コンプラ社会の基本ですわ
「ババリアーナ様、顔色が優れませんわ」
「そ、そんなことないですわ、このお紅茶おいしーーーいたたた」
「お腹の調子が悪いんですの?もうお休みになってください」
「違う違う、ちょっと胃が痛むだけ…」
まずい。ミラベルに悟られてはいけない、私がこの世界の人間じゃないなんてこと。あの後エヴァン嬢に釘を刺されたんだ、『転生したことを悟られるな』って。王族の一存で簡単に首が飛ぶって、そういう世界だって。怖いよ乙女ゲーなのに。
「…私、リリア嬢に酷いことをしましたわ」
「ババリアーナ様はリリア嬢の至らなさを指摘しただけですわ」
「でも、彼女の気持ちを考えませんでしたわ。大勢の前で恥をかかせてしまった、謝らなくては」
「いけません、謝ったらババリアーナ様が間違っていたことになりますわ!」
「間違えない人間なんておりませんわ、己の間違いを認めて謝る。コンプラ社会の基本ですわ」
「こん…何ですのそれ」
「何でもございませんわ」
この世界にコンプラを持ち込むな馬場。なんか誰かに怒られた気がした。
次の日も教室の前でエヴァン令嬢が仁王立ちしていた。
「出たなババリアーナ、今日こそは俺が勝つ!」
「せめて言葉遣いだけでも令嬢らしくなさったらどうですの…」
「授業でどちらが多く発言できるか勝負だ!」
エヴァン嬢の振る舞いは全くもって謎だけど、彼女…彼は頼りになる人だ。というか今日も打ち合わせをしたい、一目につかないところで。
「授業を勝負の場にするのは皆様方と先生へご迷惑です。ではこうしましょう、どちらが多く花の種類を当てられるか。放課後温室に集合ですわ」
「望むところだ、勝敗の判定にローワンの野郎を呼びに行くぞ!」
…信じられない。あのローワン先生を野郎呼び。
詰所のドアをノックし、からんころんとベルが鳴れば、多少呆れた顔のローワン先生が現れ。
「今日は何だ。俺はもう出るぞ」
「俺たちも特にお前に用はねぇ!カモフラージュのためだ!」
「お黙りくださいエヴァン嬢。あの、ローワン先生にお聞きしたいことがございまして、一分お時間を頂けませんこと?」
「一分で答えられることならば」
「私たちが死刑になるのはどんな時ですの?」
…あ、先生が呆れてる。
「法律の教師にでも聞け」
「ですよね」
「王族に逆らうな、他人の命を脅かすな、以上」
詰所に鍵をかけると、ローワン先生はエヴァン嬢と私の間を通り過ぎていく。私たちの頭を順番にぽん、ぽんと叩きながら。エヴァンは何か叫んで怒っていたけど、私は触れられた頭がなんだか熱かった。




