アウト寄りのアウト
『魔法を学ぼう』と決めたものの。ババリアーナもエヴァン嬢も社交課、魔法の授業は限られている。そしてババリアーナはアルフォンス王子と同じく、『特別課程』の王妃教育がある。
今はミラベルさんによる作法の指導もあり、とにかく忙しい。申し訳ないが今作法はどうでもいい。
放課後を使え、馬場。誰かが私にそう囁いている気がした。
「図書館…初めて入るな」
王立の図書館なんて蔵書が凄そう。それはさておき、魔法の本を探そう。できれば基礎中の基礎の本がいい。
ドアをくぐると立ち込める本の香り。ああ、いつの時代も図書館ってこの匂いなんだな。しんと静まり返っていて、まるでこの世と隔絶された空間。
誰も彼もが目の前の本に夢中で、私に見向きもしない。それが心地良かった。
「魔法、まほう…この辺りか?」
<児童向け はじめての魔法>という本を取った。この学園にもひょっとして小学生がいるのかな。見たところ舞台は高校だけれど。
机に着き本を開く。魔法の分類、必要な道具、自分の属性などが書かれていた。リリア嬢は珍しい光属性だけど、ババリアーナの属性って何だろう。
「日常生活に役立つ魔法…これなら属性関係なく使えるんだ」
生活魔法、いいじゃん。関連する本を探そうと本を閉じて顔を上げると、目の前にこちらを覗き込む顔があった。
「ひゃっ!?」
「失礼、驚かせてしまいましたね。ババリアーナ様があまりにも可愛らしい本をお読みになっておられたので」
眼鏡をくい、と押し上げるその男性は、銀の髪に鋼色の瞳が美しい、グレーの刺繍入りベストが良く似合う紳士だった。年は60手前ぐらいだろうか、年齢の割にはがっしりした体格に見える。
なるほど、天下のババリアーナが薄い子供向けの絵本を読んでたらそりゃ二度見するわな。などと思っていると、紳士から何やら本を手渡される。
「生活魔法ならこの辺りがお勧めですよ」
<今すぐ役立つ百の生活魔法>と書かれた本を渡される。こちらはちゃんと大人向けの本のようだ。
「あ、ありがとうございます…」
「いいえ、また財政の授業でお会いしましょう」
ぺこりとお辞儀をする姿も紳士。授業で会えるんだ、財政ということは、王太子課程室!?
「…あの人が攻略対象だったらいいのに」
年齢的に孫がいてもおかしくないのでアウト寄りのアウトである。このゲームにイケオジを出してくれてありがとうエヴァン。後で伝えよう。
寮に戻ると毎度ミラベルさんがすっ飛んできて、礼儀作法の勉強です!と言われるので、先手を打って『魔法の予習をしますので』と言っておいた。すまんミラベルさん。
杖はあってもなくてもいい、が、あったほうが魔力を集中させるイメージが湧きやすいとか。机の中に、金縁のケースに大事そうに仕舞われた杖があったので、お借りする。
…後は呪文を唱えるだけ。
「教科書、こちらにおいで!」
机の上の教科書が光り輝く。ず、ずず、と動いた。三センチほど。
「……なかなか難しいじゃん」




