前夜祭 四
アルフォンス王子とエヴァン、どちらもリリアに手を差し伸べるのを見た。どちらの手を取るのかまで私は見守ってやらない。片方だけ応援してしまいそうだから、フェアじゃないからな。
「…美しいご令嬢、私とダンスしていただけますか」
「ク、クラウゼン先生!?」
恭しいお辞儀と共に目の前に現れたクラウゼン先生。燕尾服が本当に良く似合っている。
…今日だけは、私だけでも私が主役だと思ってもいいのかな。そう思いながら手を取る。
優雅には踊れないけれど、クラウゼン先生はリードするのがとても上手だった。眼鏡の奥の先生の鋼色の目は、吸い込まれそうに綺麗だった。
先生は手を離し、後ろを振り返った。
「さあ、次は貴方の番ですよ、ローワン先生」
ローワン先生は鎧を外し、肩章の付いた礼服を着ていた。前髪はオールバックになっていて、おでこが見えると少しだけ若く見える。
「俺は教員の立場なので…」
「私は踊りましたよ?」
「警備があるので」
「騎士たるもの、こんな可愛らしいレディをお待たせしてはいけませんよ、さあ」
クラウゼン先生に軽く背中を押され、ローワン先生がこちらに来る。心なしか先生も緊張してるように見えた。
ぎこちなく手を重ね、ゆっくりと踊り出す。
「…先生、大福食べていただけました?」
「ああ、美味かったよ」
「先生、お顔が硬いです」
「…慣れてないんだ、こういう場は」
目の前にいるのに、目が合わない。少し照れているように見える横顔は、なんだか別人のようで。
沢山の、沢山の人がいるのに。私には先生しか見えない。これは夢なのかな、私は夢の続きを見てるのかな。
曲はあっという間に終わり、私たちはそっと手を離す。こんなにも離れ難いのに。
「……悪い、目立つのは好きじゃなくて。俺には警備の方が合っている」
先生が呟く。次の曲が始まってしまう、一緒に踊る違う人を探さなきゃ、なのに。
「私も、こういう場は苦手です」
私は笑って先生の手を取り、そのまま会場の外へ歩き出した。




