番外編 ローワンの危機 前編
グランヴェル王国、王立ノルト学園。
そこにいる一人のおじさん…騎士に会うために、私は東京からわざわざ異世界へ足繁く通っている。
普段は護衛術の先生で、とても真面目で厳しい。だけど授業の外では結構笑う、そのお顔がとても可愛らしいのだ。
目尻に刻まれた皺、日に焼けた肌、白髪混じりの赤茶けた髪、低く柔らかな声。どこをとっても『おじさん』なのだが、そこがいい。私はおじさんフェチである。
おじさんは学園内の警備詰所によくいる。詰所の中に大好きな緑茶の茶葉が隠されているのを私は知っている。手を出すと怒る。
私が来ると『勝手に入るな』『仕事の邪魔だ』と怒るのだが、何だかんだ私の差し入れを食べてくれる、優しい。
「ローワン先生、ご結婚されないのです?」
「……俺が独身だと言った覚えはないが」
「指輪をしてないので分かります」
結婚していても全然驚かないのだけど、全くそんな気配がない。何より『お前に関係ない』と呟いたことでもう答えになっちゃってるのよ。
先生が空になったカップを片付けようと立ち上がったところで、外からドアを激しくノックする音がした。こんなにはっきりと叩くのは絶対私の知り合いではない。具体的には塩田とか成島さんではない。
「ローワン先生、巨大な魔物が学園北の森に出現しました!!」
「すぐ向かう」
訪れてきたのは若い騎士だった。ローワン先生が剣を身につけ、外に出る。私も強制的に追い出された。
「…何故ついてくるんだ」
「わ、私も大人として学園の生徒たちを守らないと!」
「足手まといにも程がある、帰れ」
「ぐ、ぐーちゃんとみーちゃんを連れてきますわ!!」
ぐーちゃんは稲荷神、みーちゃんは守護霊兼猫神。どちらも戦闘にはあまり役に立たないと思われ。
「それで、敵の特徴と数は?」
「それが…鳴き声や爪痕は確認できたのですが、森の奥で暴れているようで姿が目視できず」
「厄介だな」
「せんせー!私アガーテ先生に伝えてきますわ」
「………まあいいか、頼んだ」
呆れ顔でため息をつかれた。私はもうこの学園の生徒でもなんでもない、ただの部外者である。
魔法課棟に入ると『ババリアーナ嬢…?』『すごい似てるけど違う』などと囁かれる。『よく見ろおばさんだ』って言った奴は後でシメる。
一番上の階にアガーテ先生の教員室があり、そこを訪れると、どこか落ち着く香りと共に、ありったけの魔法具と魔導書にあふれかえった小さな部屋が目に入る。
「まあ、久しぶりね『ババ』……何か問題が起きたのね?」
「アガーテ先生、北の森で巨大な魔物が出たらしいのですわ、でもその姿を確認できていないらしくて」
「ローワン先生に任せておけば、まず大丈夫でしょうけど、念の為生徒がすぐ避難できるよう準備はします。魔物の姿は私が魔法で見てみましょう」
アガーテ先生はそういうと、水晶を机の上に置き、呪文を唱え始めた。
水晶の中に風景が見える、電話代わりの『伝声水晶』の派生だろうか。
「……これは、まずいわね。ローワン先生との相性がかなり悪いわ」
「せ、せんせー、ローワン先生ピンチですの!?」
「ババ、この魔法薬を持ってローワン先生を助けてあげて頂戴。貴女には姿を隠す魔法をかけましょう」
アガーテ先生にガラスの瓶を持たされる。中には毒々しい緑色の液体が入っていた。
私はアガーテ先生の杖の一振りで、透明な人間になった。




