第十二話
昼食を終えたが部屋に戻る気になれず、そのまま食堂でくつろいでいると少し離れた場所で第六学園の生徒が第二学園の生徒に話しかけているのが見えた。
「…ちょっとぐらいいいだろ、このあと修練場で魔法の訓練に付き合ってくれよ」
……うん、少し前に見た光景がフラッシュバックしてくる。どうしてここまで同じような行動をするんだろうか。
そんなことも考えてしまうが第六学園の気持ちがわからないというわけではない。控えめに言っても、第二学園の生徒達はレベルの高い人たちばかりだ。それは魔法というだけでなく、顔も…である。
そんな人たちに対して下心を抱くなと言うのは無理なことだ。その上第六学園は男子のみのため共学の俺達よりもさらにその気持ちは大きいだろう。
遠目で見物していると、知り合いの五人──先ほど一緒に食堂に向かった水晶や湊さん達が俺のほうを窺うように見ている。さっき助けられたのが記憶に新しいみたいだな。
助けてはやりたいけれど、さっきとは状況が違う。ここには他の学園の生徒もたくさんおり、助けに行けばたくさんの人に見られるだろう。ただでさえ蔑んだ目で見られているというのに、これ以上変な噂を立てられたらさすがに厳しい…。
そんなことを考えつつも、あまりにしつこく言うようなら止めるつもりでいる。というか周りにいる人たちも止めればいいのに。
「だから、あなた達だけでやればいいでしょう?わざわざ私達とする必要はないじゃない。」
第二学園の人たちの人数は十一人程で全員がいるわけではない、その中で上級生らしい人が当然のことを言う。そこに湊さんも参加し二人で断ろうとするが、第六学園の生徒もなかなか諦めそうにない。
さすがにしつこいと思い止めるために向かおうとすると、それまで黙って見ていた第一学園の生徒がその集団に向かっている。
代わりに騒動を止めてくれるのかと考えたが、第一学園の男が取った行動は予想を遥かに上回っていた。
第六学園の話しかけていた生徒の近くに行くと、いきなり蹴り飛ばしたのだ。
「ギャっ!」
情けない声をだして飛ばされた男は壁に激突し、気絶する。
『………』
食堂全体が静寂に包まれたが、第一学園の男はお構いなしにさらに攻撃を仕掛けようとする。
「消えろ…クズが!」
─【水】魔法─
Thousand Arrow
無数の氷で作られた矢は、一直線に第六学園の男に向かう。
どう見てもやりすぎだ、あれじゃ男は無事では済まないだろう。
「待って!いくらなんでもやりすぎよ!」
湊さんがそれを感じ、第一学園の男に叫ぶがもう遅い。無数の矢が男を貫くまでの距離は残り三メートルとない。
だが矢は男を貫くことなく、残り数十センチというところで音を立てて砕け散る。残ったのは小さな氷の破片だけである。
第一学園の男も含め全員が何が起こったのかわかっていなかったが、ただ一人──水晶だけはその瞳に俺の姿を捉えていた。
「…Destructhon」
小さくつぶやく、絶対的な魔法破壊の魔法。
そのまま俺は蹴り飛ばされた男をかばうように前に立ち、第一学園の男と対面する。
「…貴様が俺の魔法を消したのか」
苛立った様子で俺に言う。
「どう見てもやりすぎだったからな。そこまでする必要はなかっただろ?」
俺も少しだけ苛立っていたので、挑発気味に話す。
「いい度胸だな、貴様も死にたいのか?」
やはりさっきの攻撃は殺すつもりだったらしい。第一学園か…たとえどれだけ魔法がすごくても、こんな奴らばかりなら尊敬するにまるで値しない。
「……やってみろよ」
低い声で言い返す。
そしてお互いに魔法を発動しかけたところで、
「やめなさい」
幼い、けれど重い一言が響き渡る。
声の発生場所を見てみると、中学生ぐらいの女の子がこちらに歩いてきている。
…子ども?どうしてこんな所に、
「…ステラ様」
湊さんがつぶやくのが聞こえる。ということは第二学園の人か、それに様って…
まだ考え事はしていたが、ステラという名の少女は俺と第一学園の男の間に立つ。
「双方そこまでです。これ以上の戦闘は必要ないでしょう」
この騒動を止めにきたようだ。
俺は別に戦いたいわけではないので、素直に従う。
そして今まで何も言えずに見ていた第六学園の生徒に向かい、
「おい、こいつを医務室に連れて行ってやれ、大した傷じゃないだろうけど念のためだ。」
第六学園の生徒は素直に従ってくれ、蹴られた男を連れて食堂を出て行く。
後に残るのはステラという少女と第一学園の男である。
男の方は何度も邪魔をされ、かなり苛立っているようだ。
「誰だ貴様は、邪魔をするなら貴様から消すぞ!」
怒号に近い声音が食堂内に響き渡る。だが少女の方は怖がる様子もなく、
「あなたが私を?…おもしろいことを言うわねぇ」
先程とは若干雰囲気が変わった声で言う。
その言葉に完全に切れた男が、魔力を開放する。…が、
『……っ』
全員が思わず声を出すほどのそれ以上に圧倒的な魔力が、食堂全体を支配する。
食堂に残っている者全員が肌で感じていた。この二人の力の差は圧倒的だと。
男もさすがに分が悪いと思ったのか、苛立った様子を隠さずに食堂を出て行こうと歩き出す。
だが出入り口付近で最後の抵抗のつもりなのか、少女に向けて魔法を発動
─【水】魔法─
Aqua Laser
威力よりも速さを重視した魔法。さらにさすがは第一学園というべきかその速さは恐ろしく早い。
だがその魔法も少女に当たることなく消滅する。
さっきの状況とは逆で、今度はステラという少女を除く全員が俺の方を見ている。あまり目立ちたくなかったが、黙って見てるわけにもいかないだろう。
「Destruction」
念のために空間把握の能力を使用していて良かった。男が魔法を使おうとしているのがわかったため、俺も魔法破壊の準備をしておいた。
第一学園の男は怒りを超えて、もはや憎しみに近い目で俺を見ていたが、相手にする気はない。
ようやく男も諦め、食堂を出ていく。
これ以上ここに残っていたら俺も面倒なことに巻き込まれるのは目に見えていたので、俺も足早に去ろうとするがもう遅かった。
「待ちなさい」
ステラと呼ばれる少女が俺を引き止める。
「…あなたにも聞きたいことがあります。こちらで話しましょう。」
そう言って第二学園の席に向かう。
ここで断ってこの先彼女に変な目で見られるのも困るため、黙って着いていくことにした。
とりあえず俺は知り合いである水晶の隣に座り、彼女は俺と向かい合うように前の席に座る。
そうして大きく息を吐いたかと思うと
「とりあえずさっきはありがとう。あの男の魔法から私を守ってくれたでしょう?」
さっき魔法を破壊したときのことを感謝される。てっきり尋問でもされるものかと考えていた俺は、少し拍子抜けしてしまう。
「別にいいさ、黙って見とくなんて出来なかっただけだから。気にしなくていい。」
とりあえず感謝されるようなことはしていないつもりだったため、思ったことを言う。
周りの第二学園の生徒が何かコソコソと話しており、不審に思ったが、隣にいる水晶がその理由を教えてくれた。
「…零華、ステラ様はきぞくの人だから、…話し方」
貴族?…どういうことだ。
「紹介が遅れたわね、私の名前は九条 ステラ(くじょう ステラ)よ。聞いたことはあるかしら?」
その言葉に俺は頷く。
九条家──日本でその名を知らぬ者はいない程に有名な家だ。
かつての魔法大戦で日本を侵略しようとする国から日本を守り抜き、その時に生き残った者達は貴族と呼ばれるようになった。
生き残った貴族は数十名と言われていたが、現在残っている家系は九条のみである。そのため九条の権力を欲する者は多く、九条家はその人たちを避けるために海外で暮らしていると聞く。
噂で九条家に娘がいることは知っていたが、まだ中学生くらいだった記憶がある。
「…えっと、失礼かもしれないけどあんたは今何歳なんですか?」
自分では完璧な敬語だと思っていたのだが、周りを見ると反応は冷ややかだ。…俺は何か間違ったらしい、敬語なんてほとんど使ったことねぇよ。
ステラ様?は少しの間俺をジッと見ていたが、クスクスと笑い出し
「べつに無理に敬語を使う必要はないわ、どう見てもほとんど使ったことないでしょう?
名前を呼ぶ時もステラで構わないから、みんなと同じように接してくれるかしら?」
俺にとってはありがたい言葉だったので
「悪いな、俺もそっちのほうが助かる。よろしくな、ステラ」
普段の口調に戻して話すと、彼女はとても嬉しそうに頷いてくれる。笑う顔は年相応で、とても可愛らしかった。
「俺の名前は皇 零華だ。第十三学園の代表で個人戦に出場する。」
十三学園という言葉にやはり周りが若干ざわつくが、ステラは驚いた様子もなくさっきの俺の質問に答えてくれる。
「さっきの質問だけど私は十四歳で、海外で生まれたハーフなの。
この学園には飛び級で入ったわ。学年もあなたより一つ上よ?」
「え゛っ!……マジで?」
軽く衝撃だった。
「マジ…よ、零華さん」
ステラは楽しそうに肯定する。
「あ~、一応名前を呼ぶ時は零って呼んでもらえるとありがたいんだけど…」
みんなに言っていることを彼女にも伝えると、
「そうなの?、でもさっき水晶はあなたのことを零華って呼んでいたでしょう?」
「一応水晶にも言ったんだけどな…」
言いながら水晶を見ると、
「零華って呼ばれるの…いや?」
上目遣いで不安そうにこちらに目を向けていた。
こんな目を向けられて断れる人はいるだろうか──いや、いない。
「水晶の好きに呼んでいいよ。」
「…うん」
嬉しそうに頷いてくれる。
その光景を見ていたステラは、
「じゃあ私も零華さんって呼ばせてもらって構わないかしら?」
「…それは構わないけど、さんは止めてくれ。年齢なんて気にしなくていいから。」
どうにもそういうのは慣れないからな。幸いステラはその気持ちがよくわかるようですぐに呼び方を改めてくれた。
この人達とは仲良くやっていける気がする。




