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第九話 はじめてのお仕事、ドタバタ大作戦!

「涼風モカです! 今日から一生懸命がんばりますので、みなさんよろしくお願いしますっっ!!」


食堂のみんなに元気いっぱい挨拶をしたあと、アイちゃんが私の手に、ちっちゃなノートとペンをぽんと握らせてくれたの。


「モカちゃんナイス挨拶! じゃあさっそく、あっちの丸テーブルのオーダーを取ってきて!」


「えっ、も、もう行くの!? ひぇぇ〜、緊張するよぅ……!」


私は心の中で心臓をバクバクさせながら兵士さんたちが座っているテーブルへ、おそるおそる近づいていったの。


地球にいた頃は、こういう強そうな人たちが怖くて、いっつも教室の端っこで小さくなっていたんだよね。

でも、アイちゃんが綺麗にしてくれた黒髪のリボンをきゅっと触って、――私は勇気を出したんだ。


「お、お待たせしました……っ。お、オーダーを伺います……!」


「おおっ、モカちゃんが来てくれたぞ!」

「緊張しなくていいぞぉ、ゆっくりで大丈夫だからな!」


私がカチコチになりながらノートを構えると、兵士のお兄さんたちはすっごく笑顔で、優しく注文を教えてくれたの。


「じゃあ、この店特製の大盛り肉野菜炒めをひとつと、冷たいエールを大ジョッキで頼むわ!」


「はいっ! お肉とお野菜炒めと、大ジョッキですね! ありがとうございますっ!」


私が元気よくお返事をすると、みんなが「うお〜、可愛いなぁ!」ってまたまた大はしゃぎしてくれたの。なんだか、教室の端っこじゃなくて、みんなの真ん中にいるみたいで、胸の奥がぽかぽかしてきちゃう。


――でもね、お仕事はそんなに甘くなかったんだよ。


厨房から出てきたおっきなお皿にのったお肉料理と、なみなみ注がれた大ジョッキをトレイにのせて持った瞬間――。


「う、うわわわ……っ! お、重たーーーいっ!!」


腕がプルプル、足もガクガク。異世界のジョッキとお皿って、まじで信じられないくらい重たいの!

私がひっくり返りそうになりながらフロアを歩いていると、さっきのテーブルの兵士さんたちが、あわててお皿を受け取ってくれたんだ。


「おいおい大丈夫か!? ほら、持つよ!」

「モカちゃん、がんばれよ!」

「すみません……ありがとうございますぅ……!」


みんな優しく応援してくれて、私はうれしくて涙が出そうになっちゃった。

そんな風に、私がフロアをパタパタ走り回ってお給仕をしていると、一人の若い冒険者のお兄さんが、ニヤニヤしながら私のスカートの後ろに手を伸ばしてきたの。


「へへっ、モカちゃん可愛いなぁ。ちょっと触らせて――」


「こらあぁぁぁーーーっっ!! 何しようとしてるのよっっ!!」


――その瞬間!

後ろから、もの凄い勢いでアイちゃんがすっ飛んできて、お兄さんの手をパシーーーンッ! って引っぱたいたの!


「モカちゃんにいやらしいことしようとしたら、クリス支配人に言って、一発でこのお店からつまみ出してもらうからねっっ!?」


「う、うわぁっ! クリスさんって……す、すまん、ゆるしてくれ……!」


アイちゃんにめちゃくちゃ怖いお顔でピシッと叱られて、お兄さんは頭を抱えてしょぼーんとしちゃった。わあぁ……アイちゃん、まじで頼もしすぎるよー! やっぱり陽キャの突撃パワーって凄いなぁ。


そして、そのすぐあとの事。

私が空いたお皿を片付けようとして、トレイの上にのせたとき、手がすべって――。


――ガラガラガラッ! パリーンッ!!


食堂の中に、すっごくおっきな音が響き渡っちゃった。お皿が床に落ちて、粉々に割れちゃったの。


「あ…………っ!」


私は一瞬で頭が真っ白になっちゃった。

どうしよう、初めてのお仕事なのに、お皿を割っちゃった。地球でもバイトしたことないのに、大失敗しちゃった。


怒られる、大きな声で怒鳴られちゃう、やっぱり私なんかダメなんだ……。


胸の奥がぎゅーって苦しくなって、涙がポロポロ溢れそうになった、その時――。


「あらあら、大丈夫よぅ、モカちゃん!」


奥から、超マッチョでオネェのクリス支配人が、ウフフって上品に笑いながらほうきとちり取りを持って出てきてくれたの。クリス支配人はあわてる様子もなくて、割れたお皿を片付けながら、私の頭を分厚い手で優しくなでてくれたんだ。


「失敗するのなんて、当たり前よぉ。初めてなんだもの。なんでも、何度でも失敗しなさい」


「クリス、さん……ぅ、ぐすっ……」


「後の始末は、ぜーんぶ私に任せればいいから。モカちゃんは、笑顔でお客さんのところへ戻りなさい、ね?」


クリス支配人のすっごく優しくて頼もしい言葉を聞いて、私の胸の奥の苦しいのが、すーーっと消えていったの。


失敗してもいいんだ。

おばあちゃんみたいなシャルロット様も、お姉ちゃんみたいなアイちゃんも、お母さんみたいに頼れるクリス支配人も、みんなが私のことを優しく守ってくれているんだ。


「はいっ……! 私、もっともっとがんばります!」


私は涙をゴシゴシ拭いて、最高の笑顔でお仕事を続けたよ。


そして――夜になって、ようやく一日のお仕事がぜんぶ終わったの!

更衣室でお着替えを済ませると、クリス支配人が「はい、これ今日のモカちゃんの分ね!」って、小さな革の袋をくれたんだ。

袋を開けてみると、中にはピカピカ光る銀貨と銅貨がチャリンって入っていたの。


「うわあぁ……! これ、私の、初めてのバイト代……!」


地球にいた頃は、ずっとお部屋の端っこにいて、誰の役にも立てていない気がしていた私。

でも、自分が一日中がんばって働いたことが、こうやって目に見える本物のお金っていう「成果」になるのが、すっごくすっごく嬉しかったの!


「やったねモカちゃん! 初お給料おめでとー!」

「うん! ありがとうアイちゃん!」


私は初めてもらったお給料を、胸の前でぎゅーーっと大切に握りしめて、アイちゃんと二人で顔を見合わせて思いっきり笑い合ったんだよ!

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