第六十六話 チヤホヤされるの、最高すぎ。
ルミナリア教国にやってきてから、私の毎日は一言で言って「最高」だった。
「聖女ユア様! 本日の護衛を担当する聖騎士団です!」
白銀の美しい鎧を着た、モデルみたいに高身長のイケメン騎士たちが、私の前でザッと一斉に綺麗な敬礼をする。
「あーいいよいいよ、そんなの! 堅苦しいの苦手だからさ、みんなも楽にしてー」
私が手をひらひらさせてフランクに言うと、騎士たちは一瞬目を見開いたあと、なぜか感動したように深く頭を下げた。
「……なんという寛大なお心。身分の低い我らにもそのように気さくに接してくださるとは、真の聖女様に違いありません!」
(いや、ただ敬礼されるとこっちが気まずいだけなんだけどね……。まあ、みんな顔がいいから目の保養になるし、許す!)
毎日の仕事は、訓練でちょっと擦り傷を作った騎士や、転んで膝をすりむいた神殿の子供に魔法をかけるだけ。
ぶっちゃけ、元の世界ならマキロン塗って絆創膏を貼っておけば3日で治るレベルの怪我だ。
だけど私は、大袈裟なくらいに可愛く小首をかしげ、ネイルを施した指先で傷口をちょんと指さして、アイドルのウィンク並みの軽さで呪文を唱える。
「はいはい、痛いの飛んでけー☆ 『ハイ・ヒール』!」
私の指先から光が溢れ出し、傷口を優しく包み込む。光が消えたときには、傷跡はツルツルになっているのだ。
「おおお……! み、右腕の擦り傷が消え去っている……!」
「神の御業だ! 聖女ユア様の愛の光が、我が不浄なる肉体を浄化してくださったのだー!」
マッチョな騎士たちが大真面目に涙を流し、その場に平伏して私を拝み始める。隣では、膝の擦り傷が治った子供が「お姉ちゃん、神様なの……?」と潤んだ瞳で私を見上げていた。
(いや、ただの女子高生だけどね。っていうか肩こりまで治るの? ラッキーじゃん。まあ、みんながこれだけ喜んでくれるなら、私の承認欲求も爆上がりだし、お互いウィンウィンってコト!)
これっぽっちの手間で、周りの大人たちから「奇跡だ!」「生き神様だ!」と全力でチヤホヤされるんだから、この世界は本当にチョロい。
一応、お世話係の老神官から「ユア様、本日はこの国の300年にわたる歴史についてのお勉強を……」と分厚い本を差し出されたりもする。
だけど、そんなのつまらないし、ぶっちゃけ眠い。
「うーん、私そういう難しいのよく分かんないから、現場で頑張るタイプだし?」
そう言って小首をかしげて見せれば、老神官は「おお、座学よりも実践を重んじられるとは、なんと行動力にあふれたお方……!」と、これまた勝手に良い方に解釈して涙ぐんでくれる。
元の世界にいた頃は、クラスのトップカーストグループで、ハブられないように必死だった。
友達の愚痴に話を合わせたり、流行りの服を無理して買ったり。
でも、ここでは私が世界の中心。何をやっても許されるし、全員が私を特別扱いして、チヤホヤしてくれる。
(あのポンコツ女神、最初は焦ったけどマジで感謝だわー。こんなに楽して愛される人生があるなら、もう日本に帰らなくてもいいかも)
そんなある日、神殿の偉い人から新しい提案をされた。
「ユア様、この国には代々の聖女様が行ってきた『巡礼の旅』という伝統がございます。各地の結界を清め、民に癒やしを届ける旅です。そろそろ、その準備を始めましょう」
「へー、巡礼の旅? いいよー、行こ行こ!」
私は深く考えもせず、軽いノリで快諾した。
巡礼なんて言っても、どうせ豪華な馬車に乗って、いろんな街で美味しいものを食べて、ちょっとしたケガ人を治して回る観光旅行みたいなものに決まっている。
お気に入りの可愛いお洋服を選んで、お菓子をたくさん馬車に積み込んで。私はお気楽に、初めての「異世界ドライブ」の準備を進めていた。




