第十話 ごほうびのご飯と、みんなの女子会!
アイちゃんと二人で、初めてのお給料をチャリンチャリンって鳴らしながら、シャルロット様のおうちへ帰ってきたよ。
小川のほとりにある木のおうちにつく頃には、あたりはもうすっかり夜になって、静かに更けていたの。
草むらからは、夜の虫たちがリーンリーンってすっごく綺麗な声で鳴いていて、小川の上には、ピカピカ光る緑色の蛍がふわふわ、優しく飛んでいるのが見える。
「ただいまーー! シャルロット様、フェルくん!」
私が手を振って近づくと、お庭の暗闇の中から、真っ白で大きなフェルくんがフンスとお鼻を鳴らして近づいてきたの。
「む、モカ、ようやく帰ったか! 遅いぞ、待ちくたびれたわ。早く、あの『はんばーぐ』とやらを我にくれ! いや、美味いものならなんでもいい、早くくれ!」
「もーー、フェルくんったら、相変わらず食いしん坊さんなんだから!」
キリッとしたカッコいいお顔のまま、よだれをダラダラ流して急かしてくるフェルくんを見て、私とアイちゃん、それにシャルロット様もウフフって一緒にくすくす笑っちゃった。
「よしよし、今ね、お仕事がんばってたくさんお金をもらってきたからね! さっそくジャングル市場で美味しいものを出してあげる!」
私は心の中で『ジャングル市場、ひらけごまー!』って念じて、ピカピカ光る画面を出したの。
今日いただいたばかりのホカホカのバイト代を、画面の横のトレイにチャリンチャリンって全部入れると、残高の数字がびゅーーんって増えて、お買い物がたくさんできるようになったよ!自分の力で稼いだお金でお買い物するの、すっごく気持ちいいなぁ!
「フェルくんには、いつものアツアツのハンバーグをたくさんね! それっ、ぽち!」
ポフッと届いた段ボールから、湯気のあがったハンバーグをいくつもお皿に出してあげると、フェルくんは待ってましたとばかりにがががっとかぶりついたの。
「美味い、美味い! やっぱりモカの出す『はんばーぐ』は最高だぞ! むしゃむしゃ、もぐもぐ!」
フェルくんが夢中でご飯を食べるのを見ながら、私たちはお庭に面した縁側に三人で並んでちょこんと座ったの。
「それじゃあ私たちは、日本の美味しいお菓子で女子会をしよー!」
私はジャングル市場の画面をもう一度ぽちぽちして、みんなで食べるためのお菓子をたくさん注文したんだ。
アイちゃんが大好きなポッキーに、チョコレート、炭酸シュワシュワのコーラ。そして、おばあちゃん子だった私が大好きな、日本茶にすっごくよく合う甘くて美味しい高級なお羊羹とお煎餅。
ポフッと届いた段ボールを開けると、夜のすずしい空気の中に、一気に「懐かしい日本の匂い」が広がったの。
「わあああっ! 懐かしのポッキーだ! モカちゃん、 ありがとーー!」
「まぁまぁ、これは羊羹ですのね……。あちらの世界にいた頃、よくお茶と一緒にいただいたものですわ。本当に懐かしいお味ですこと」
アイちゃんはポッキーをサクサク食べながらコーラをゴクゴク飲んで大はしゃぎだし、シャルロット様は温かい緑茶をずずっとすすりながら、お羊羹をすっごく上品に口に運んで、ふんわりと嬉しそうに目を細めているよ。
お外では、蛍の光に照らされながら、フェルくんがよだれをポタポタ垂らして「美味い美味い!」ってハンバーグをバク付いている。
それを縁側からみんなで眺めながら、お菓子を食べて、温かいお茶を飲む。
そんなフェルくんの喜ぶ顔や、隣で優しく微笑むシャルロット様、楽しそうに笑うアイちゃんの横顔を見つめていたら、なんだか胸の奥が急にツーンとして、これまでの記憶が視界の端っこからじわぁって溢れ出してきちゃったの。
地球にいた頃の私は、いっつも一人ぼっちだった。
おうちに帰ってもお父さんは遠いところで別居していていないし、お母さんもお仕事で忙しくていつもいない。広いお部屋の端っこで体育座りをして本を読みながら夜を待つのが、私の当たり前。
小学校のときに大好きだったおじいちゃんとおばあちゃんが死んじゃってからは、私の頭を優しくなでてくれる人なんて、世界中どこを探してもいなくなっちゃったんだ。
学校の教室でも目立たないように、息を潜めるように小さくなって、想像の世界だけが、私の心を優しく守ってくれる唯一の逃げ場所だったんだ。
だけど――このエデン村は、地球のあの冷たい場所とは全然ちがうの。
おうちに帰れば、大切な家族のフェルくんがいる。
お店に行けば私の拙いお給仕を「がんばれ」って、にこにこ笑顔で見守ってくれる村のみんながいて、背中を押してくれるクリス支配人やアイちゃん、シャルロット様がいる。
誰の役にも立てていない気がして寂しかった私を、こんなにたくさんの人が笑顔で迎えて、必要としてくれているんだもん。
エデン村には想像の世界に逃げ込まなくたって、私の目の前には、こんなに優しくてあったかい、本物の「私の居場所」がちゃんとあるんだ。
「ねぇ、モカちゃん、明日もお仕事がんばろうね!」
「うん! 私、もっともっとがんばっちゃう!」
虫の声を聞きながら、私はアイちゃんとシャルロット様と顔を見合わせて、思いっきり笑い合ったんだ。




