出でよ、豊穣の神
農政課の方に許可をいただき、小豆と餅米用の畑と水田を用意した。気候が日本より涼しく乾燥しているので、育てるのは厳しいかもしれない。
そうだ、農業の神を召喚しよう。思いついたら即行動に移れるのが私の良いところだ。
「えーと、農業の神……フレイ、これがいいな」
「今度は召喚魔法ですか」
声の主はクラウゼン先生だった。図書館でよく会うな。
「民が飢えで苦しまないように、と思いまして」
「ご自分が食べたかっただけでは?」
バレてる。クラウゼン先生がくすくす笑っている。
「見ましたよ新聞。中々豪快なことをなさる」
「民との交流も大事な勉強ですから」
「悪役令嬢っぷりが板についてきましたね」
中々貰うことのない褒め言葉を貰った。よせやい照れるだろ。
「好きなことを思うようにやりなさい。失敗しても責任を押し付けられるのは、今のうちだけですから」
「……すると責任は先生方が取ってくれるのですか?」
「さて、どうでしょうね」
クラウゼン先生がふっと笑う。厳しそうな人の笑顔にほんと弱いな私。
召喚室へ入るのは初めてだ。あらゆる魔法道具や薬品が並べられており、床にはあらかじめ基礎的な魔法陣が描かれていた。こりゃ便利。
魔法陣に少々手を加えて、分けていただいた稲を置く。
「ーー出でよ、豊穣の神!」
光り輝く魔法陣の中央から出てきたのは麗しい男性……ではなかった。ちいこい、ちいこい白いキツネ。
私のかつての飼い猫にそっくりだったので、そこから名前を取って『ぐーちゃん』と呼ぶことにした。
「……これは……東方の『稲荷神』?」
「なんて稀有な神様なんだ……」
周りで見守っていた魔法課の生徒たちが呟く。そりゃこの世界で豊穣の神=稲荷神を呼び出すのは私ぐらいだろうよ。
「ぐーちゃん、お米と小豆を育てたいの。力を貸してくれる?」
ぐーちゃんはその場でくるくる回り、私の頭をじっと見つめた。……君もなのか。君も頭に登りたいのか。
その場でしゃがんでぐーちゃんを手のひらに乗せると、ぐーちゃんは肩から頭へ飛び乗ろうとした。
「ゥウウゥゥゥ、フシャーーーッ」
「あっみーちゃんがめっちゃ威嚇してる」
タヌキVSキツネ、もとい飼い猫同士の喧嘩。そういえばみーちゃんとぐーちゃんは仲が悪かった。仕方なしにぐーちゃんを下ろす。ぐーちゃんはしょんぼりしていた。




