前夜祭 五
「待て、どこへ行こうとしてる」
「外ですけど」
「正面扉に向かってるだろ、目立ちすぎる。こっちに裏口があるから」
先生に逆に手を引かれ、踊る令息令嬢たちの間をすりぬけ、そっと扉を開ける。外に出ると楽団の演奏の代わりに虫の声が響き、照明の代わりに月明かりが地面を照らしていた。
「先生、あのあかりは何ですか?」
「植物園の方か?星灯花だ。この時期だけ咲くんだ、魔力を吸って夜に光る」
「きれい……」
植物園に向かおうとしてドレスの裾を踏み、ローワン先生に腕を引かれた。動きにくくて仕方ない、やっぱり私にドレスはもったいないよ。
「暗いから危ない」
差し出された手に手を乗せた。『俺の手に掴まって』とか言わないあたりが実にローワン先生らしい。
「何を笑ってる」
「いえ…先生らしいなと思って」
「花を見にいくんだろ?」
ドレスの裾をつまみながら、足元を見ながら恐る恐る歩く。ムードもへったくれもあったもんじゃない。
星灯花が光る様は間近で見るととても神秘的で、ここにカメラがないのが悔やまれる。
花をひとつだけ摘み、先生の髪に刺す。
「おい」
「綺麗です、とても」
「俺が綺麗でもしょうがないだろ…」
「でも、綺麗です」
この時間ごと閉じ込めてしまいたいほど、貴方のいる世界は綺麗だと思った。
ーーああ、生きていたいなあ。
「どうした?」
先生の手が優しく髪に触れる。
「…明日、私はどうなるんでしょう」
「俺が護るから大丈夫だ」
「やっぱり、私が疑われるような事態が起こって、誰も私を信じてくれなかったら、どうしましょう」
先生が一歩こちらへ近付くと、そっと私を抱き上げた。
「そしたら、二人で遠くへ逃げるか」
ローワン先生は笑った。無邪気な子供みたいな笑顔で。
「……それはずるい、ですわ」
「何故?」
「そっちの方が良いかもって思ってしまいます」
先生は微笑んだまま、前を見た。
冗談に決まってるけど、一割ぐらい本気かもしれないと思った。その一割にすがりたくなるほど、その時間はかけがえのないものだった。




