、断崖絶壁で、風に揉まれた波が当たって砕けている。
その一本道の先、崖の先端には、小さな石碑が二つ立っていた。
今日はどんよりとした雲が空を支配している。
今や、ガロウ帝国『ルーナ自治区』となった地は、戦前と変わらぬ活気を取り戻している。
誰もが失った痛みに向き合い、その痛みを抱いたまま歩き出している。
だが、時計の針が止まったままの人も少なからずいる。
風が吹いてきた。
この石碑までの砂利道を歩く音がする。
その人は、石碑の前まで来ると持っていた花束を献花した。
そのとき、かがんだ首元には、光るリングがぶら下がっていた。
「イアン、そっちはどう?」
彼女は、そっと石碑に問いかけた。
無論、答える声はない。
彼女は一通り声を掛けると、石碑の向こう、白波のたつ海を見つめた。
波の砕ける音と共に、砂利を踏む音も聞こえる。
彼女は振り返る。
そこには、大男と背の高い女、小柄な男の3人がそれぞれの手に花を持って歩いてきていた。
彼女はお辞儀をすると、石碑の前をどいた。
「お前がいないとつまらんかと思ったが、案外捨てたもんじゃないぜ」
3人はそれぞれ言葉を掛ける。それぞれの思いを乗せて。
花を供えた女と小柄な男の左手の薬指には、お揃いのシルバーリングがついていた。
彼らも、彼女と同じように海を見た。
風の吹く音と一緒に、砂利を踏む音も聞こえる。
彼らは振り返る。
細い目の女が、これもまた花を持って石碑を訪れた。
「アンタはアタシの心を持って行っちまったんだよ」
彼女もまた、海を見渡した。
キャアキャア、と鴎が鳴きながら滑空している。
風が吹いて、彼らの髪を揺らした。
彼らは振り返った。
ここに続く一本の道が、白く浮かんでいる。
彼らは思った。
ここに眠る2人や、その他の帰らぬ人々は、こんな運命の一本道を辿ったのだろうか。
数瞬の後、彼らは答えを出した。
答えは否、だ。
帰らぬ人々は、自らの信念に従って選んだ道を辿ったのだ。
100年、200年後、もしかしたら、彼らの道は一本道だったと言われるかもしれない。過去から見れば、この道は一本に見えてしまうのだろう。
だが、帰らぬ人々は、それぞれの悩みや不安に葛藤し、幾本も伸びる道からこの道を選び、その結果に従った。過去に流されて行くかもしれないが、今、彼らは胸にその思いを刻んだ。
彼らは様々な形で戦いに敵意を置いてきたようだ。
彼らは、それこそ過去の思いを捨て、今は柔らかな笑みが浮かんでいる。
「…はぁ、綺麗…」
道の先、雲が割れて陽がさした。
その光は、道を海の上にまで延ばして、この先の未来を謳っているように見えた。そして彼らは、その光の道を歩いていく沢山の影を見た。
これは、小さな国の、小さな人々の、小さな夢のハナシ。
2012.10.14初回推敲 2014.6.18 最終改稿
執筆後記までお付き合い下さい。




