重いのには慣れているよ
おそらく十メートルも離れていないところで、私はすっ転んであっさり捕まった。冷静に考えてローワン先生に敵うはずないじゃない、歩くのさえ超速いのに。
そしてデブは走るのが遅い。足がよくもつれる。
「なんだ、何か悪さでもしたのか」
「……ローワン先生、信じて下さい。私、誰も傷付けるつもりはありませんわ」
涙で滲んで先生の顔がぼやけて見えた。頭の上でみーちゃんがなん!なん!と鳴いていた。
ふと、体が宙に浮いて驚く。……私、抱き上げられてる??
「先生、下ろしてください!私、重いです」
「重いのには慣れているよ」
「あの、恥ずかしい!歩けます!」
私じゃこの速さでは、とても移動できないだろう、と思うぐらい速かった。あっという間に詰所まで着いてしまい、中へと通された。
ガチャリ、と中から鍵をかけられる。ーーーあれ、しまった。逃げられないのでは。
ローワン先生と目が合う。先生がこちらに向かって歩いてくる。私は目をぎゅっと瞑った。
「なん」
「……可愛いな」
ローワン先生はみーちゃんをひとなですると、私の横を通り過ぎていった。
「み、みーちゃん…?」
みーちゃんが喉を鳴らしている。ミラベルさんがいる時なんか、クローゼットから絶対出てこないぐらい人見知りなのに。
ローワン先生は、二つティーカップを持って戻ってきた。椅子に座るよう促される。
……あれ、この香り。緑茶?
「気付いたか。滅多に手に入らない希少な葉だ」
知らない土地に、知ってる香りが立ち込める。それだけでほっとするのは何故だろう。
目の前の椅子にローワン先生が腰掛ける。向かい合って、ただお茶を飲む。どちらも何も喋らず、静かに時間が過ぎてゆく。
「落ち着いたか、馬場」
「…せんせー、私の名前…」
「馬場だって言ってたじゃないか」
ローワン先生が笑う。穏やかな微笑みで、私の中の凍っていた部分が溶けてゆくようだ。
「…さて、話せるか?」
「……私が結界石に魔法をかけたかもしれません、でも信じてください、私、誰も傷付けたくないんです」
「結界石……そのことだが、学園長にも魔法課の先生にも話した。何もなかったよ」
「えっ」




