前夜祭 三
舞台中央に現れた令嬢は、銀色の髪をゆるく結い上げ、海の底のような静かな青い瞳の、藍色のドレスがよく似合う神秘的な令嬢だった。
彼女が歌い出した瞬間、その細い体のどこから声が出るのかと思うぐらいの、豊かな歌声が会場を包み込んだ。
その昔の大魔物との戦いで、王国を救った星魔法、国を守り続けた光魔法と結界石。その物語が音楽に乗って耳に届く。
背筋が震え、気づけば涙が流れていた。
「…いけない、化粧が落ちてミラベルさんに怒られる」
会場に割れんばかりの拍手が起きた。オフィーリア嬢は表情を変えず静かに一礼をし、段を降りて行った。
フロアに照明が灯る。楽団の演奏が始まる。パーティの始まりだ。
令嬢たちはアルフォンス王子の一挙一動を見守っている。『誰と踊るのかしら』、そんな心の声が聞こえてくるようだ。
ふとリリアが目に止まる。沢山の男子学生たちがダンスの誘いに集まっている。アルフォンス王子と踊るのは、きっとリリアだろう。
「ちゃんと令嬢に化けるもんだな」
「元から令嬢で……誰?」
長めの黒い前髪から覗くきりりとした眉、黒い瞳。燕尾服に身を包むその男性に見覚えはないが、声は間違いなくエヴァンなのだ。
そっか、今日は男として見てもらいたいんだね。そう思ったら無意識に微笑んじゃったらしく、エヴァンに睨まれた。
「…エヴァン!そう、そうなの」
アガーテ先生がやって来た。先生は心から喜んでくれてるらしく、満面の笑みだ。
「卒業するのね。ふふ、貴方はずっとババリアーナに憧れていたものね」
「!いい今言うなババア!!!」
……なんて?
エヴァンが、ババリアーナに、憧れて?
「おいそんな目で見るなババリアーナ!!」
「いえ、……だからあの格好だったんだぁって……」
「ずっとババリアーナの後ろをついて回ってたものね、ふふ」
エヴァンが怒りなのか恥ずかしさなのか分からないけど真っ赤に染まる。
ババリアーナ、今どこにいるの?聞いた?
嫌われていたはずの貴女に、憧れていた人がいたんだね。貴女はずっと、一人じゃなかったんだね。




