第七話 はじめてのメンセツ!
「クリスさーん! 新しいバイトの女の子、連れてきたよー!」
アイちゃんが元気よく扉を開けて叫ぶと、奥の方から男の人の声が聞こえてきたの。
「ハ〜イ! あら、アイちゃん! 新しい子を連れてきてくれたのねぇ! いらっしゃ〜い!」
奥のドアからバタンと勢いよく出てきた人を見て、私はおめめが点になっちゃった。
茶色の髪の毛をきれいにオールバックにしていて、お口のまわりとあごには、まるで貴族のおじ様みたいに綺麗に切りそろえられたおヒゲが生えているの。
お顔はすっごくダンディで、体は服の上からでもわかるくらい、胸板が厚くて腕も太い、かなりの超マッチョ!
なのに、身のこなしがすっごく上品で、お口に手をあててウフフって笑う、完璧なオネェの支配人さんだったんだよ!
「支配人のクリスさんだよ! クリスさん、この子はモカちゃん!」
「まぁ! モカちゃんっていうのね! よろしくね、ウフフ!」
アイちゃんはさすが陽キャ、クリスさんとも「イェーイ!」って感じで、自然にハイタッチとかしちゃってる。距離の縮め方がまじでプロすぎるよぅ。
それに比べて私は、目の前のクリスさんの迫力に完全に圧倒されて、またまたカチコチの石みたいになっちゃった。
アイちゃんが小声でこっそり教えてくれたんだけど、クリスさんは昔、冒険者でタンクっていうお仕事をしていて、冒険者のランクでもかなり上の方にいた、すっごい実力者らしいの。その頃からずっとオネェだったんだって。
確かに、これだけ筋肉モリモリなら、もし食堂で悪い暴漢が大暴れしても、片手でひょいっとつまみ出してポイしちゃいそうな頼もしさがあるよ。
「ほら、モカちゃん、クリスさんが挨拶してくれてるよ!」
「ひぇっ! は、初めましてっ! 涼風モカです! アルバイトの面接に来ました、よろしくお願いします!」
私は頭が真っ白になりながら、ジャージの裾をぎゅっと握りしめて、ペコペコとお辞儀を繰り返したの。
クリスさんは、そんな私を頭のてっぺんから足の先まで、じーーーーっと見つめていたんだけど、次の瞬間――。
「まぁ! よろしくね、モカちゃん!」
ガシッ!! と、クリスさんは自分のおっきくて分厚い両手で、私の両手をぎゅーーーっと力強く握りしめてきたの!
「ひゃうっ!?」
あまりの突然のことに、私の心臓はドッキン、バクバク! って口から飛び出そうなくらい激しく跳ね上がっちゃった!
筋肉モリモリの腕に引っ張られて、ダンディなおヒゲが目の前に迫ってくるんだもん、まじでびっくりして頭がフリーズしそうだよぅ。
だけど、クリスさんは私の手がカタカタ震えているのを、すぐに察してくれたみたい。おヒゲの奥の綺麗な瞳をふんわりと和らげて、すっごく優しい声で話しかけてくれたんだ。
「ふふ、大丈夫よ。初めてのことだもの、誰だって緊張しちゃうわ。ゆっくりでいいから、がんばりなさい」
おっきくてあったかい両手から、クリスさんの優しさがじわ〜って伝わってきて、私のバクバクだった心臓が、不思議とすーーっと落ち着いていったの。
シャルロット様のお墨付きがあるからって最初から信じてくれて、しかもこんなに優しく励ましてくれるなんて、クリスさん、まじで見た目とのギャップがすごすぎて、頼れるお姉様って感じでかっこよすぎるよー!
「あ、ありがとうございます……っ! 私、がんばります!」
私がなんとか笑顔で答えると、クリスさんはウフフと上品に微笑んで、私の手をそっと離してくれたよ。クリスさんが優しく微笑みながら、私のお顔を覗き込んできたの。
「さっそくなんだけど、モカちゃんはいつから働けるかしら?」
「はい! 私、今すぐでも大丈夫です!」
クリスさんの優しさにすっかり元気づけられた私は、ジャージの袖をきゅっとまくって、張り切って答えちゃった。地球では一回もバイトしたことないのに、なんだか急にやる気が湧いてきちゃったんだよね!
すると、クリスさんはお口に手を当てて、すっごく嬉しそうに声を弾ませたの。
「まぁ! 今すぐだなんて、本当に助かるわぁ! 最近はエデン村に人がたくさん増えてきちゃって、フロアがアイちゃん一人じゃ全然廻っていなかったのよぅ」
「そーんだよモカちゃん! まじで猫の手も借りたいくらい忙しかったから、すごく助かるよ!」
横でアイちゃんも、おめめをキラキラさせて大喜びしているの。そっかぁ、シャルロット様たちが作った大農園がすごいから、この村にやってくる人がどんどん増えているんだね。だから、マルク商会の宿泊所もいっつも満員で、大忙しだったんだ。
「うふふ、それじゃあモカちゃん、さっそくアイちゃんと一緒に着替えてきちゃいなさい! 忙しいけど、お給料はしっかり出すからね。がんばるのよ!」
「はいっ! がんばります!」
クリスさんから力強くエールをもらって、私はアイちゃんに引っ張られるようにして、控室へとダッシュしたの。
チートがあるのに、異世界でまさかのウェイトレスさんデビュー!
でも、自分でがんばって働いて、お給料をもらって、それでジャングル市場から大好きなお菓子を堂々とポチるんだ。そう思ったら、なんだか胸がワクワクして、緊張なんてどこかへ吹き飛んじゃったよ!




