ババリアーナ
あれはいつのことだったろう。
父上に連れられて、どこかの侯爵家を訪れた時。幼かった私は大人たちの長話に退屈して、庭で一人で遊んでいた。
ドレスに身を包んだ美しい貴婦人たちが、歩きながら話をしていた。話に夢中で、花壇の後ろにいた私は目に入らなかったようだ。
「……それにしても、バーバリア侯爵家のご令嬢は闇属性という噂がありますのよ」
「まぁ、でもバーバリア侯爵家といえば、将来の王妃になられるのでは?」
「いくら王家が容認しているとはいえ、闇属性の王妃は…縁起が悪いですわねえ」
その言葉は、私の胸に杭となって、今も刺さり続けている。
王妃になるための教育を徹底的に施され、両親も王族の皆も、私が王妃になるものだとして接した。
アルフォンス王子も、僕たちが大人になったらという話をよくしてきた。その度私は口を酸っぱくして言った。
王妃に相応しいかちゃんと見極めろ、周りに流されるな、と。
ノルト学園の高等部に進学した時、初めてリリア・エルシア・ルミエールの存在を知った。
淡い金の髪が波打ち、湖のように澄んだ青い瞳が輝く、美しく聡明な女性。
彼女が光属性と知った時、神はいるのだと思った。彼女ほどに王妃に相応しい人間はいない、そう確信した。
私は振る舞った、いかに私が王妃に相応しくない人間かを見せつけるよう。リリアの方が余程相応しい人間である、ということを認めさせるよう。
闇属性の王妃なんて、この世界にいてはならない。この王国に不吉をもたらす王妃なんてもってのほかだ。
それでも両親の期待には応えたかった、だから闇魔法を使えなくとも、他の魔法で挽回できるよう努力した。
私は私を誇りに思う。
ーーだから馬場、そんなに泣かないで。
美しくはない、祝福された存在でもないけれど。
私は家族に、王族に愛されてきた、それに報いたいのだから。
私、怒っておりますのよ?
私が今まで必死に築き上げてきた、私という人物を、台無しにする振る舞いをされたことを。
人の人生で勝手に踊って、楽しそうにしていたことを。
でもおかげで私、気付けましたわ。自分がいかに狭い世界で生きてきたかということに。
誰も傷付けることなく、自分も傷付かずに済む方法があったのかもしれませんわ。
でも私はその答えを自分で見つけたいのです、貴女の力を借りずとも。




