私、あの人苦手です
金髪碧眼の人が医務室に連れて行くよう指示してくれて、すぐに着替えさせられて風邪を引かずに済んだのは良かった。一緒にいたメイドさんは何故か悲鳴を上げていた。
「ババリアーナ嬢は今日少し様子がおかしいようですね、体調には十分気をつけてあげてください」
「先生の仰る通りですわ、まさかバーバリア家のメイドであるわたくしのことが分からないなんて…!」
メイドさんは泣き出してしまった。どうやら私のお付きのメイドだったらしい。これどこまでが映画なんだろう、いつまでもカットが入らないな。
メイドさんに連れられて戻ったのは寮の一室、私の部屋らしい。
「ババリアーナ様、アルフォンス王太子殿下のこともお忘れになってしまわれたので?」
「アル…あの金髪碧眼の人」
「貴女様がおそらく将来結婚される方ですよ、幼馴染じゃないですか。あんなに心配して下さったのに…」
「け、結婚!?王子様と私が結婚?」
「バーバリア家は名門侯爵家ですよ?ババリアーナ様は王立ノルト学園の誰もが知っている格式高いご令嬢です。うっかり噴水に落ちるなんてありえないはずなのに」
メイドがまた泣き出しそうになる。私のせいか。
「すみません、私まだ役が飲み込めてなくて…あの、台本とか見せてもらえますか」
「また変なことを仰る!これは劇ではございません、どこに舞台がございますか!」
…劇じゃ、ない?
「ここは令和の日本じゃないの?」
「ニホン?何ですかそれは、ここはグランヴェル王国ですよ?」
私は急いで立ち上がり、部屋のあちこちを見て回った。机の上に本を見つけ、恐る恐るめくってみる。
「…王国暦三百十二年?待って、字が読める、読めるのにこれ、日本語じゃない」
冷たい汗が背中を伝う。何がどうなってるんだ、私は私じゃないのか。大きな姿見の中には見慣れた顔があるのに、知らない人に見えた。
「ババリアーナ?アルフォンスだ、大丈夫かい?」
ドアをノックする音と若い男性の声がした。
「殿下ですわ、ババリアーナ様、お支度を」
あっ痛い、痛いぞ胃が。どうやら私は王子様とやらが苦手らしい。若いイケメンは目の毒だからなあ。
「居留守を使っちゃダメですか、私あの人苦手です」
「バカなこと仰らないでください!さあお出迎えいたしますよ」




