ババリアーナにもし会えたなら
昨日、今日授業を受けたのは本館・教養館。その一番近くにあるのがいわゆる『警備詰所』ですよ、とクラスメイトの方に教わった。何故か怯えられていたが。
「詰所…多分ここだ」
恐る恐るノックすると、内側から扉が開き、からんころんとベルの音が鳴る。
「ババリアーナ嬢、中へどうぞ」
「お忙しいところすみません、なるべく手短に済ませますので」
こじんまりとした部屋に長机と椅子。壁に掛けられた武器にぎょっとする。ここは現代でいう警備員さんの事務所のようなものなのだろう。
ローワンさんに促されて椅子に腰掛ける。煌びやかな学園と違って、ここは装飾など必要なもの以外削ぎ落とした、落ち着いた部屋だ。
「当然ですがここで聞いたことは他言しませんので、何でもどうぞ」
「あの、ローワン先生から見た私は、どのような人物でしたでしょうか」
ローワンさんがぽかんとする。首を傾げ、頭を掻く。
「…それは、王太子殿下に聞かれた方が良いのでは?」
「いえ、正直に…ぶっちゃけますと、私あの方が苦手で」
「え?」
ローワンさんが固まった、と思ったら小さく笑った。あ、目尻の皺が可愛いな。
「この場所以外で言っては駄目ですよ、絶対に」
「存じております、その、私どうやら記憶が飛んでしまっていて…元々の性格が思い出せなくて困っておりまして」
「ふむ、様子がおかしかったのはそのせいか」
「先生から見ても違和感がありますか?」
「あるとも、俺の知っているババリアーナ嬢は、うっかりでも噴水に落ちたりしない。所作は美しく、言葉遣いは優雅で、いつも落ち着き払っていた。冷静沈着なためか、時に愛想が無いようにも見えるが、誰よりも努力家で絶対に弱音を吐かない方だった」
…ババリアーナにもし会えたなら、まず謝ろうと思った。
「今の私は相当酷いということは理解できました」
「俺は今の少し抜けている貴女も嫌いじゃないですよ、人間味があっていい」
そしてもう一つ、どうしても聞きたかったこと。
「それと、貴方は何故あの時私を『馬場』と呼んだのですか?」
「…何故だろう、不意に口から出た言葉で、何も考えてなかったんだ。それが何か?」
「…いえ、何でもないです」




