星灯祭 七
カイル王子に連れられてきたのは、学園内の迎賓館だ。滞在中はここで過ごすらしいのだけど、足を踏み入れた瞬間、レッドカーペットに大理石の床が目に飛び込んできた。中庭があり、応接室があり、セレブリティな空間だった。
「僕の部屋はこっちだ」
「い、いいんですの…?」
階段を上がっていくと幾つかの客室があり、その一室にお邪魔させてもらった。
窓からバルコニーが見え、明るく、でも静かな部屋。中央に執務机とソファがあり、壁際には本棚とクローゼットが並んでいる。
「ババリアーナ、君に贈り物をしたいんだけど、一つ選んでくれるかな」
机の上に並べられたのは、拳ぐらいありそうな大きさのエメラルド、精巧なレースが幾重にもあしらわれた紫のドレス、黄金の白鳥の置物、木製の箱の中の黒い粒。
「ど、どれもいただけませんわ…」
「それは我が国と外交は結べないという?」
「待ってこれ国の代表としての話ですの!?」
「冗談だよ、美しい令嬢へ贈り物をするのは、僕なりの礼儀なんだ」
どれも身に余る高級品ばかりだが、最後の一つ、黒い粒が何なのか気になった。
何だこれ、ジャコウネコのウンコか?どこかで見たことある気がする。
「…王子、こちらの黒い粒を頂けますか?」
「そう言うと思ったよ」
「黒胡椒ですわね、これ」
正解、とばかりに微笑む王子。この世界では超貴重であり、超高級品だ。
「これをどうにかして育てることが出来たら、食生活がさらに豊かになりますわ…!」
「君は本当に面白い、自分を磨くことより食なんだね」
「交易で富も得られそうですわね?」
「まこと、未来の王妃に相応しい慧眼の持ち主だよ」
「?、アルフォンス王子はリリア嬢をお慕いして…」
「この国じゃない、我が国の王妃さ」
言葉の意味が飲み込めず、カイル王子の方を見た。王子は両手を広げ、金色の目は悪戯っぽく細められた。
「…私が?貴方の?正気ですか?」
「やっぱり君は面白いな」
カイル王子が笑う。笑った顔はあどけなく見えるのに、どこか掴みどころがない不思議な人だ。
その時、ドアをノックする音が響いた。
「…カイル?アルフォンスだ。ちょっといいかい」




