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第四章「白雪しおりと猫田にゃこらのコラボ配信」

いつもお読みいただきありがとうございます。


第四章は、白雪しおり初めてのコラボ配信です。


個性豊かなVTuberたちとの雑談を通して、猫田にゃこらが少しずつ変わっていく様子を楽しんでいただけたら嬉しいです。


それでは、どうぞ。

 あれから数日が過ぎた。


 白雪しおりの登録者数は、一万人に届きそうになっていた。


 そのことを俺が知ったのは、いつものように陽子から聞かされた時だった。



 昼休み。


 大学の学食は今日も学生で賑わっていた。


 俺はいつものようにカレーライスとサラダを持って席へ座る。


 カレーライスを一口。


 続いてサラダも、そのままスプーンですくう。


 少し食べにくい。


「やっぱりフォーク持ってくればよかったかな」


 そう思った時だった。


「いたいた」


 聞き慣れた声がした。


 振り向くと、西園寺陽子がラーメンの載ったトレーを持って立っていた。


「ここ、いい?」


「どうぞ」


 遠慮のない様子で向かいへ座る。


「今日もラーメンか?」


「今日もカレーだね」


「楽だからな」


「私も」


 そう言って割り箸を割る。


 少し食べ始めたところで。


「ねぇ」


「ん?」


「また来てるよ」


「何が?」


「コラボのお誘い」


 陽子はスマホをこちらへ向ける。


 SNSのDM画面をスクロールしてみせる。


 そこには白雪しおり宛のメッセージが大量に並んでいた。


『よろしければ雑談コラボしませんか?』


『ゲーム配信でご一緒できれば嬉しいです』


『企画に参加してみませんか?』


 似たような文面がいくつも届いている。


「こんなに来るものなのか?」


「人気が出るとね」


「やはり俺にはよく分からないな」


「まあ、智也は数字見ないからね」


 陽子は呆れたように笑う。


「今どれくらいなんだ?」


「もうすぐ一万人」


「……えっ、そんなにいるのか?」


「そんなにいるのよ」


 数日前に五千人だと聞いたばかりだったはずだ。


 どうにも実感がない。


「で」


 陽子はスマホを伏せる。


「そろそろ、一回くらいコラボやってみない?」


「コラボ」


「他のVTuberさんと一緒に配信すること」


「それは分かる」


「ほんとに?」


「なんとなくな」


「絶対分かってない顔してるし」


 陽子はそう言って笑った。


 みんなで集まって配信するのかと思ったが、

 オンラインで気軽にできるものらしい。


「例えばゲームを一緒にやるとか、

 雑談するとか、歌うとか、色々あるんだけど」


「歌は無理だな」


「知ってる」


 即答だった。


「だから雑談」


「雑談なら今もやってるだろ」


「一人じゃなくて、何人かで話す企画ね。

 バラエティ番組みたいなものよ」


 陽子はカバンからノートパソコンを取り出すと、

 何かのファイルを開いて画面をこちらへ向ける。


 そこには簡単な企画書のようなものが表示されていた。


『夜のおしゃべり会』


「これ、いつ作ったんだ?」


「昨晩」


「早いな」


「思いついたらやるタイプだから」


 陽子は得意そうに言う。


 企画書には、参加者候補とテーマが書かれていた。


 白雪しおり。


 黒下アラシ。


 宝船マリーナ。


 Crow the BOOLET。


 そして。


 猫田にゃこら。


「最後」


「うん」


「最初から入れるつもりだったな」


「もちろん」


 陽子は悪びれもせずに言った。


「どんな人達なんだ?」


「まず黒下アラシさんは格闘ゲーム配信の人。

 犬系VTuber。テンション高めね」


「犬系?」


「黒柴っぽい感じかな、狼男みたいなキャラね」


「なるほど、なんとか系って配信者多いよな」


「そうね、配信文化なんじゃない」


 陽子は少し苦笑いする。


「次の宝船マリーナさんは、雑談と人生相談が多い人。

 大人のお姉さん系で、見た感じ弁天様がモチーフかな」


「縁起良さそうだな」


「そこも含めて強い」


「次のCrow the BOOLETさんは、海外でゲーム配信をしているVTuberさん」


「えっ、海外の人もいるの?」


「びっくりした?安心して、日本語も普通に話せるし、ゲーム話がかなり強い」


「へぇ」


 陽子は画面をスクロールする。


 それぞれのアイコンと簡単なプロフィールが表示されていた。


 たしかに全員違う方向性に見える。


 ゲームに詳しい人。


 格闘ゲームが好きな人。


 落ち着いた大人の人。


 そして猫耳の妹。


「テーマは?」


 これね、と言って企画書をスクロールする。


「配信を始めた理由」


「配信で笑った出来事」


「配信していて嬉しかったこと」


「普通だな」


「普通が一番いいのよ」


 陽子は真面目な顔で言う。


「猫田にゃこらさんを特別扱いしたら意味ないでしょ」


「そうだな」


「だから、普通の座談会に呼ぶ」


「他の人もいるから、にゃこらちゃんだけに注目が集まりすぎることもない」


「でも、話せるタイミングは作れるから、

 結衣ちゃんを引き出せるチャンスはある」


 陽子は企画書を指差した。


「そして、ここ」


挿絵(By みてみん)


 そこにはこう書かれていた。


『配信していて嬉しかったこと』


「たぶん、ここで何か変化が起こると予想してる」


「何か?」


「結衣ちゃんが、今どういう気持ちで配信してるのか」


 陽子は少しだけ声を落とす。


「前は数字しか見ていなかった」


「でも、この前は『楽しいです』って言った」


 俺は何も言わなかった。


 確かに、あのコメントは覚えている。


『白雪しおりさんの配信、楽しいです』


 数字ではない。


 再生数でもない。


 登録者でもない。


 ただ、楽しい。


 結衣はそう言った。


「だからさ」


 陽子が言う。


「今度は、もう少し引っ張り出せる気がする」


「引っ張り出す?」


「猫田にゃこらじゃなくて」


 陽子は少し笑った。


「結衣ちゃんを」



 数日後。


 コラボの話は想像以上にあっさり決まった。


 Crow the BOOLETさんからは、ゲームの話ならぜひ、という返事が来た。


 黒下アラシさんは、面白そうだから出る、と一言。


 宝船マリーナさんは、若い子たちのお話を聞けるなら嬉しいです、と丁寧な返事をくれた。


 そして猫田にゃこらからは。


『私なんかでいいんですか!?』


『ぜひお願いします!』


『本当にありがとうございます!』


 という、かなり慌てたメッセージが届いたらしい。


 陽子はそれを見て笑っていた。


「かわいい」


「笑うな」


「いや、かわいいでしょ」


 否定はできなかった。



 コラボ当日。


 夜。


 いつものゼミ室。


 今日は普段より機材が多い。


 画面にはコラボ配信用のレイアウトが表示されていた。


 横一列に並ぶ五人のVTuber。


 中央に猫田にゃこら。

 

 向かって左側に白雪しおり。

 

 その左にCrow the BOOLETさん。


 猫田にゃこらの右側には黒下アラシさん。


 そして一番右は宝船マリーナさん。


「今日は人数多いな」


「五人だからね」


「俺は何をすればいい?」


「司会」


「できるのか?」


「できなかったら私が横で指示出す」


 陽子はホワイトボードを机の横に置いた。


 そこには今日の流れが簡単に書かれている。


 一、挨拶。


 二、自己紹介。


 三、テーマトーク。


 四、感想。


 五、終了。


「普通だな」


「だから普通が一番いいって言ってるでしょ」


 陽子はヘッドホンを付け、ボイスチャットの確認を始める。


 次々と参加者の声が聞こえてきた。


『聞こえてますかー?』


 元気な声。


 黒下アラシさんだ。


『はい、こちら聞こえていますよ』


 落ち着いた声。


 宝船マリーナさん。


『Hai、こんにちは。オッケーです』


 Crow the BOOLETさん。

 

 海外の配信者さん。少しカタコトが交じるものの、日本語が上手い。


 そして。


『あ、あの、猫田にゃこらです! 聞こえてますか!?』


 少し慌てた声。


 結衣だった。


 俺は一瞬だけ息を止める。


 だがすぐにマイクへ向かった。


「はい」


「皆さん、聞こえています」


「本日はよろしくお願いしますね」


 白雪しおりの声が、ボイスチャットに響く。


 陽子が横で小さく頷いた。


 配信開始まで、あと三分。


 画面の端に、コメント待機中の文字が増えていく。


『待機』


『楽しみ』


『豪華メンバー』


『マリーナさんもいるんだ、いつも観てます!』


 俺は深く息を吸った。


 今日の目的は一つだけだ。


 猫田にゃこらを助けることではない。


 結衣に、もう一度思い出してもらうこと。


 配信は、楽しいものなのだと。


 陽子がマウスをクリックする。


 いつもの配信開始の合図。


 画面の右上に。


【LIVE】


 の文字が表示された。


「こんばんは」


「白雪しおりです」


「本日はお集まりいただき、ありがとうございます」


 コメント欄が一気に流れ始める。


『こんばんは!』


『待ってました!』


『コラボだ!』


『豪華!』


『Crowさん!』


『アラシさん!』


『マリーナさん!』


『にゃこらちゃん!』


 白雪しおりは微笑む。


「今日は皆さんと、ゆっくりお話ししていこうと思います」


「よろしくお願いしますね」


 順番に自己紹介が始まる。


 黒下アラシさん。


「こんばんはー! 今日はテンション高めでいくぞー!」


『アラシきたー!』


『元気だw』


 場が一気に明るくなる。


 続いて宝船マリーナさん。


「皆さん、こんばんは。今日は若い皆さんのお話を聞けるのを楽しみにしています」


『マリーナさん癒やし』


『落ち着く』


 Crow the BOOLETさん。


「Hello!Hello!Hello!Hello!I'm Crow!ゲームのお話が大好きなので、今日はよろしくお願いしますね」


『この人知ってる、すっごいゲームに詳しい人でしょ!』


『Crowさん!』


 コメントが流れる。


 そして。


「え、えっと……」


 少しだけ間が空く。


「猫田にゃこらです……」


「よろしくお願いします!」


 コメント欄。


『よろしくー』


『こんばんは!』


『にゃこらちゃんだ』


 もちろん反応はある。


 だが他の三人ほど勢いはない。


 結衣の声も、少し硬かった。


挿絵(By みてみん)



「それでは最初のテーマです」


 白雪しおりが話を進める。


「皆さんがVTuberを始めた理由を教えてください」


 最初はCrowさん。


「私は昔からゲームが大好きで」


「好きなゲームを語れる場所が欲しかったんです」


 自然な笑顔。


 コメント欄も盛り上がる。


 次にアラシさん。


「格闘ゲーム仲間が欲しかった!」


「あと対戦相手っしょ!」


『分かるw』


『それ大事w』


 笑いが起きる。


 続いてマリーナさん。


「私は、お話を聞くのが好きだったんです」


「誰かが少し元気になって、帰ってくれたら嬉しいなと思って」


『優しい』


『マリーナさんらしい』


 コメントが流れる。


 そして。


「猫田さんは?」


「わ、私ですか?」


「はい」


 白雪しおりは静かに頷く。


 少し考えてるようだ。


「えっと……」


「最初は、有名なVTuberさんを見て憧れたんです」


「私も、こんなふうになれたらいいなって」


 コメント欄。


『分かる』


『キッカケはみんなそんな感じだよね』


「だから……」


「登録者を増やす方法とか」


「再生数が伸びる方法とか」


「そういうのばっかり調べてました」


 ここで少し苦笑い。


『あるある』


『最初はみんなそうw』


 白雪しおり


「そうだったんですね。」


 否定はしない。


 そして猫田にゃこらは少し笑って。


「でも……気付いたら」


「数字ばっかり見るようになってました」


 少し寂しそう。


 ここでも何も言わない。


 代わりに、宝船マリーナ。


「私も最初はそうでしたよ。」


 黒下アラシも。


「俺も再生数ばっか見てた!」


 そしてCrowさん。


「私も毎日見てた(笑)」


 全員そうだった。


 だから結衣だけじゃない。


「えっ?」


そしてマリーナは続ける。


「でもね。」


「続いたのは、数字を見なくなってからでした」


 黒下アラシ。


「ゲームやって笑ってたら増えてた(笑)」


 Crow。


「好きなゲームを語っていたら、同じゲームが好きな人が集まってきた」


 そして猫田にゃこらは。


「……そうなんですね。」


 そこで言葉が止まった。


 一瞬だけ静かになる。



「では次のテーマです」


「最近、一番笑った出来事」


 アラシさんが真っ先に話し始めた。


「この前ね!」


「配信中に別なハードの対戦ゲームの配信したらさ、

 決定ボタンが違って間違って対戦中に退出しちゃった」


 一同爆笑。


『あるあるw』


『それ分かるw』


 Crowさんも笑う。


「あるねー、間違ってセーブデータを消したこともあるよ」


『それもっとダメw』


 コメント欄も盛り上がる。


 マリーナさん。


「私は配信を切ったつもりで五分くらい独り言を話していました」


「えぇ!?」


 猫田にゃこらが思わず大きな声を出す。


 また一同笑う。


「猫田さんは?」


 マリーナが優しく話を振る。


「私……」


 少し考える。


「この前、深夜まで配信やってて……」


「お腹空いてポテチ食べてたんだけど」


「気づいたら三袋あけちゃってました」


 一瞬だけ静かになる。


 次の瞬間。


『かわいいw』


『想像できるw』


『それ分かるw』


『猫田ちゃんww』


 コメント欄が一気に流れた。


「えっ?」


 猫田にゃこらが戸惑う。


「そんなので笑うんですか?」


『そこがかわいいw』


『正直で好き』


 コメントがさらに増える。


 にゃこらは困ったように笑った。


「そんなに面白いことじゃないと思うんだけど……」


「そこがいいんですよ」


 マリーナさんが微笑む。


「飾っていないお話だから」


「そうそう!」


 アラシさんも続く。


「俺なんか失敗談ばっか話してるぞ!」


「それでいいんですか?」


「いい!」


 即答だった。


「夜は誰だってお腹すくよねー!」


 笑いが起きる。


 猫田にゃこらも思わず笑ってしまう。


「あはは…」


 その笑い方は。


 数字を追いかけていた猫田にゃこらではなく。


 高校へ入る前。


 家で何気ない話をして笑っていた結衣そのものだった。


 その様子を。


 白雪しおりは静かに見つめていた。


 横では陽子がモニターを見ながら、小さく頷いている。


(出てきた)


 そう思った。


 ようやく。


 猫田にゃこらの中から。


 結衣が少しだけ顔を出し始めていた。



「それでは最後のテーマです」


 白雪しおりがコメント欄へ目を向ける。


「皆さんが、配信をしていて一番嬉しかったことを教えてください」


 Crowさんが笑う。


「私は難しいゲームをクリアした時かな」


「コメント欄のみんなと一緒に喜べた時が、一番嬉しかった」


『確かに!』


『配信ならではだよね』


 続いてアラシさん。


「大会で優勝した時!」


「チャット欄がお祭りになってさ!」


『さすが!』


『凄い逆転もあったよな』


 これにはコメント欄も盛り上がる。


 マリーナさんは少し考えてから微笑んだ。


「私は、『今日も来ました』って言われることですね」


「それだけで、また頑張ろうって思えるんです」


 その言葉に、猫田にゃこらが小さく反応した気がした。


「……」


 その変化を見逃さなかった。


「猫田さんはどうですか?」


「えっ、私ですか?」


「はい、ぜひ聞かせてください」


 少しだけ間が空く。


 以前の結衣なら、


『登録者が増えた時』


 そう答えていたかもしれない。


 でも。


「あの……さっきも話したけど」


「私、有名なVTuberさんに憧れて」


「登録者が増えて、一歩でも近づけたら嬉しいって思ってました」


 少し笑う。


「でも…今日、みなさんとお話して」


 一瞬だけ言葉を探す。


「こんなふうに、みんなとお話しするだけでも楽しいんだって」


「それで……」


「『楽しいです』って言ってもらえた時」


「私、本当に嬉しかったです!」


挿絵(By みてみん)


 一瞬だけ静かになる。


 コメント欄が、一気に流れ始めた。


『かわいい!』


『猫田ちゃん応援する!』


『登録しました!』


『また配信見に行く!』


『癒やされる!』


 猫田にゃこらは驚いたような声をあげる。


「え?」


「え?」


 戸惑う一言に、少しだけ笑った。


「ほら」


「リスナーさんも、そう言っていますよ」


「猫田さんのお話を聞くの、とても楽しいと思います」


 猫田にゃこらは、小さく呟く。


「……ほんとだ」


 その言葉は、とても自然だった。



 その後の雑談では、猫田にゃこらは自分から話すようになっていた。


 ゲームで失敗した話。


 学校で友達と笑った話。


 好きなお菓子の話。


 アラシさんと格闘ゲームの話で盛り上がり。


 Crowさんへ、おすすめのゲームを質問し。


 マリーナさんとは、最近寒くなってきたという話で笑い合う。


 コメント欄も。


『猫田ちゃん面白い!』


『今日めっちゃ笑ってる!』


『この雰囲気好き!』


『またコラボしてほしい!』


 と、今まで以上に盛り上がっていた。


 もう。


 そこにいたのは、数字ばかり気にしていた猫田にゃこらではなかった。


 配信を楽しんでいる、一人のVTuberだった。



「それでは、そろそろお時間ですね」


 静かに締める。


「今日は本当にありがとうございました」


 出演者が順番に挨拶する。


「ありがとうございました!」


「また遊びましょう!」


「今日は楽しかったです!」


 最後に猫田にゃこら。


「今日は、本当にありがとうございました!」


「すっごく楽しかったです!」


 コメント欄。


『また見たい!』


『最高だった!』


『猫田ちゃんかわいかった!』


『また来ます!』


 白雪しおりは微笑む。


「それでは皆さん、おやすみなさい」


 配信が終了した。



 Discordには、出演者だけが残っていた。


「お疲れさまでしたー!」


「ありがとうございました!」


 それぞれ笑いながら話している。


 アラシさんが言う。


「猫田ちゃん、途中からめっちゃ喋ってたじゃん!」


「最初は緊張してたけどね!」


 Crowさんも笑う。


「途中から楽しそうだった」


 マリーナさんも優しく頷く。


「笑った声がとても素敵でしたよ」


 猫田にゃこらは少し照れながら笑った。


「そ、そうでしたか?」


「全然気付いてませんでした……」


 少しだけ沈黙が流れる。


 そこで。


 静かに口を開いた。


「猫田さん」


「はい?」


「今日は」


「配信を楽しめましたか?」


 一瞬だけ、誰も喋らなかった。


 猫田にゃこらは少しだけ考える。


 そして。


 笑った。


「はい!」


「すっごく楽しかったです!」


 その声には、迷いがなかった。


 白雪しおりも、小さく微笑む。


「それなら、良かったです」


 説教もない。


 アドバイスもない。


 ただ、一つだけ確認した。


 それだけで十分だった。



 通話が終わる。


 ゼミ室には静けさが戻ってきた。


 陽子はヘッドホンを外し、大きく息を吐く。


「見た?」


「何を?」


「途中から」


「猫田にゃこらじゃなかった」


 俺は少し考える。


 そして静かに笑った。


「ああ」


「昔の結衣だった」


 陽子も嬉しそうに笑う。


「やっと戻ってきたね」


 俺はモニターを見る。


 そこには、静かに微笑む白雪しおりが映っていた。


 この役目も、もうすぐ終わる。


 そんな気がした。


第四章をお読みいただき、ありがとうございました。


今回は初めて複数のVTuberが集まるコラボ回でした。


賑やかな配信の中で、猫田にゃこらが少しずつ肩の力を抜き、自分らしく話せるようになっていく様子を書いてみました。


白雪しおりはあえて多くを語らず、「気付くきっかけ」を作る役に徹しています。


そして、いよいよ次回は最終章。


白雪しおりと猫田にゃこら、二人だけの最後の配信です。


最後までお付き合いいただけましたら幸いです。


Special Thanks

今回、海外VTuber「Crow the BOOLET」さんご本人より、作中へのゲスト出演をご快諾いただきました。

この場をお借りして、心より感謝申し上げます。

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