エヴァン
最近やたら本屋で見かける、『悪役令嬢』もの。
どうせイケメンにちやほやされる逆ハーレムだろうと馬鹿にしていたが、ふとしたきっかけで読んでみて、不覚にも泣いた。
悪役令嬢にもそいつらなりの信念があって、それを貫いて生きる様に心を打たれた。そこから俺は悪役令嬢のコンテンツにのめり込んだ。
小さなゲーム会社のプログラマーだった俺が、社内でも悪役令嬢の登場するゲームを開発すると聞いて、進んで開発メンバーに加わった。
ストーリーは見事なものだった。悪役令嬢である『ババリアーナ』は、バックグラウンドがしっかり作り込まれていて、進めていくとヒロインの邪魔ばかりする理由が明らかになってゆく。その生き様を心から格好いいと思った。
一方でどうしても感情移入できないキャラクターもいた。ババリアーナについて回る地味で暗い役、『エヴァン』だ。
落ちこぼれで、目立たないように歩いていたところを、ある日通りかかったババリアーナに声をかけられる。
「貴方、いついかなる時も背筋はしゃんと伸ばし、真っ直ぐ前を見て歩きなさい。その姿勢こそが貴方に自信と勇気をもたらすのです」
その一言でエヴァンはババリアーナに憧れるようになる。ババリアーナのどんな行動も彼は手放しに賞賛する。
だが最後、ババリアーナの断罪エンドの時だけ、彼は狼狽する。いつもついて回っていたエヴァンは、ババリアーナが闇魔法を使えることを知る、数少ない者だった。反転魔法を目の当たりにした瞬間に確信してしまった。信じていたはずの令嬢が、王族の命を奪おうとしていたのだと。
彼はババリアーナが連行された瞬間に叫ぶのだ、『信じていたのに…貴女だけを信じていたのに』と。その時一瞬だけ、ババリアーナが泣きそうな顔をする。
……シナリオライター、エグいことするじゃねぇか。トゥルーエンドを見たプレイヤーだけが気付ける、それが冤罪であることに。
だから目を覚ました時に自分が『エヴァン』になっていると知ると、ぞっとした。断罪処刑エンドだけは絶対に避けたい、その一心で、俺は本来の『エヴァン』からかけ離れた人物になろうとした。悪役令嬢よりも悪役らしくなり、ババリアーナに集まる非難の目を逸らそうとした。
……おい、エヴァン。お前中で眠っていて良かったな。反転魔法を見た時、ババリアーナを疑っただろ?
ちゃんと起きて謝れ、自分の言葉で。今度こそ側にいてやれ。
本物のババリアーナはきっと、お前に笑って「ありがとう」って言うからよ。




