番外編 エヴァンの生き甲斐 前編
長い夢を見ていた。
そこにはピンクの縦ロール髪に女子生徒の服を着た僕がいた。
僕は王者候補筆頭、学園一の才女と謳われたババリアーナ様に暴言を吐き、精一杯の悪事を働いて目立とうとしていた。
何という愚かなことを、と呆れながら、どこか僕はそいつに憧れていたんだ。
声がでかく、態度もでかい。何の根拠もないのに自信に満ち溢れている。何でだ?僕は、『エヴァン』は社交課の落ちこぼれなんだぞ?
思い通りに魔法を使えたことなんてなくて、成績はずっと低空飛行。いつも存在を忘れられていて、お茶会に呼ばれたこともない。
ババリアーナ様は、僕の生き甲斐だった。
彼女の自信には根拠がある。常に上位の成績、高い魔法を操る力、優雅な立ち振る舞い。それら全てが努力の賜物だった。
誰かと馴れ合うなんてしない、一人でも孤独を感じさせない、気高い令嬢だった。彼女がこの国の王女になる未来が楽しみだった。
「ーーエヴァン?聞いていますこと?」
「は、はい!ババリアーナ様」
「ババの世界には魔法がなくとも、誰もが便利に暮らせる文明があるのですわ。私はその秘密を解き明かしたいの、まずは灯かりから研究いたしましょう」
「仰せのままに、僕は何をいたしましょう」
「シオダにあちらの世界をもう一度案内していただきましょう」
「シ、シオダ…!?あいつですか!?」
「そいつですわ」
「僕、あいつは嫌です…」
「まあ、長い時間一緒におりましたのに」
「だってあの男、僕の姿で女装して、ババリアーナ様に失礼なことばかり…!!」
「別に構いませんわ、ちょっと新鮮でしたし」
「…ババリアーナ様、まさかあいつのこと…」
ババリアーナ様を見つめていると、ババリアーナ様は声をあげて笑い出した。
「エヴァンたら、何の心配をしてるのです!私が平民と恋に落ちることはございませんわ」
「そ、そうですよね!あいつは…本当に平民でしょうか…?」
「あの立ち振る舞いで貴族だったら、私の目は節穴ですわね」
「絶対にそんなことはございません!ババリアーナ様の目は確かです!」
ババリアーナ様は懐の深い方だ。突然体を乗っ取った「ババ」とやらにも優しく、目障りな存在だったはずのリリア・エルシア・ルミエールとも打ち解けた。
最近のババリアーナ様は以前と違って、他人と関わるのを躊躇わなくなった。それは僕にとって誇らしくも、少しだけ寂しいことだった。




