終焉の序曲
俺の意識は深い濃紺の水の中に囚われ、外の世界を見ることしかできなくなった。
俺の意識は、自分の顔が快楽に歪むのを感じた。
飛来する弾丸を無視して、1人、2人と斬る。手に伝わる、肉と骨を断つ柔硬の感覚は、俺の体を支配する『何か』を悦楽に導く。
俺の意識の抵抗を無視して、『何か』は本能的に体を動かす。
だが、体を動かすことができない体だったが、痛みは感じなかった。見ていて、数発当たったはずだが、痛くなかった。
不思議なことに、次第に俺は、このままでもいいか、と思った。
本能的殺戮は、普段の俺より圧倒的に強い上に痛くない。この後何事もなく俺の意識に体が帰ってくるなら、別に焦ることでもない。
『何か』がもたらす圧倒的な快感に俺は酔った。
やがて、俺の意識は水に沈んだ。
最初に訪れたのは、痛覚神経への刺激だった。
「…ッ」
両手の剣を取りこぼして、うずくまる。
どうやら、『何か』は消えたようだ。消えたという表現が正しいかはわからないが。
「イアン!」
アテネの声がかろうじて聞こえる。戻った意識が、一瞬で回れ右しそうだ。さっきまで俺に快楽を与えていた『何か』は、代償として残る傷を与えたようだ。
「お前凄かったぞ。弾当たってんのにいたそうな風もなく、ばったばったと倒しちまう。俺たちは助かったが、ある意味怖かったな」
アテネに介抱されながら、リタの言葉を噛み砕く。末端神経が死にかけながら、俺の頭は一つの言葉を浮かべた。
--戦闘狂。
その瞬間、俺は縮み上がった。
俺の意識は体から離れていき、冷徹な眼差しで俺の中の『戦闘狂』を見る。それは、鼓動のように蠢いて、絶えず血を欲していた。
--コロシタイ。キリタイ。ツブシタイ。チガホシイ。
「…違う。そんなのじゃない」
--ウソツキ。
頭に、『戦闘狂』の声がこだまして、俺の意識を揺する。
--コロシタイ。キリタイ。ツブシタイ。チガホシイ。
「…止めろ!」
「…イアン?」
アテネに声をかけられて、『戦闘狂』は姿を消した。
「…大丈夫だ」
心配そうな3人に作り笑いで答えると、次第に意識が遠退いた。
世界が暗転した。
手の平がじっとり汗で濡れている。
額に浮かぶ汗も、暑さからくるものではない。
次々と寄せられる戦況報告が、東吹抜間の空気を重くする。
そして。
「…蛍王様、よろしいでしょうか?」
意を決したコルは、蛍王を呼び寄せた。
「なんでしょう」
まだだ。もっとひきつけろ。
蛍王がコルの目の前に立った。
--今だ!
手元の紙束からナイフを取り出し、蛍王に突き出す。
心臓を狙った渾身の一撃だったが、蛍王は驚愕の表情と共に身をよじった。当てが外れ、ナイフの刃は蛍王の左脇腹を切り裂き、コルは2合目を放てず、親衛隊のお縄となった。
僅かの間の出来事に誰も言葉を発することができなかった。
「ん、ううん」
俺は目を覚ました。辺りの様子からみて、一瞬のことだったらしい。
「大丈夫か、イアン」
「…ああ」
緩く頭を振って、リセット。
一度閉じた目を開けると、遠い道に、見覚えのあるシルエットが映った。
その瞬間、俺は走った。
敵に出会う可能性すら考慮せず、
「ヒエラー!」
叫んでいた。
次回の更新は、Twitterフォロワー100人記念のクロスオーバーの予定です。「mightシリーズ」のキャラクターも登場しての短編になる予定です。もし、「mightシリーズ」をお読みでない方がいらっしゃれば、御一読下さると嬉しいです。
また、短編は現在の舞台とは違うところでのお話です。つまり、本編は一回お休みです。「本編にしか興味ねえよ、馬鹿野郎!」という方がいらっしゃれば、その次の更新まで待って頂きたい。お付き合い下さるならば、しばしの箸休めを楽しんでいただければ幸いです。
本編に関して、あと二回で完結の予定です。最終回、その後の執筆後記までお付き合いください。なんとか、伏線を回収して、辻褄を合わせて完結させます。
今後とも、SaLaへのご高配を賜りたく思います。よろしくお願いします。




