君にお願いがあるんだ
アルフォンス王太子。金髪碧眼、背がすらっと高くて、でも威圧感はない。柔和な雰囲気と気高さを纏う不思議な人。
だが私はこういう「ザ・正しい」人が苦手である。闇を感じてこその人間だと思うのだが、この人から1ミリも闇を感じられない。闇の方が消し飛びそうだ。
「体調に大事がないのなら良かった」
「え、え、ご心配おかけしました…わ」
間が持たない。メイドさんの淹れてくれた紅茶についつい手をつける。あ、美味しい。
「…このような折に話すべきではないと思うんだけれど、もう星灯祭まで時間がない。ババリアーナ、君にお願いがあるんだ」
「せい、とうさい」
すぐにメイドさんが近付いてきて耳打ちする。
(ノルト学園の年に一度の学園祭ですよ、国王陛下はもちろん、ご来賓の方も大勢来られます)
「あっありがとうございます」
「知っての通り、光魔法の使い手であるリリア嬢が『星灯の乙女』を務めるのだが、最近リリア嬢の体調が思わしくない。精神的なストレスによるものだそうだ」
「へ、へぇ…」
メイドさんの方をちら、と見ると、『後で説明するから余計なこと言うな』オーラを凄く感じた。
「ババリアーナ、彼女にきつく当たるのを控えてもらえないか」
「あ、はい、承知いたしましたわ」
王子が目を見開く。私何か変なことを言っただろうか。
「…怒らないのかい?」
「?怒るとリソースの無駄遣いになりますわ」
王子とメイドさんがあっけに取られ、変な空気になった。もしかしてババリアーナの元の性格と乖離した振る舞いをしてしまっただろうか。
「体調が優れない時に長居してすまなかった、星灯祭、必ず成功させよう。勿論無理はしないで、僕がフォローするから。お大事にね」
お辞儀一つとっても優雅な王子は、いるだけで空気が澄んでいくようだった。そして私は安堵から大きく息を吐いた。
メイドさんから星灯祭について説明を受けた。年に一度の学園祭だが、魔法を披露する伝統の場でもあると言う。例年は最も魔力の高い、あるいは魔法の技術に長けているとされた女学生が【星灯の乙女】となり魔法を使い、続いて王族が使う光魔法が会場を照らすという流れ。
選ばれた女学生は王妃候補になるとの噂もあり、また誉れでもあることから、誰もが一度は夢見るんだとか。
だが今年は異例中の異例として、選定試験が開催されなかった。新入生の中に王族しか使えないはずの光魔法を使える者がいたからだという。




