馬場
……あの日、珍しく深夜まで残業していた。静まり返った誰もいないオフィス……いや。誰か、いた。
私は情けなくていたたまれなくて、必死にキーボードを叩いていた。自分のミスで、一番頼りたくなかった人を頼らざるを得なかったんだ。
同期入社だった。向こうは二つ上だけれど、同じ部署で、最初は同じ仕事をしていたんだ。
だけれど気付くと向こうは違う仕事を任され、違うポストに付いていた。比べるつもりなんてなくても、どうしても比べてしまっていた。
私だって頑張った。けれど、何をやってもあの人には敵わなかった。同じ仕事をすればミスをカバーされ、ブラッシュアップされ。周りの評価にどんどん差がついた。
悔しくて悔しくて、どうしてあんな人がいるんだろうって泣いた。仕事だけではなく、性格が良くて、人望もあって。顔を合わせたくなかった。それなのに、いつも助けられてばかりだった。
ーー私は許せなかったんだ、そんな自分が。
ああ、どうして思い出せなかったんだろう。
ローワン先生は、彼がまるでそのまま歳を取った姿だったのに。
『ふふ、……そっくりですわ』
「何が!?何で笑ってるのババリアーナ!私、泣いてるの!悔しくて!」
『貴女、本当に根は私とそっくりですわ。負けず嫌いで、可愛げがなくて、不器用で』
「一緒にしないでよ!ババリアーナは努力がちゃんと報われてるじゃない、実力があって、認められてるじゃない!!」
ババリアーナに八つ当たりしてどうする、最低だ私。
『私は貴女が羨ましいのに?』
「え」
『貴女の魅力は、その隠しきれていない感情ですのに。そこに惹かれて、皆が集まってくるのに?』
「……そんな」
『私はずっと一人でしたわよ?レオンハルト、ノエル、セシルにカイル。アルフォンス王子ですら私には見向きもしなかったのに』
「一人じゃなかったじゃん!ずーーっとエヴァンが付いてきてたでしょ!アガーテ先生だって、ローワン先生だって、皆あんたを褒めて……」
そこから先は言葉にならない。私はまた泣いていた。多分きっとババリアーナも。




