ローワン
知らない世界で、誰も頼れない状況で、見知った顔に出会った時、どれほど心強かっただろう。
思わず『馬場』と呼んでしまったが、彼女は俺を覚えていなかった。姿はいくらか幼くなっていたが、喋り方も、破天荒な行動も、間違いなく馬場だった。
会社での彼女は、要領がいいとは言い難い人間だったが、真剣なのは伝わってきた。あれこれ仕事上でアドバイスもしてきたが、その度に疎んじられているのを感じた。
危なっかしくて、周りがつい手を貸したくなるような、不思議な人間だった。気付けば彼女はこの世界に馴染み、沢山の人に慕われていた。それが自分のことのように嬉しかった。
そんな彼女が、目の前で呆然としている。
「ーー成島さん」
「……思い出したんだな、馬場」
「記憶を消していいですか?」
「待て、それは闇魔法を使うという意味か?」
「全部、全部忘れてください。自力で無理なら手伝います」
「杖を光らせるな、しまえ。そうだ、転送魔法のやり方を調べようじゃないか」
彼女に嫌われているのには気付いていたけれども、ここまでのギャップを目の当たりにすると流石に傷付く。
『全く気づいてもらえていないな、若造』
ローワンが笑っている。図星なだけに何も言えない。
あれほど気にかけて、影から様子を見て、手を貸しても、元の世界と同じ結果にしかならない。そのことが歯痒いし、いっそのこと彼女の記憶がないままだったら、とも思う。
『難儀な恋だな。どうする?これからは俺がライバルだぞ』
「嫌なことを言うな」
『折角ババリアーナに会うたびに、前に出るのをお前に譲っていたのにな』
「黙れ」
彼女が頼っていたのも、尊敬していたのも、全部この男だと思うと、この体を今すぐに抜け出したくなる。ーー不可能な訳だが。




