星灯祭 九
ローワン先生が王子に向かって一礼をした。
「アルフォンス王太子、失礼ながら申し上げます。……あるべき姿に囚われすぎると、本質を見失いますよ」
その言葉の意味が分からず、思わず先生の顔をじっと見つめた。
「俺たちから見たら『ババリアーナの中身が入れ替わってしまった』状態だが、恐らく中身の彼女は『肉体を失い、自分が知っている世界も全て失った』状態です。それでも彼女は戸惑いながら、この世界に馴染めるよう気丈に振る舞ってきた。殿下、貴方にはそのことに気付き、思いやれる人であってもらいたい」
王子がはっとなって顔を上げた。ローワン先生はこちらを見て微笑む。
「そうだよな?ババリアーナ」
……事実で殴るのをやめて欲しい。折角考えないようにしていたのに。
「…先生、優しさは結構ですが、時と場合を考えて発揮してもらいたいですわ…」
「全く、よく泣く令嬢だ」
先生からハンカチを手渡される。それぐらい持ってるけど、ありがたく受け取った。
「ローワン先生、僕は…今、何をすべきですか?」
「今の貴方になら話しても大丈夫だと判断して、全てお話しします。単刀直入に言いますが、星灯祭で何者かが国王陛下はじめ、殿下とリリア嬢に危険が及ぶような罠を仕掛けてきます」
ローワン先生は話した、結界石のこと、闇魔法のこと、全ては私を陥れるための計画であろうことも。アルフォンス王子は俄には信じられない、と言った顔をしていたが、先生が嘘を言うとも思えないと考えたのだろう。信じるよ、と短く答えた。
「このことをリリア嬢には伏せておくか、話すか。その判断は殿下に委ねます」
「ーー全て話すよ、リリアは魔法課の非常に優秀な生徒で、芯の強い女性だ。きっと力になってくれる」
「それはいいご判断だ。さてババリアーナ、ちゃんと『練習』はしてきたか?」
「…先生に前に言われた通り、毎日練習は行ってきましたが、……三秒が限界です」
「充分だ」
詰所で大泣きした日、ローワン先生と交わした約束がある。とても役に立つとは思えないが、何もしないよりマシだと思いたい。
「それにしても、護衛されている自覚が足りないようだなババリアーナ?」
「儀式までは大丈夫ですわ、私が注意しなければならないのは、物理攻撃ではなく冤罪ですから」
「俺がどれだけ学園内を走り回ったと思ってるんだ」
軽く先生におでこを弾かれる。先生、もしかして付いてきてくれてたのかな。
その時鐘の音が聞こえた。儀式の準備に向かわなくては。その音はいつもより重く、鈍く響いて聞こえた。




